勇者の血統
遥かな山の麓から、神々しい白馬に乗った老人が、ある王女を迎えに来た。
「アフロディーテ!」
老人は叫んだ。
「約束は守ったぞい」
王女は感嘆して、
「キング!長かったわ、長かったわよお」
泣きじゃくっていた。
「ホレ、これが魔王の生首じゃ。後で王宮の一番高い屋根の鉄塔に飾ろう」
「ええ、ええ、ええ。」
王女はただうなずくばかりだった。
そして、王女の付き人、小人のライオネルがやってきて、
「しっかし、80年かかるとは思わんだな。いくらおいらと王女が事前に不老不死の薬を飲まされていたとしたって。」
アフロディーテ王女は、
「キング!確か旅立ったのは、私たちがお互い15の時!じゃあ、キング、あなたは今、95歳なのね?」
へへへ、と笑って、
「そうだ、ワシは95になった。もういつ死んでもおかしくない。不老不死の薬、ワシも飲みたかったのお」
王女は笑って、
「やだあ~、喋り方まで老人にならなくてもいいのよ。〝今〟だけ、私たち15に戻りましょう?」
「そうだな、そうしよう、アフロディーテ。」
「キング!」
「なんだ?」
「好きよ!」
「俺もだよ。」
二人がのろけていると、小人のライオネルが、
「熱々だね~、ヒュ~。」
と、冷やかした。
しかし、キング老人はいきなり暗い顔つきになって、
「いかん!魔王の首から目を離してしまった!」
「えぇ!?」
とアフロディーテ。
「奴は、奴の首は、完全にどこかに串刺しにでもしないと、ふらふらと歩きだして、また悪さをするんじゃ!王宮のみんなが危ない!」
そして、急いで周辺、王宮の中を探す、キングとアフロディーテとライオネル。
しかし―――
いっこうに見つからない生首。そして、残された部屋は、
「ここしかない。最悪じゃ」
「 零弦室ね。」
と、アフロディーテ。
「ここには国宝である王者の腕輪が格納されておる。もし、奴が、例え生首であろうと悪さをすれば、……」
「すれば……?」
「ワシの80年の苦労が無駄になる。私たちはまた新たな勇者を育て、80年の歳月を必要とするじゃろう」
「そんなの嫌よ!!!」
キングは小さく目を閉じて、
「それを今から確認しよう」
と、ドアを開けかけた瞬間、突然、王宮の保育係が来て、
「2歳の坊ちゃんが見当たりません!もうこの部屋しかないんです!」
「わしの孫の子孫にあたる者だな?危険だ!今助けるぞお!」
ドアを開けると―
なんと、
勇者の血統だけが持てる聖剣エクスカリバーを刺しぬいて、魔王の生首を真っ二つにしている若干2歳の次期王子の姿がそこにあった―――
「血は争えんな。」
キングはにっこり。大急ぎで王子を抱き上げに向かった。
アフロディーテも、
「やはりあなたの血統は清く、勇ましいのよ。」
そうして、その王宮は代々、代々、永久に勇者が生まれ平和を維持したとさ、おしまい、おしまい。
勇者の子は勇者。