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「くらえ!【××××××】!!」
大きな音と共に僕の放った雷系統の攻撃術式は、またしても軽々とベルクさんの防御術式によって防がれてしまう
「ハア…ハア…ベルクさん、硬すぎますよ…」
僕はこんなにも息切れしながら必死に戦っていると言うのに、涼しい顔をしたままこちらを見やるベルクさんに苦言を呈す
「攻撃はいいんじゃがのう。何しろ付与されておる魔力量が少なすぎて活かしきれておらんわい」
そう言いながら、こちらにスッと移動し休憩を取ろうと合図を送ってくる
「そんな簡単そうに…術を発動させるのに精一杯で魔力量まで気にしてられませんよ…」
ベルクの休憩の合図を受け、共に近くの岩に腰を下ろす
「まぁそもそもわしが相手じゃどんな攻撃を撃っても効かんからのう。そろそろ上に行っても良さそうじゃがどうする?」
どうする、と言われても僕にはどうせ決定権はないのだ
「いつも通り、お任せしますよ」
少し諦めながらベルクさんにそう言うと、準備のためにと一度拠点の場所へと戻ることになった
「クロ、お前の空間転移で帰ってみるか?」
ベルクさんの提案に思わず固まってしまう
「僕の転移で…ですか?」
「そうじゃ。あれから随分練習しておる様じゃし、アンカーもあるんじゃ。やってみてもいいと思うんじゃが」
確かに、空間転移はずっと練習してきた。しかしいざ本番となるとやはり不安が残る。
「なに、失敗してもわしがカバーしてやる。まずはやってみろ」
「わ…わかりました…」
ベルクさんからの提案を受けて、ついに空間転移を実行することにする
「ふう…」
深呼吸をして呼吸を整える
帰還先のアンカーを確認して、転移先の座標として術式に組み込む
これまでの練習を思い出しつつ、慎重に、丁寧に術式を構築する
「よし…行きます! 【×××××】!!!」
目を開けると、森の中に見慣れた石造りの不思議な形の小屋が目の前にある
「よかった!!!成功だ!!!」
緊張が解け、その場にヘナヘナと座り込む
「よくやった。見事な空間転移じゃ」
「ベルクさんのおかげです!ありがとうございます!!」
アンカーがあったとはいえ、我ながら完璧な術だった、と感傷に浸っている間にベルクさんは小屋の中へと入って行った
僕は今の興奮が抑えられず、少しの間座り込んだまま周りの景色を眺めていた
念願の空間転移を成功させた興奮は治らないが、ひとまずベルクさんのいる小屋に入る
中ではベルクさんが荷物をまとめ終え、床に複雑な術式を直接描いていた
見たところ、空間転移の構築式と似ているが、数段複雑だ
「ベルクさん、これが上へ転移するための術式ですか?」
僕なら術式の構築中に話しかけられても絶対に返答など出来ないが、我が師はそれくらい余裕でこなせるのだ
「その通りじゃ。完全に隔たれてはおらんとは言え、やはり次元を移動するには変わりないからの。ちと複雑な式が必要なんじゃよ」
そう言いながらも構築を完了し、描いた術式に魔力を流し込んでいる
「さて、準備はいいか?」
ベルクさんの問いかけに頷くと、それを確認しながら術式の発動に入る
「よし。では行こうかの。」
【×××××】
床の術式が魔力により強い光を放つ
どんどん光は強くなり、やがて目を覆うほどの強い光を放つ
ー風を感じ、転移したことを悟るとゆっくりと目を開ける
そこには、近くに見える巨大な木を携えた森、遠くには見たこともないくらい大きな山、そして足元を流れる川
(ん?川?)
そう。転移した先は小川の真っ只中で膝の辺りまで水に浸かっていた
「おおすまんな、座標がどうしても若干ズレるんじゃ」
そう言う本人は、ちゃっかりと自身に術式によって生み出した空気の層を纏い濡れないようにしていた
「ずるいです…ベルクさん…」
ジトっと睨みながら言うと、ベルクさんは大笑いしていた
「はっはっは!!まあそう言うな!どれ、ひとまずわしの家に移動するぞ」
言いながらベルクさんは、今度は通常の空間転移術式を展開し、二人で移動した
数年、二人で暮らした小屋からは想像も出来ないような立派な二階建ての家の前に転移し、風魔法で僕の濡れた足を乾かしながら中へ招き入れる
「老人一人で住むにはこの家は広すぎての。好きに使って構わんぞ。2階には空き部屋もある。案内しよう。」
そう言いながら、中央にある大きな階段を上がり、僕についてくるよう促す
案内された部屋は何も置いていない空き部屋で、広さは前の小屋とそう変わらなくらい広い
孤児として生活してきた僕にとっては、これが初めての「自分の部屋」となるわけだが、正直何をどうしたらいいのか分からず、入り口に立ち茫然と眺めていた
「家具などはおいおい買いに行くとしよう」
そう言うと、少し休めと言い残しベルクさんは下に降りていってしまった
とりあえず、自分の荷物をおろし窓の外を眺める
(実感は全然湧かないけど、山や森は確かに見たことないくらい壮大だ…本当に転生したんだな…)
などと物思いに耽っていると、ベルクさんから降りてこいとの声がかかった
「街へ買い出しに行くぞ。家具も買い揃えねばならんしの」
そう言うと、これを着るようにとフードのついたローブを僕に手渡してきた
よく見ると、ベルクさんも同じローブを着用していた
「これは?何かの術式も付与されているようですが」
「わしはこっちではちと名が通っておるからな。騒ぎにならんよう人避けの術式を付与しておる」
有名人は大変だな、などと考えつつ渡されたローブを着用する
「では行くぞ」
そう言うと、早速空間転移術式を発動する
ー転移先は街の路地といった風景の場所だった
海外想像通りのファンタジーな街並みで、西洋風?と言うのだろうか
レンガや石造りの建物が目立ちガラスやコンクリートといった近代的な建造物は一切ないように見える
「さて、しっかりついてくるんじゃぞ」
ベルクさんはそう言うと、呆気に取られている僕を他所にスタスタと歩き出してしまった
路地を抜け、大通りに出る
その光景に、僕は思わず息を呑む
そこに広がっていたのは、まさにファンタジー物語に出てくる街並みそのもので野菜や果物、衣服を売っているお店のほかに武具や魔力を帯びた装飾品などを置いているお店もある
人混みをかき分けながら、置いていかれまいと必死にベルクさんの後を追う
幸い、ベルクさんは身長が180センチ以上あるため見失うことはなさそうだ
などと考えていると、ベルクさんがあるお店に入る
先程の道に並んでいた屋台にような雰囲気のお店とは違い、しっかりとした建物の中に構えたこのお店には衣服の他に日用品と見られる用品が丁寧に陳列されていた
「いらっしゃいませ。何かお探しのものがございますでしょうか?」
高級そうな衣服に身を包んだ中年の男性が、丁寧な感じで話しかけてきた
「孫の服を適当に見繕ってくれんか。それと家具は2階じゃったかな?」
そう言いながら、返答も待たずに階段をスタスタと上がっていってしまった
”孫”と伝えたのは何かと詮索を避けるためなのだろう。などと考えていると、店員さんが爽やかな笑顔でこちらにやって来る
「それではお申し付け通り、お客様のお召し物を見繕わせていただきます。まずはこちらへどうぞ。」
そう言われ、案内されたのは衣服の並んだ区画の奥にあるカーテンを潜った先だった
何やら裁縫の道具やら上半身だけのマネキンのようなものやら、作りかけの服やらが置いてある
「それでは採寸をさせていただきますので、現在のお召し物をお預かりいたします」
気づくと僕は、下着姿にさせられ、体中をメジャーで測られ様々な布をあてがわれ、しばらく待つようにと元の店内へと戻された
(オーダーメイド…?ベルクさん、お金持ってるのかな…)
つい昨日まで、森の中の小屋で自給自足をしていた老人がこんな高そうなお店で買い物が出来るのかと不安になったが、今考えても仕方がないのでひとまずベルクさんのいる2階へと向かうことにした
「おお、採寸はもう済んだのか?」
2階には、大小様々な家具が並んでおり、ベルクさんは毛布やクッションの置いてあるエリアを見ているところだった
「はい。あのー、オーダーメイドなんてかなりお金がかかるんじゃ…それにこの家具だってどれも高そうなものばかり」
「つまらん心配をするな。わしはこっちでは名が通っておると言ったじゃろう。金だって十分過ぎるくらい持っておるわ」
そういうもんか。と無理やり納得させ、促されるまま今度は寝具を選ばされていた
「お客様。大変お待たせいたしました。お召し物のご用意が整いました。」
先程の店員さんが2階へと呼びにきてくれた
「流石に仕事が早いの。それと、これとこれをもらおうか。それからこれも頼む」
僕の選んだ寝具の他に、机や椅子、クローゼットなどをポンポンと購入していく
僕はというと、一階にある先程の場所まで案内されると、衣服を着せたマネキンが3体用意され、いかがでしょうかと尋ねられる
「3つあるのですが、どれが僕のなのでしょうか?」
僕の問いかけに、店員さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに爽やかな笑顔に戻る
「こちら3着全てお客様の衣服としてご用意させていただきました。お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いえ!まさか全部とは思わず、すみません」
この世界ではそういうものなのだろうか、などと思いつつ用意された衣服をよく見る
1つは、黒を基調としたセットで、今着用しているローブのようなゆったりとしたデザインとなっている
2つ目は白、黒、緑が使われており袖や裾などには刺繍が施されたデザインとなっていた
最後は、こちらも黒を基調とされており1つ目と比べて少しタイトだが、細かい装飾があしらわれたスーツのようなセットとなっている
「どうじゃ?気に入ったか?」
いつの間にか一階へと降りてきたベルクさんがカーテンを潜りながら様子を見にきていた
「どれもすごくオシャレでかっこいいいです!こんな立派な服、見たことありません!」
「はっは!そうかそうか!気に入ったようで何よりじゃ!」
僕の返答を聞き、安心したような店員さんと、満足げに笑うベルクさんを見ながら、僕は何とも言えない高揚感を覚えていた
家具や日用品は後ほどお届けします。ということなので服だけその場で受け取り、深々とお辞儀にて見送ってくれる店員さんに挨拶しつつお店を後にした




