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一番の友へ

作者: けい

ほとんど会話文のみです。

ノリと勢いで考えたので細かいところを気にしてはいけません。

人はこれを、運命と呼ぶのだろうか。


「あらあらまあまあ。私はのどが渇いて水を取りに来ただけなのだけど、まさかネズミに逢うなんてねぇ」


「そりゃ運が悪かったな。おっと、余計なことはするなよ? そのおキレイな肌に傷がつくからな」


「我が家の財産目当てかしら?」


「そうさ。命まではとらねぇよ。あんたはただ黙ってるんだな」


「今日はやめときなさい」


「あ?そんな言葉であたしが止まるとでも?」


「来るなら二週間後がいいですわね」


「は?」


「確かに今日はお父様は不在よ。でも、今日の夜会は王家主催だからお父様もおとなしくしているはず。酔いも浅くてお金がなくなればすぐ気付きますわ。

二週間後は友人とサロンで会う予定だから、記憶をなくすくらい呑んでくる可能性が高いの。自分が使ったと勘違いするかもしれませんわ。私が口裏を合わせますし」


「・・・あたしがそれを信じるとでも?」


「信じる信じないはご自由に。でも、捕まってから文句は言わないことね」


「あんた、どういうつもり?」


「お父様は吝嗇家なの。金儲けに目がないくせに、財産をため込むばかりで領地に還元などしないから民は飢えるばかり。経済を回した方が将来的に身に入る財産は多いでしょうに」


「リン・・・?ケイ・・・?」


「つまり、お金を貯めておいてほしくないのです。

お父様は仲間内でお酒を飲むと気が大きくなって羽振りがよくなってしまうのだけれど、他の領地で落としてきては意味がありません。だったらあなたとお仲間にこの近くでお金を使ってもらった方がずっといいでしょう」


「・・・どうして仲間がいると?」


「領主の屋敷に忍び込むのにたった一人なんて無謀でしょう。いくらうちが必要最低限の使用人しかいないとはいえ。あなたはそれほど向こう見ずな人間ではなさそう。

もしも信じられないならば、私の部屋までついてきてくだされば古い指輪を差し上げますわ」


「いいのか?」


「亡くなった母の形見ですけど、他にもありますし、私が大きくなりすぎてしまって指に入りませんの。二つ三つもらっていってくださいな。

古いものですから足はつかないでしょうし、宝石がついていますからそれなりの値段で売れるはずよ」


「・・・また、二週間後にくる」


「ええ、お待ちしていますわ」




◇◇◇◇◇




「あら、またいらしたの? 前もっていっておいてもらいませんと何も用意ができませんわ」


「盗っ人相手にそんなこと言う奴はあんたくらいなもんだよ」


「ふふ、そうかしら」


「変な女」


「あなたたち、今話題の義賊なんでしょう?私、なんだかワクワクしてしまって。微力ながら力になりたいんですの」


「悪徳領主の娘がいうことじゃねぇな」


「ええ、本当に。正義の義賊が生まれてしまうほど飢えに苦しむ民が多い事実は大変遺憾です。いっそのことあなたたち、お父様を暗殺してくれないかしら?」


「あたしたちは殺しはやらないって決めてるんだ」


「ふふふ、もちろん冗談ですわ」


「・・・あんた、貴族の娘なのに肌が荒れてるんだな」


「お父様がお金がもったいないとほとんど解雇してしまって人手が足りませんの。雇用を生むことも領主として大切な仕事ですのに」


「あんたはそれでいいのか?」


「仕方がありませんわ。幸い衣食住はしっかりしていますし。あ、そうですわ。お父様が安いからと大量に仕入れてしまった林檎でジャムを作りましたの。保存食とはいえ我が家では消費し切れませんからいくつかいかが?」


「・・・もらう」


「まあ、ありがたいですわ。砂糖を控えめにしてしまったから消費しきれずに悪くしてしまいそうで心配していましたの」


「貴族って奴は皆贅沢してて苦労なんてしたことないと思ってた」


「貴族もいろいろですわ。うちは領地も広くそれなりに歴史もあるのですがいかんせんお父様がお金の使い方が下手でして。早く何とかしたいのですが領主はお父様ですから私にはどうにもできなくて悔しい限りですわ」


「ふぅん」


「ですから、あなたと出逢って、私にも微力ながらできることがあると嬉しく思っていましたの。次に来るときは何か用意しておきますからいつになるかちゃんと知らせてくださいな」


「考えとく」




◇◇◇◇◇




「ようこそ。夕飯の残りですがパンがありますので食べますか?」


「うん」


「いつもお父様がいないタイミングでいらっしゃるんですね。その情報網は見習いたいですわ」


「まあな。あんたはいつもここにいるな。茶会とか夜会とやらはいいのか?」


「お父様は女に金を使う必要はないと常々おっしゃっていますの。私としても、いらぬ腹の探り合いは疲れますし、お父様のケチぶりを馬鹿にされるのも飽き飽きですの。あんなところは年に一度も行けば十分ですわ」


「あんたの話を聞いてると、本当に貴族は貴族で面倒くさいんだな」


「ええ、私はあなたと話している方がよっぽど楽しいわ」


「・・・そうかい」


「あら、照れちゃってかわいらしい」


「う、うるさいな。早くそのパンよこせよ。それに、他にもなんか用意してるんだろ?」


「ええ。今回は古着を集めましたの。一部擦り切れてしまっていますけど布地はそれなりにいいものですから使えますでしょう?

たいしたものが用意できなくてごめんなさい」


「別に。父親の目が厳しくなってきたんだろ?こっちは捕まるリスクがないから楽な仕事になってるし」


「そういえば、お父様のお友達、うちよりも北の領地ですけれども、今度ご家族で旅行に出かけるそうですわよ」


「どれくらい?」


「二週間ほど。来週には出発すると聞きましたわ」


「ふーん」


「さあ、こちらにおかけになって。領民の今の流行りを教えてくださいな。後は教会へ行くのに手土産は何がいいか相談させてくださいな」


「・・・パンのお礼に教えてやるよ」




◇◇◇◇◇




「あらあらまあまあ、お久しぶりですね。ここ数年姿を見せなかったからついに捕まってしまったのかと心配していましたのよ」


「子供に手が掛かってな」


「まあ!お子さんが生まれましたの?いってくださればお祝いしましたのに。

こんな遅くに出歩いていて大丈夫ですの?」


「今日は旦那が見てくれてるから」


「旦那様!そうですわよね、子供ができたんですから夫もいますよね。素敵な方ですの?」


「・・・昔からの仲間で、あたしにはもったいない奴だよ」


「ふふ、幸せそうで何よりですわ。でも、まさかあなたが先に母親になるなんて驚きましたわ」


「その腹、あんた、妊娠しているのか!?は?いつの間に結婚してたんだ!?」


「お父様、今頃になって後継がいないと王家に領地を没収されると気付いたようでして。てっきり死後の財産など興味がないのかと思っていましたが、貯めこんだものを取り上げられるのはお嫌だったようよ。あっという間に縁談が組まれて、婿が出来ましたの」


「旦那はどうしたんだよ」


「お父様と一緒に王都へ行っていますわ。お父様と違ってお金が手に入ればそれでいい享楽者なので大変楽ですわ」


「あんたはそれでいいのか?」


「理想とはかなり異なりますけど、そんなものですわ。協力体制は築けなくともお飾りの領主でいてくれるならばこちらとしても都合がいい」


「・・・無理はするなよ」


「あら、心配してくださるの?」


「あ、あんたが何とかしてくれる前に死んじまったらここは終わりだろ!妊娠出産は何があるか分からないんだからな!」


「肝に銘じておきますわ」


「じゃ、あたしはもう帰るから」


「もう帰ってしまうの?」


「妊婦が夜更かしすんな。いいか、床上げまで水仕事はするなよ!あたしのおばさんは子供産んでから無理してあっという間に死んじまったんだから」


「ふふ、ありがとう」




◇◇◇◇◇




「邪魔するぞ」


「・・・あら、来てくれたの。ごめんなさい。今日は何もなくて」


「旦那はどうした?乳母もいるんじゃないのか?」


「夫はお父様と夜会に出かけています。乳母は通いですの」


「あんたの親父は育児までケチってんな。ほら、赤ん坊をよこしな。あたしが見ててやるからあんたは寝てろ」


「でも」


「母親がそんなくたびれてちゃ子供だって不安になって泣くんだよ。ガキの面倒は慣れてるから安心しな」


「ありがとうございます」


「おーよしよし、お前の母ちゃんはお疲れだからお前もねんねしなー」


(子守歌が聞こえる・・・。子守歌なんて、何年ぶりでしょう。優しくて温かくて安心する)





「なんだ、もう起きたのか。まだそんなに経ってないぞ」


「少し横になるだけでもこれほど楽になるのですね」


「どうせいつも父親も旦那も居ないんだろ?夜くらいだらしなく寝そべって乳やるくらい図太く生きろよ」


「まあ、どうやるのでしょう」


「こんな感じ」


「あらあら、他の方に見られたらはしたないと叱られてしまいそうよ。でも、とても魅力的な体勢ですわ」


「赤ん坊も母親も寝れて楽なんだよ。ただ、子供を潰さないように気をつけないといけないけどな」


「さすが母親の先輩ですわ。頼りになります」


「じゃあまた来てやるよ」


「ありがとうございます。いっそのこと、この子の乳母になりませんか?」


「はっ、出来るわけねーだろ」


「ふふ、冗談ですわ。でも、本当にそうなったらよかったのに」




◇◇◇◇◇




(まずいな・・・あたまがまわらない・・・だるい・・・くるしい・・・)


(具合が悪くなってからすぐに家族とは離れたけれど、移ってないかな・・・)


(あたし、このまま死ぬのかな)


(死にたくない。上の兄弟達はケンカばっかりだし、一番下なんてこの前ようやくよちよち歩きを始めたんだ。あいつらが大人になるまで、育て上げたいのに)


(でも、これもバチが当たったのかな)


(義賊だなんだとかっこつけたところで、あたしたちがやってたことはただの泥棒。いくら貧しい人たちに分け与えてたって自分たちの懐にだってけっこうな金をもらってる。汚い金で生きてるんだ)


(ようやく、ようやく、貧しい人も少なくなって、みんなの生活が安定してきて、泥棒なんてやらなくてよくなって、まっとうな職について、まっとうな人生を送ろうってやってきたところだったのに)


「・・・リア、・・・マリア!」


(ああ、いよいよ耳までおかしくなっちまった。あいつがあたしの名前なんてしってるわけがないのに)


(あいつはすごい・・・。あいつの親父が死んで、代替わりしたらみんな、暮らしやすくなった。じいさんばあさんたちはこれまでがおかしすぎたんだって言ってたけどな)


「マリア!!」


(それにしても泥棒のあたしがマリアだなんて清楚な名前、どう考えてもおかしいよな。あいつの方が似合いそうだ。確かあいつの名前は、)


「ナターシャ・・・」




◇◇◇◇◇




「!!」


「マリア!目が覚めたんですね」


「ここは・・・?」


「保養所です。領内でたちの悪い病が流行りまして。あなたは感染してしまったのよ」


「!あんた、こんなところにいちゃダメだろ!あんたにうつったらっ」


「手袋をしていますし、口元に布も当てていますから大丈夫ですわ。万が一感染しても働くのを厭う夫が全力で治してくださいますから」


「・・・手袋はあかぎれを隠すためのアイテムだっていってなかったか?」


「あらマリア、女性の身だしなみにいくつ理由があってもいいじゃないですか」


「なんであたしの名前・・・」


「友人のことをよく知りたいと思うのは当然ではなくて?」


(調べてやがった・・・)


「でも、あなたのおかげでいち早く病気に気付くことが出来て幸いでしたわ。危うくこの病で多くの民を失うところでした。特効薬も見つかりましたし、あなたも食欲が戻ったらご家族のところへ帰っても大丈夫ですわ」


「ありがとう」


「ふふ、素直なあなたは珍しくて、とても可愛いわ」


「あ、あんたはいちいちそういうこと言わなくていいだろ!」


「あら、もう名前で呼んでくれませんの?」


(こいつにはかなわない・・・)



◇◇◇◇◇



「領主様がこんな田舎の墓地に何のようで?」


「母の友人に最期の言葉を伝えたいと思っていたのだが遅すぎたようだ。弔いと謝罪の花を手向けてもいいだろうか」


「どうぞどうぞ。ちなみに、その最期の言葉を聞いてもいいでしょうか?」


「『楽しい時間をありがとう』だそうだ」


「・・・本当に二人は友人だったんですね。親父のホラ話かと思ってました」


「母はよく友人の話をしていたよ。自分の幸運は子供達と友に恵まれたことだと笑っていた。だが、もしかしたら母の一方通行だったのかもしれないな」


「そうでもないですよ。おふくろは素直な性格じゃなかったし、何せ二人揃って同じ日に亡くなったんだ。もしかしたらおててつないで仲良く天国に昇っていったのかもしれませんぜ」


「はは、そうだといいな。ところで、聞くところによると君は用心棒としてなかなか腕が立つらしいね。私の護衛になる気はないかい?給金はそれなりに出させてもらうよ」


「そいつはありがたい話ですね。ちょうどこれから子供が産まれるんで何かと入り用だったもんで」


「それはめでたい。家族の住まいも用意させてもらおう」


「いいんですかい?こんな得体の知れない男を護衛に選んじまって」


「ああ、多少の教育は必要そうだが、私は君を信用するよ。何せ、あの母の一番の友人の息子なのだから」

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