授業2
魔法系適正の測定が終わり、次は身体能力の測定を行い前衛職への適正を測定するらしい
「はい、それではこちらのデコイに魔力による身体能力の強化を行なった状態で攻撃を行っていただきます」
演習用の木剣を受け取り、デコイの前に案内される
正直、魔力強化にはあまり自信がない
ベルクさんとの修行の際は術式による身体強化をしてきたので純粋な魔力強化はあまり行ってこなかったのだ
(ふう…落ち着け…)
ゆっくりと魔力を体全体に流し、魔力強化を行う
「よし、行きます!」
(カンっ)
自らの振るった木剣がデコイに当たり乾いた音を鳴らす
「あーええっと、すみません…」
測定員さんとの気まづい空気を誤魔化そうと、つい謝ってしまった
「すみません。私の説明不足でしたね。魔力強化をした上で攻撃にも魔力を付与していただいた上で攻撃をお願いします。」
(あっ、なるほど…測定用とはいえあまりにも硬いデコイだなと思ったら…)
「あ、すみません!もう一度いいですか?」
「はい。もちろんです。」
(よし、今度こそ。)
測定員さんとの気まづい空気を払拭するためにも再度気持ちを整える
再び魔力を体に流し、今度は手から木剣まで魔力を行き渡らせる
木剣を大きく振り翳し、デコイに当たる直前に魔力を一気に木剣に流し、叩きつける
(バーーーン)
今度は先程とは打って変わって、激しい音と共にデコイが壊れる
「デコイが壊れた…」
「えっすみません壊すとまずかったですか!?」
(まずい、やりすぎてしまった?)
「ああ、いえ。すみません。問題はないのですが、入学早々このデコイを壊せる方はそう多くないので驚いてしまって。」
(よかった、ということでいいんだろうか。)
「それでは次の項目にお進みください。」
受け取った測定用紙とモヤモヤした気持ちを抱えて次の場所は向かった
次の測定場は、魔法測定の時と同じくらいの広い演習場だった
「よく来たな。俺はここの試験管を任されたエドロフってもんだ。ここでは実戦形式で俺と模擬戦を行ってもらう。」
試験官だという”エドロフ”と名乗るのは、如何にもと言う感じの筋肉隆々の腕を組み、これまた如何にもという感じに髭を蓄えた中年男性だ
「模擬戦…ですか!?」
「なに、こちらからは攻撃しないから安心しろ。実戦での立ち回りや攻撃手段などを見るのが目的だ。」
(よかった…こんな強そうな人相手にまともな模擬戦なんて…)
安心したところに先程と同じような演習用の木剣を手渡され、早速模擬戦が開始される
「よし、どっからでも切りかかって来るといい。本気で来ないと意味がないからな。」
「わかりました。では行きます!」
先程と同じように魔力を木剣まで巡らせ、全力で切りかかる
「ほう。かなりいい太刀筋だ。」
そう言いながらもあっさりと僕の攻撃を受け流す
「ほら、今度はこっちからいくぞ!」
(!?)
「えっ、ちょっと、あの!」
言うより先に彼の鋭い攻撃が飛んでくる
必死に身を交わすが次々と繰り出される攻撃に手も脚もでない
「ほらどうした!そんなもんか?どんな手を使ってもいいからとにかく俺に一撃を与えて見せろ!」
(なるほど…結局は実戦形式の試験って感じなのか…それなら…)
覚悟を決め、自信に身体強化の術式を付与、さらに魔力強化を最大まで高め、全力で切りかかる
「ほーーら!思った通りだ!お前は筋がいいねんてもんじゃねえ!」
試験官の攻撃はさらに勢いを増し、最大まで高めたクロの身体能力でも剣を受け切れないほどの威力で切り掛かってくる
(どんな手を使っても、ってことなら…)
『××××!』
教官の隙をついて体を拘束する術式を展開し一時的に動きを止める
「いまだ!」
教官の動きが止まった隙にと全身全霊で切りかかる
が、直前で術式を力づくで解かれてしまい、身を交わされる
カン
身を交わした教官の足元に軽く木剣が当たり、小さな音を立てる
「おい、あいつエドロフ教官に一撃入れたぞ…」
「ばか、今のは一撃ってより当たっただけだろ」
いつの間にか、適性検査の順番待ちをしている者達がギャラリーと化しておりザワザワとしていた
「お前、名前は?」
「あ、えっと、僕はクロムウェルと言います。」
「クロムウェルか。お前、王国騎士にならないか?」
「王国騎士ですか?」
質問の意味が全くわからず唖然としていると、アスリアス先生がやってきた
「エドロフさん、困ります。勝手に測定会場で実践形式の戦闘など…」
(え?勝手に?)
「おお!ラルフか!久しいな。もう泣いていた頃の面影は全然ないな。」
「話を逸らすのはやめてください!とにかく後ろも支えて来てますので、早く適正試験官としての仕事をしてください!」
エドロフの言葉に少し赤面しながらもクロから引き離すようにエドロフを押しやる
「クロムウェル、先に進め。受付がいるからそこでその後の案内に従うように。」
なんだかおかしな状況になってしまったが、とにかく言われた通り受付に向かう
「クロムウェルさん、お疲れ様でした。次が最後の筆記テストとなりますので、お隣の会場にて受けた後、もう一度こちらに検査用紙のご提出をお願いします。」
「わかりました。あの、ちなみにさっきの検査の検査員さんって…」
「ああ、エドロフさんのことですね?ご本人たってのご希望で検査員をなされたそうですが、やはり王国騎士団の部隊長さん相手だと萎縮しちゃいますよね。」
受付の方はそう言ってにっこりと微笑んだ
(部隊長…そんなにすごい人と手合わせできてたのか。内容も独断だったみたいだし…)
色々と聞きたいことはあったが、とにかく今は筆記試験の会場に向かうことにした
筆記試験は、僕の他に数名が一緒に受ける形になっており、僕の後の2人が到着してようやく開始された
試験内容は僕にとっては非常に難しい問題だった
この国の成り立ちや法を過多得る問題なんかはほとんど空白だった
逆に、魔法関連の問題に関してはどれもベルクさんから教わった知識を持ってすれば簡単すぎるくらいだった
試験が終わり、診断用紙を持ってさっきの受付に向かう途中、僕の後に入ってきた二人に呼び止められた
「なあ、さっきのエドロフ教官との試験、すごかったな!」
「ほんとほんと!すごい動きだったし、最後に使ってたのって、魔法じゃなくて術式だよね?」
「あ、ああ。僕も何が何だか…」
「術式は…そうだね、一応…」
筆記試験に頭がいっぱいで先程のことを忘れかけていたとは、言えない
「それより、エドロフさんのことを教官と呼ぶのはどうして?』
僕の問いに二人とも唖然とする
「え?お前知らないで模擬戦なんてやってたのか?あの人は、王国騎士の部隊長兼新人騎士の教官なんだぜ?噂じゃ鬼教官らしいぞ…」
(鬼教官…)
どうやら、とんでもない人と模擬戦を行ってしまったらしい
気を取り直して、先程の受付へと向かう
「クロムウェルさん、お疲れ様でした。適正診断は異常で終了となりますので、診断用紙をこちらに預けて寮にお戻りください。診断結果は後日担任の世々にお渡しとなります。各項目ごとにS〜Dの適正評価、それから総合評価も同じく記載されますので、今後の目指す職業のご参考にされてください。」
用紙を渡し、そのまま寮へと向かう。
5段階評価で見れるのはありがたいなと思う反面、特に筆記などではかなりの不安が残るので複雑な気持ちで寮へと向かった
寮に戻ると、ロビーに先に終わったアルとテリーが居た
「おー!クロ!待ってたぜ!」
「クロさん、おかえりなさい。どうでした?」
眠そうだったテリーはすっかり目を覚まし、夕方だというのにアルは相変わらず爽やかだった
「二人ともただいま!それがなんだかすごいことになっちゃって」
二人にエドロフさんとの顛末を話すと、100点のリアクションをしてくれた
「とにかく、結果が楽しみですね」
人ごとのように笑うアル
「いいなーー俺も鬼教官と手合わせしてみたかったぜ」
残念そうにするテリー
ふたりのおかげで、不安だった気持ちも晴れ、また明日の授業が楽しみに思えた