5年ぶりに再会した幼馴染の押しが強い②
さて、そうしたら何から聞くか。
この5年間に関して、聞きたいことはたくさんある。──だけどまずは目の前で膨らんでいるこれだよな。
「なぁ、真輝。ちょっとアレなこと聞くけど?」
「なんでも聞いて! ゆーくんの質問ならなんでも答えるから」
「あのさ、その胸……」
「ゆーくんのだから揉んでいいよ?」
「違ぇよ!」
その胸揉んでいいとか聞くと思ったのか!? 5年ぶりに再会した幼馴染にいきなり胸を揉ませろとかいう変態だとでも思われてるのか!? 揉みたくないとはいえないけど、揉めねえよ!
「違うの?」
「違う! というかなんでお前そんなに胸が育ってんだよ」
「5年間ずっとゆーくんのこと思ってたらすくすく育っちゃった」
「いやそもそもなんで胸が膨らんでるんだ?」
「今の僕が女の子だからだよ?」
「……そこだよ。なんでお前女の子になってんの? 5年前までは確かに男の子だったよな?」
「そんな過去は忘れたよ」
それは忘れていないやつが吐くセリフだ。
「あ、でもゆーくんと過ごした日々はちゃんと覚えてるから安心してね」
ようするに記憶を改竄しているんだな?
「とにかく、僕は女の子だから。証拠見せようか?」
「いや、いい。今の状態でわかる」
ここでうんと答えたときにこいつがが取る行動が予想できたので、俺は即座に首を振る。
「まぁ、うん。今のお前が女の子になっているのは納得しておこう。……なぁ、真輝。一体この5年間に何があったんだ?」
「……長くなるよ?」
「わかってる」
5年間、しかも性別が変わる程の出来事に関する話だ、すぐ終わるような話ではないだろう。だけど、
「でも、これからの俺達にはたっぷり時間があるんだ、ゆっくり聞かせてくれ。もうお前はどこにもいかないんだろう?」
そう肩を掴んで問いかけると、何故か真輝の白い肌が朱くなった。
「もも勿論だよゆーくん! これから僕たちはずっと一緒に過ごすんだ。一緒の学校にいって、一緒のお家に住んで、一緒に子供を育てて、一緒のお墓に入って」
「まてまてまてまて」
とろんとした目でとんでもないことを言い出す真輝を、俺は慌てて止める。
「来世でもずっと一緒……何?」
「いやいやいやお墓とか子供とかなんの話だ?」
「僕達の将来の話だよ? ねぇ、子供は何人がいいかな?」
「マジで何の話だ!」
「え、だってゆーくんさっきプロポーズ……」
「してないが!?」
「どこにもいくなって、ずっと俺の側にいろってことじゃないの?」
「違ーうっ!」
「そっかぁ、残念……」
本当に残念そうな顔をする真輝。
この時点で流石に俺も気づく。こいつ、昔言ったように本気で俺の嫁になる気だな!?
「ねぇ、お嫁さん僕じゃだめなの? 今の僕赤ちゃんも産めるんだよ?」
ストレートに来た!
俺は少しだけ考えて、上目遣いに膝の上で振り返ってこちらを見上げてくる真輝に答える。
「……今はそういった事は考えられないよ。もう会えないと思っていた真輝が帰って来たことが嬉しくて、それ以上は考えきれない」
これはその場限りの嘘ではない。本心だ。今は真輝が帰って来たという事実が大きくて、これからの事などすぐに考えられるはずがない。
「そっかぁ……あ、ゆーくん今付き合っている彼女とかいないよね」
「いないけど……」
「おっけ。じゃあ僕これから頑張るよ」
何を頑張るかは聞かないでおく。
とりあえずこの方向で話が進むと不味い事になりそうなので、軌道修正をしよう。
「それで、お前に一体何があったんだ? 時間がかかってもいいから聞かせてくれ」
「あ、うん。じゃあ順に話すね」
「ああ」
「あのね、あの日──僕が消えた時なんだけど、夜寝ていると急に気が付いたら知らない空間にいたんだ。なんか真っ白な部屋みたいなとこ。こんな感じで正方形で」
そういって真輝は正方形の形に手を動かす。……動くと柔らかい所がむにむにと当たってくるから、あまり動かないで欲しいんだが……。
「それでね、目の前に女神さまが現れたんだ」
「……はぁ?」
突然出てきた突拍子のないワードに俺が思わず声を上げると、真輝は振り向いて
「あ、この先いろいろ突っ込みどころが多い話になると思うけどすべて事実だから。適当に流してね」
「わ、わかった」
「それでね。その女神様がいうんだよ。貴女には我々の世界を守る力がある。どうか我々の世界にきて力を貸して欲しいと。それに対して僕は即答したんだ、『嫌です』って」
「……当然だな」
いきなり出てきて手を貸せって言われたって、こっちに手を貸す理由は何もないもんな。
「ゆーくんと離れるの嫌だったし。でね、そしたら女神様焦っちゃって、慌てて言うんだよ、『代わりにあなたの望みを一つ叶えます』って」
「ラノベとかでありそうな展開だな」
「だから僕は聞いてみたんだ、『僕を女の子に出来ますか』って。そしたら『それならいけます』って答えたんで僕は『じゃあやります』って答えたんだ。そしたら気が付いたら女の子になって見知らぬ世界にいた」
「……」
「そしてその後なんやかんやあって4年後に魔族のボスを倒して帰って来たんだ」
「短っ! 長いんじゃなかったのか……というか端折りすぎだろ!」
「いや話すと本当に長いんだけど、別に僕が女の子になった理由とは関係ないしどうでもいいかなと途中で思って。そんな事より僕ゆーくんの話聞きたいし」
「そんな事よりってお前……ん、4年前?」
「どしたの?」
「いろいろ置いといて聞くけど、魔族のボスを倒したのって4年前なんだよな? 残りの1年なにしてたんだ?」
「あー……あのさ、いざこっちに帰って来ようとしたら僕をこっちに返したくない向こうの世界の人たちが妨害してきてさ。僕をこっちに返そうとした女神さまに反乱を起こしてね」
そう言って真輝はぷーっと頬を膨らます。ああもう、可愛いなぁ畜生。
「ま、それはすぐに叩き潰したんだけど。なんか彼ら女神様が僕を無理やり帰そうとしてると思い込んでたらしくて……僕はずっと終わったら帰るっていってたのにね? ほんとちゃんと人の話聞いてなくてぷんすこだよ。でまぁ、そのせいで女神様の力が一時的に落ちちゃって帰れなくなったんだ」
「……そっか、それで女神様とやらの力が回復するまで帰ってこれなかったのか」
「違うよ? だって女神様の力ってそんなにすぐ回復するわけじゃないし」
「じゃあどうやって帰って来たんだ?」
「女神さまが教えてくれたんだけど、先史文明の遺跡に世界を渡る魔法陣があってね、それ起動して帰って来た。ただ……」
そう真輝が言葉を続けようとした時だった。家の外の方からいくつかの声が響いた。
「真輝! 向こうの世界に戻って俺と幸せな家庭を築こう!」
「真輝様! 我々の世界にはあなたがまだ必要なのです! 戻ってください!」
「真輝君!」「真輝殿!」
次々と様々な声で呼ばれる真輝の名前。というかプロポーズも混じってなかったか今?
その呼び声を聴いて、真輝は俺の膝の上から立ち上がった。
「……真輝?」
「その使った魔法陣さ、しばらく開いたままになるみたいで。何人かこっちについてきちゃったんだよね。ちょっと待っててねゆーくん──黙らせてくるから」
そうやって天使のような微笑みを浮かべると、真輝は何もない空間からでかい剣を取り出し部屋を出て行った。
そんな理解の範疇を超える光景を目にし、アイツの姿を呆然と見送りながら、俺は一つの未来を感じ取っていた。
真輝の帰還と共に、平穏だが虚ろな俺の日常はきっと終わりを迎えたのだと。




