郭将軍は戦闘は大々的な勝利だと宣伝し、――
郭将軍は戦闘は大々的な勝利だと宣伝し、鄧将軍は戦闘で捕虜にしたことにして、暴君に与して人民に敵対した罪で打ち首にした。見物人たちはピエトロが首を刎ねることを望んだが、ピエトロはもう首切り人ではなく、聖フランツィウス教会の庭師に戻った。国に戻ったら、教会が朽ち果てた廃墟にならないよう、ブドウ棚の面倒を見たり、いつでも作物を植えられるよう土を作っておくことに決めたのだが、その顔は憑き物が落ちたようだった。
その後、二週間、戦線は再び膠着したが、竹細工だらけの家に設けたカラヴァッジョ大尉の執務室に新聞が届き、その紙面に古王国が革命により、新共和国――連邦の十二番目、第十二共和国になったことが大きく掲載されていた。
「沙国より先に落ちたか。でも、これで遠慮する必要はなくなった」
カラヴァッジョ大尉は十五名の部下とともに沙人街の〈茶館〉に手入れをした。〈翡翠〉を没収し、店主、店員、客の全てを竹とワイヤーで急ごしらえした牢屋に放り込んだ。数十分後には地上で最も人間を陶酔に落とし込む茶館は空っぽになり、割れた茶碗が転がっただけの廃墟と化した。店側が扉に鍵をかけたので、派手に打ち破られていて、いくつかの安屏風には威嚇射撃の穴が開いていた。
「派手にやりましたね。大尉」
アッリーゴ大尉がやってきた。
「昇進おめでとうございます。大尉」
「ほとんどあなたのおかげですよ。カラヴァッジョ大尉。それにしてもあなたは本当に優秀な憲兵ですね。憲兵であることがもったいないと思うようになりました」
カラヴァッジョ大尉は床に目をやった。小さなロケットがあった。銀製で、なかには若い沙人の娘の写真が入っていた。愛するものを思い出すためのロケットと〈翡翠〉は相当惨めな幻影をもたらしただろう。ロケットのなかの少女が死人であれば、なおさらだ。
「大尉。ひとつ、真剣な相談があります」
カラヴァッジョ大尉はロケットをカウンターに置いて、目を閉じた。
「〈叔父〉になりませんか?」
アッリーゴ大尉と向かい合う。口元にささやかな微笑みをたたえたアッリーゴはもはや階級章が意味をもたない世界の住人となっていた。
「……いつから、そんなことを?」
「あなたがここにきて、すぐです。決断力、執念深さ、土地が生み出す慣習を拒み続ける力。カリスマ。ピエトロはあなたを司祭の次に崇拝していますよ。自分ではお分かりではないでしょうが、あなたには〈叔父〉になる資質が備わっている。僕以上にです」
「〈叔父〉を倒すには〈叔父〉になるしかないわけか」
「そうです。ただ、父のような〈叔父〉になるわけではありません。古王国は既に崩壊しました。〈叔父〉は古王国の風土と癒着してこそ存在できます。新しい政体では管を引っこ抜かれた癌患者も同じです。古い〈叔父〉は倒れ、新しい〈叔父〉が生まれます。それが僕らの未来、新たな権力の発生です」
「〈翡翠〉か」
「それにカジノ。古王国島では大っぴらな賭場がありません。それにダムの建設。コンクリートは非常に金になります。もちろん、途中で古い〈叔父〉たちと抗争になるでしょう。彼らが農村に持っている水利権を脅かすでしょうから。でも、展望は無限に開けています。新共和国は僕らに活躍の場を与えるでしょう。新しい〈叔父〉として、この新勢力が行き過ぎることを止めることができる。それはただひとつ、あなたも〈叔父〉になることです」
「コンツェッタ・サリエリ」
「どなたですか?」
「おれの行動原理だ。おれは正義のために働いているんじゃない。贖罪のためだ。そして、〈叔父〉にいては、それは決してかなわない」
「じゃあ、僕らのグループには参加しないんですね」
「きみは親父さんが、古い〈叔父〉になる。どうするんだ?」
胸にめり込んだ弾丸が質問を断ち切った。カラヴァッジョ大尉はカウンターにぶつかった後、沙国風のスツールにしがみつき、立とうとしたが、また銃声がし、体が意識に逆らって、のけぞると、大尉はうつ伏せに倒れた。
誰かが大尉の体の下に靴のつま先をいれて、蹴り上げるようにして、仰向けにさせた。
銃を持っている楊がニヤニヤ笑っていた。
「郭将軍は馬鹿ですよ。政治なんかよりも〈翡翠〉のほうがずっと金になる。金さえあれば、内閣での地位なんていくらでも手に入る。時代はおいぼれよりも、若い血を呼んでるんですね。わたしたちみたいな。でも、あなたは違う。あの、頑固で愚かな将軍たちと同じだ」
白く眩んだ視界のなか、楊が向けた銃口が日食みたいに浮いていた。
バン!
眩んだ視界が色を取り戻すと、こめかみから血を噴き出す楊の顔が目の前にあった。
アンジェロ・アッリーゴが銃をしまいながら、大尉に別れを告げた。
「また、お会いしましょう。必ず会うことになるでしょう。片方が死体で、あるいは両方が死体でね」