出会い
今日はついにエペソルーラでの入学式だ
今日から新しい生活が待っていると思うと、期待と不安であまり眠れなかった
「クロ、準備は済んだのか?」
眠そうな様子の僕をみて、ベルクさんが心配そうにこちらを見ていた
「おはようございます。準備はバッチリです!」
不安を悟られないよう無理に明るく返答するが、おそらく見透かされているのだろう
「そうか。まあ、そんなに気負わず楽しめばいい。それから…」
ベルクさんはそう言いながら急に神妙な顔をする
「クロ。もし仮に、これから先理不尽に立ち向かわなきゃならんくなった時や何かを決断せねばならん時、そういう時わしは”己の正義”に従うようにしておる。」
「正義、ですか?」
「そうじゃ。大勢にとっての正義と、己にとっての正義が必ずしも一致する必要もない。とにかく、自分を信じて決断すれば、批難されることもあるかもしれんが、それでも自分だけを信じて突き進めば自ずとそれが正解の道になる。」
そう言うと、行ってこいと玄関先で見送ってくれた
僕はベルクさんからの言葉の意味を考えながら、これから通う学校へ向けて歩き出した
「やっぱり緊張するなぁ」
家を出てから1時間ほど、ようやく自身の通う学校へ辿り着き息を整える
空間転移を使えば一瞬で到着できたのだが、空間転移は超高騰技術のため万が一入学初日の学生が使用していたとなると目立ってしまうため、獣車と徒歩で学校まで辿り着いたのだ
ちなみに獣車とは、元の世界での馬車のようなもので、馬の代わりに荷車を引いているのが、四足歩行で体が大きく、龍のような顔に白い鱗で覆われた体を持つ”アルム”と呼ばれる生物だ
「新入生の方ですね?お名前をお伺いします」
正門を抜くけた先で、教員らしき女性に案内される
「あ、えっと、クロムウェルと言います」
苗字もなければ聞き馴染みのない自らの名前
気に入ってはいるがこうして正式に名乗るのは初めてだったので、不審がられないか少し心配だった
「はい。ありがとうございます!こちらが整列番号で、会場はあちらになります!」
特に名前に関して不審がる様子もなかったので、この世界では特に問題ないようで安心した
受付の女性にお礼を告げ、案内された会場へと向かう
大きなホールのような場所で、中に入ると番号の振られた椅子が規則正しく並べられており、十数人がすでに着席していた
自分の番号を確認しながら、その番号のついた席を探す
「Bの5…Bの5…」
「Bの5でしたらこちらですよ。」
「えっ?」
不意に声をかけられ思わず聞き返してしまう
見ると、声をかけてくれた女性の隣に目的の番号があった
「あ、ああ。ありがとうございます!」
「いえいえ。私はクレセア・オリビエです。」
苗字があることに疑問を持ちつつこちらも名乗る
「僕はクロムウェルです。えっと、オリビエさん…?」
「ふふ、クレセアでいいわよ。」
屈託なく笑う彼女にこちらも少し緊張が和らぐ
「じゃあ僕のこともクロって呼んでください!」
「新入生同士よろしくね、クロ!」
そう笑いかける彼女に頷きつつ、ふと周りを見るといつの間にか他の新入生たちも入場し着席していた
「えー、これより入学式を執り行います」
前方のステージに立つスーツ姿の男性職員がざわついている新入生たちを糺す
マイクなどを使っている訳でもないのに声が大きく響き渡っているのは、おそらく魔法か何かを使っているのだろう
「まずは、この学園の学長を務める”アルス・ハーランド”学長からのご挨拶です」
そう紹介されて登場したのは、白髪に白い髭を蓄えた温厚そうな老人だった
「新入生の諸君、まずは入学おめでとう。君たちはこれから多くを学び、人のため、国のために戦う術を身につけていくと思う。だが、この学園で学べるのは学業や戦闘スキルだけではない。君たちはこれから、互いに一生を共にするほどの友人、仲間、恋人、家族、そういった出会いも大いにあるだろう。この学園でそういった大切な人たちと共に、様々なことを学び、掴み、勝ち取って行ってほしい。期待しているぞ。」
学長が挨拶を終え、礼をして立ち去る頃には大きな拍手が上がっていた。
至る所から「さすがはハーランド学長だ」という声が聞こえてきたのを考えると、とても尊敬されているのだという事は伝わった
「学長、ありがとうございます。続いては新入生代表挨拶です。代表者は前へ。」
「はい!」
隣に座っていたクレセアが立ち上がりながら大きく返事をする
そのまま前方の壇上へ上がると、礼をしながら自己紹介を済ませ、堂々とした態度のままスピーチを始めた
「まずは、皆様と共にこのエペソルーラ学園へ入学できたことを心より嬉しく思います私はー」
正直、彼女のスピーチは頭に入ってこなかった。
僕と同じくらいいの年齢なのにああも堂々と人前に出て話している姿に、ただただ呆然とする他なかったのだ
その後も、教員の挨拶や今後の予定などの説明があり、ここからはクラス分け、寮の部屋分けと案内まで追えれば今日の行事は完結するようだ
クラスはA〜Cに分けられており、僕はAクラスに割り振られた
それぞれ割り振られたクラスに向かう
「あ!クロだあ!よかった知ってる人と同じクラスで!」
クラス分けを見てクレセアが声をかけてきてくれた
「よかった!僕も君と同じクラスなら心強いよ!さっきのスピーチもすごかったね。まさか新入生代表だったなんて!」
そう返すと彼女はニコニコしながら隣に並び立つ
クレセアはスピーチを終えた後、そのままステージのすぐ近くに用意された席に移動していたため話せていなかったのだ
「担任の先生、怖い人じゃなければいいよね」
などと話していると、ちょうど各クラスに担任の先生が入ってきた
「改めて、入学おめでとう。私はこのクラスを担任することになった”ラルフ・アスリアス”というものだ。これから君たちはーと長々と挨拶したいところだが、学長とオリビエ君に言いたいことは全て取られたからな。今日はこの辺にして、各寮の案内を行います。」
真面目そうな若い先生だが、ユーモアもあるようだ
「よかったあ。優しそうな先生だね!」
その意見には同意するのだが、たった今担任から話題に上げられクラス中の視線を集める彼女に話しかけられたせいで、僕まで注目されてしまう気がすることに思考が割かれてしまっていた
「さて、移動するぞー」
先生のかけ声と共に、一度中庭にみんなで移動することになった
「さて、ここが男子寮だ。これから中に案内するがくれぐれも騒がないように。」
案内されたのは、学園の敷地内の一角にある大きなアパートだった
ちなみに女子寮は離れた場所にあるとのことで、それぞれの寮は互いに立ち入り禁止とのことで別々に案内されているのだ
男子寮には、2階から3階が生徒の部屋、1階には大広間、ダイニング、大浴場が備えられており、食事は寮母さんが用意してくれるらしい
「それじゃ、さっき配った部屋割り表を見て、それぞれ自分の部屋にちゃんと荷物が届いているかを確認してきてくれ。15分後にまたここに集合するように」
その合図とともに各自部屋を確認するために解散した
自分の部屋を確認するために割り振られた部屋番号を探すため3階やって来た
目的の部屋を見つけ、中に入ろうとするとちょうど隣の部屋にも同じく生徒が入っていくところだった
「お!お隣さんはオリビエちゃんと早くもお近づきになってた君か!よろしくな!」
短髪の赤毛に制服の上からでもわかるいい体格の青年が大きな声で話しかけてきた
「あ、よろしくお願いします。僕はクロムウェル、クロって呼んでください。」
「クロか!俺はテリーだ!改めてよろしくな!」
挨拶を済ませながら互いにそれぞれの部屋の中へと入る
部屋はそこそこ大きなベットが備え付けられており、トイレやシャワーも部屋に備え付けられている
部屋の隅には僕の着替えなどが入っているカバンが置かれていた
集合時間まではまだも少しあるが、特にやることもないので部屋を後にする
部屋を出たところで、先ほどテリーの入った部屋とは反対隣の部屋から生徒が出てきた
「あ、どうも。僕はアルヘイムと言います。これからよろしくお願いします」
「僕はクロムウェルと言います。こちらこそ、よろしくお願いします。」
”アルヘイム”はテリーとは対象的に目元まである濃い茶色の髪に、メガネをかけた秀才感のある見た目だった
アルヘイムと挨拶をしているとテリーが部屋から勢いよく出て来た
「おおクロ!もう部屋は見たか!?いい部屋だな!」
大きな声で僕に話しかけながら、アルヘイムに気づく
「おっと、これは失礼!俺はテリーだ!よろしくな!」
「僕はアルヘイムです。よろしく、テリーさん」
「さんなんて付けなくていいぞ!同じ新入生だろ、アル!」
そう言いながら豪快に笑うテリーに、アルヘイムは穏やかに笑っていた
両隣がいい人たちそうでよかった。なんて考えながら3人で集合場所である大広間に向かうことにした
大広間に着くと、先生が待っており、みんなが揃うまで待機するようにとのことだった
テリーとアルヘイムは時間があるならとトイレに向かったので、僕は大広間の隅に移動し待つことにした
「おい、お前クラス分けの時に優等生ちゃんと仲良くしていたやつだよなあ?」
振り返ると、ニヤニヤとしながら僕を囲むように話しかけてくる3人組がいた
「俺の名前は”ラクティ・エアル”だ。こっちはバンザスとロイだ。」
ラクティ・エアルと名乗る人物は、金に近い髪を後ろで縛り、いかにも強気です と言わんばかりの顔つきをしていた
バンザスとロイと紹介された二人は、どちらもテリーよりもさらにいい体格をしており、逞しい腕を組みながらこちらをニヤニヤと小馬鹿にするように見ている
「あー、えっと、クロムウェルです。」
そう名乗ると、3人はさらに距離を詰めてきた
「お前、入試の時にも見かけなかったが、コネで入学してきたのか?コネ入学の分際でオリビエに取り入って近付こうなんてー」
「おいそこ!そろそろこっちに集合するように!」
エアルと名乗る青年の言葉を遮るように、遠くで先生が集合するよう呼びかけいた
「ちっ、まあいい。また今度ゆっくり話そうぜ。」
そう言うと3人は集合場所にスタスタと向かっていった
少し後から僕もみんなが集合している場所に向かうと、トイレから戻ったアルヘイムとテリーがいた
「遅かったな!クロもトイレか?」
「トイレではないと思いますよ。彼は僕らとすれ違ってっていないでしょう?それより、そろそろ移動するようですよ」
「二人とも戻ってたんだね。よし、僕らも移動しよう。」
二人に今の出来事を話そうかとも思ったが、特に何をされたわけでもなかったので、一旦その場は何も言わずにみんなの後に続いて移動した
「さて、寮の案内も終わったので今日は各自休んで明日に備えるように。明日は適正判定と軽い授業を行う。得意適性判定は今後に関わる重要なものなので絶対に遅れることのないように。では解散。」
(適性判断か…)
アスリアス先生の言う”適性判断”というのは、将来の就職先に大きな影響を及ぼすものらしく、この適性判断の結果を見て将来商人になるのか、戦闘職に就くのかを各自決めるのだという。
もちろん僕は術師として戦闘職を目指すつもりではいるのだが、万が一適性がない。なんてことになればこの先何を学びどこを目指すのかを考える必要があるため不安が募る。
(今は考えても仕方ないか…)
募る不安は拭いきれないが、考えても仕方がないのでとにかく今は先生の言いつけ通り明日に備えて早めに休むことにした。




