授業3
(昨日は大変だったな。)
朝目を覚まして第一に考えることがなんとも卑屈だ。などと自分でも思うが仕方がない。
よく考えてみれば、例の災害に巻き込まれる前
マテリアルで孤児として生きていた頃に比べれば今の生活はなんて充実しているんだろう
先程の卑屈さなど消し飛ぶくらい無気力に生きていた
ほんの数年前のはずなのに今では遠い昔の知らない人の記憶にすら感じる
ベルクさんには感謝しても仕切れないな…
などと物思いに耽っていると部屋の扉が勢いよく開く
「お、鍵がかかっていなかった。 おーいクロ!寝坊か?」
扉の外には寝癖のままのテリーとそれを後ろから呆れた顔で見守るアルの姿があった
「クロさん、おはようございます。すみません。止めたのですが聞かなくて…」
「あ、二人ともおはよう。起きてたから平気だよ。」
二人に見守られながらいそいそと着替えを済ませ3人で食堂へ向かう
寮の食堂では寮母さんが全員分の食事を用意してくれており、各自で食事が取れるようになっているのだ
僕ら3人が食堂に来た頃にはもうほとんど他の生徒は残っておらず席は選び放題になっていた
「あそこにしようぜ!」
テリーが窓際の席へ向かい、僕とアルも後に続く
「しかし昨日は改めて大変でしたね。まさか鬼教官に実践形式の模擬戦を挑まれるなんて」
「遊ばれたような感じだったけどね…」
苦笑いをしながら返す
「さて、そろそろ行かないと本当に遅刻してしまいますよ。」
アルに促され、3人で校舎へと向かう
「あ、クロだー!おはよう!」
後ろから聞き覚えのある声に名前を呼ばれる
「あ、クレセア!おはよう。」
「少し寝坊しちゃったから他にも仲間がいて安心だよー」
「主席のオリビエさんですね。僕はアルヘイムです」
「俺はテリーだ!オリビエちゃんのことは俺も入学式で知っているぞ!ところで二人は知り合いなのか?」
「私はクレセア・オリビエ!クロとは入学式の時にお隣だったんだよ!二人ともよろしくね!」
3人でそれぞれ挨拶を交わし、遅刻しないよう急足で校舎へと向かう
ちなみに、4人ともみんな同じクラスなのだが入学早々寮の案内と適正診断でバラバラだったため、他の生徒も含めてきちんと顔を合わせるのは今日が初めて、ということになる
教室に着くとちょうど朝礼を知らせるチャイムが鳴り、遅刻ギリギリという時間だった
「ほら4人とも早く席に着けー」
各々返事をしながら席に着く
「よし、今日は昨日の適正診断の結果を各自に伝える。結果を参考に自らの進路をある程度絞り、その目指す進路ごとに再度クラス分けを行うのでしっかりと考えるように。」
(なるほど。クラスメイトとの親睦を深める時間がないと思ってたらここからまた再編成されるのか…)
みんなはある程度目指す場所が決まっているみたいだったけど、この世界に来たばかりの僕は全然決まっていない…
そもそもこの学校に入学するものは何かしらの目標があって入学するためクロは取り残されているような焦りを感じる
「それじゃ、名前を呼ばれた生徒は別室にて適正結果を元に俺と軽く面談を行うので、それ以外のものは大人しく待っているように。」
アスリアス先生はそう言い残すと最初の生徒とともに別室へと移動し、それを皮切りに教室内がざわざわとし始める と言ってもまだ交流がそんなにないためか、キョロキョロとするだけの者も少なくない
「クロは魔法系の戦闘職にするんだっけか?でも昨日鬼教官に一撃入れられる実力があるならギアストを目指すべきじゃないのか?」
「いやいや、忘れたんですか?彼には術式の行使というとんでもない切り札があるんですよ?絶対にマギアです。」
二人の言う”ギアスト”と”マギア”というのが、僕らの将来目指す戦闘職のことで、ギアストは武器を使った戦闘職の総称、マギアが魔法を使う戦闘職の総称だ
「二人はそれぞれハンターのマギアとギアスト志望だったよね?」
「ああ」「ええ」
「「クロはマギア(ギアスト)だよな(ですよね)!!」」
二人の圧がすごい…
(ハンターか…ベルクさんもハンターだったんだよね。)
「クロムウェル。こちらへ。」
様々なことを考えているうちに名前を呼ばれ別室へと案内される
「さて、まずはこれがお前の適正診断結果だ。参考にするといい。」
そう言って手渡された診断用紙に目を通す
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診断結果
クロムウェル
魔力総保有量:B
魔力操作:S
身体能力:A
戦闘能力:S
人格適正:C
総合評価:A +
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「診断結果は確認できたか?見ての通り、お前はマギアへの適正も、ギアストへの適正も大いに持っている。たが、精神面が弱い。一言で言うと優しすぎるんだ。上記を踏まえた上での適正職業としては”王国騎士”だろうな。」
「王国騎士…ですか。」
「ああそうだ。余談だが、先日お前と模擬戦を勝手に執り行ったエドロス部隊長は、お前をすぐにでも自分の部隊に編成して育成をしたいと言っていた。これは前代未聞の飛び級措置となるがどうする?」
色んな情報が一度に入ってきて混乱する
「え、えっと、僕が王国騎士に、しかも異例の飛び級で?」
「ああそうだ。だが、もちろんお前の意思が第一に優先される。どうするかはお前が決めろ。」
(決めろ と言われても何をどう選べばいいのか全くわからない)
「えっと…僕は…」
「クロムウェル。お前の人生だから口を出すつもりはないが、どれを選んでも悔いのない選択は、なんとなく決めることだ。」
「えっ…なんとなくでいいんですか?」
「ああそうだ。色々悩んで考えるとな、人は余計なことを考え始める。本当はこれがやりたいけど周りの期待に応えるにはこうした方がいい、とかな。そうならないためには”なんとなく”が一番だ。」
「かく言う俺も、学生時代の適正診断ではギアストとしてハンターを目指すのが最善だと言われた。だが俺はそれを跳ね除け、なんとなく興味のあった教師になった。あの時の判断を後悔したことは一度もない。そんなもんだ。返事は明日のホームルームで聞くからそれまでゆっくり考えるといい。」
先生に挨拶をして教室へと戻る
戻ってからもアルやテリー、クレセアと話をしたが正直あまり頭に入ってこなかった
以降の授業も集中できずに今日は一日中上の空だった
アルとテリーとは別で寮に戻り、夕食の誘いも断って自室でずっと考えているとアルとテリーも食堂には行かずに僕に付き合ってくれた
「なあクロ。お前がこの先どうするべきかで迷ってるのはなんとなくわかる。だけど一人で悩んでも答えは出ないだろ。俺たちにも話をさせてくれよ!」
「無理にとは言いませんが、一緒に悩ませて欲しいです。友達ですから。」
二人の言葉が妙に沁みる
ーしばらく考えたあと、自分のこれまでに起きたことを全て二人に話すことに決めた。
「二人に聞いてほしい大切な話があるんだ。」
意を決して話しはじめようとしたその時
「ちょっと!私も仲間に入れてよ!友達でしょ!!」
声のする窓を見ると、なんとクレセアが土系統の魔法を使用し足場を作って、3階にある僕の部屋の窓の外に立っていた
「クレセア!?」「オリビエさん!?」「オリビエちゃん!?」
3人が声を揃えて各々驚愕の声を上げる
「シーっ!バレちゃうでしょ!そんなことよりいつまでこんなところに立たせるつもり?」
見ると、クレセアの作り出した足場はボロボロと崩れ始めていた
急いで3人で中に引っ張り上げると、丁寧に靴を脱いでお邪魔します。と挨拶をして入室してきた
…男子寮の3階の窓から。
「えへへ。ごめんね。クロが悩んでたみたいだから力になろうと思って寮に来てみたら3人一緒にいるのが見えちゃって」
満面の笑みでそう言ったクレセアを、僕ら3人は呆然と眺めていた
「あ、えっと、それじゃあ改めて僕のこれまでの経緯を話すね。」
気を取り直して3人にこれまでの僕の人生を伝えるべく話し始めた
ー「次元を隔てた上下に世界があることは知っていましたし、魔素以外の物質で構成された世界があることも知ってはいましたけど…」
「まさかクロが別の世界の人だったなんて…」
「もはや途中からなんの話をしていたのかわからんかったぞ…」
話し終えると、三者三様の驚き方をしていた