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はじめての戦闘

小石丸は生前(犬であった頃)、戦闘などしたことはない。

飼い犬だったので当たり前と言えば当たり前だが、それではなぜ元犬である彼が拳で攻撃できたのか。

犬最大の武器、噛みつきを選択しなかったのか。


考えての行動では、もちろん無い。

動物たちは誰に教わるでもなく、自分の体の使い方を知っている。

それはDNAに刻まれた肉体の記憶と言えるかもしれない。


マンションで買われた家犬であった小石丸だが、それでも元狩猟犬しばいぬである彼は人間よりは野生動物に近い感覚を有していた。

だから自然と、自分の新しい武器として拳を選択していた。


すでに傷のあった腹に強烈な打撃をくらったコカトリスが、口から唾液を流して苦しんでいる。


「みんな死ぬ、良くない!!」


小石丸は、もう一撃コカトリスの腹に加える。

あまりの苦痛に、コカトリスは尾の一撃で小石丸を払おうとする。


しかし彼はそれを難なく避けた。


「――コカトリスと素手で対等に戦ってる?」


カトルの毒に侵され霞む目では、小石丸の動きは追えなかった。

だが、コカトリスが一方的にダメージを負っているのだけは分かる。

霞んだ目には見えないほどに素早く、鋭い攻撃を小石丸は続けていた。


「グォオオオオオオオ!!!」


着実にたまってゆくダメージに、コカトリスが雄叫びを上げる。

毒息の臭いが苦手な小石丸は、エアポケットのような場所を見つけては移動し、一撃を加えてすぐに逃げるという戦い方になっていた。

それが周囲の木々のせいで素早く動けない巨体のコカトリスに対して、抜群の効果を発揮する。


小石丸は、人間の身長二人分を足しても足りないほどの高さにあるコカトリスの頭めがけて跳躍した。


「もはや、人間の動きじゃないな……」


カトルの呟きとほぼ同時だった。


小石丸の拳が鶏頭のこめかみに突き刺さり、コカトリスは轟音とともに倒れた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『えっと、コカトリスは、蛇、ドラゴン、鶏といろんな動物が混じってますが、基本は鳥の魔物です』


キュウが、兄であるコボルト戦士の傷の手当てをしながら口を開く。

倒したコカトリスは口から毒の唾液を大量に吐き出していたので近づけず、放置したまま一向はその場から離れた。


逃げ出したコボルトや男たちもいつしか集まり、ケガ人の傷の手当てが始まった。



『鳥は飛ぶために体が軽くなくてはいけないので、骨も脆かったりします、だから打撃には弱いのですが、でも――』


傷にボロ布を巻く手を止めずキュウは言葉を続ける。


『あの巨体です。普通の人間の打撃ならコカトリスの体の芯にまで届かず、分厚い筋肉に弾かれてしまうのですが……貴方は本当に人間ですか?』


不思議そうに小石丸を見るキュウに、小石丸はきょとんとしている。

それもそのはず、話していることの半分も理解できていないのだ。


「おれ、人間。神が人間にした」


これでも、小石丸にとっては難しい言葉を話した方である。


「神が人間に……そりゃ俺たちみんなそうだけど」


無事だった男の一人が小石丸の言葉に笑った。

確かに、どう聞いても敬虔な神の信徒にしか聞こえない言葉である。


カトルは、ダメージと毒のせいで動けない。

だが、よほど体力があるのだろう。命に別状はなさそうだと、老コボルトが教えてくれた。


『戦闘力も人間離れしてましたが、なぜ人間のあなたが我々魔物(コボルト)と会話ができるんでしょうか』


キュウの疑問も最もだった。


もちろん小石丸にも分からない。

コカトリスとは話しは通じなさそうであった。

コボルトと会話が通じるのは、元犬だからだろうか。


「カトルっ!!! 起きろ!!! 死ぬなっ!!!!!」


男たちの叫びが、周囲の木々にこだまする。

毒を全身に浴びてしまったカトル。

即死するほどの威力はなかったようだが、周囲の木々を一瞬で枯らすほどの猛毒だ。

男たちの呼びかけにぴくりとも動かない。


兄の手当てを終えたキュウが、小さく吠える。

それに気付いた老コボルトが、少しの逡巡ののち頷いた。


キュウは小石丸に何かを決意した目を向ける。


『彼を治す方法があります。僕らの村に――来てもらえませんか?』


コカトリスが襲った彼らの村。

西の方に位置し、そう遠くないという。


『私たちを襲った人間の皆さんは正直怖いですが、あの勇敢な人間とあなたの二人だけなら……』


カトルの名を呼ぶ男たちを、横目で見たあと少し俯いて、キュウは口を開く。


『彼を助けたいなら、僕の友達“アルラウネ”ちゃんを――探してもらえませんか』


「たすける? たすけられる?」


まだ言葉を得たばかりで使いこなせない小石丸にも『助ける』という言葉だけは分かる。

肉をくれたカトルを、彼は助けたかった。

陽を探さなくては、という気持ちもある。


だが、目の前で人が死ぬのはもっと嫌だった。


『はい、アルラウネちゃんなら助けられると思います。時間がないので急ぎましょう』


キュウの言葉に、小石丸はゆっくり頷いた。


犬も歩けば棒に当たる、とは言い得て妙で。

異世界に転生した瞬間に人間とコボルト、そしてコカトリスに出会い。

陽よりも先にアルラウネなる魔物を探すことになった小石丸。


犬である彼の行く先にはこれからも事件が絶えなそうだ。


なぜ、魔物の言葉が分かるのか。

なぜ、人間の体を得ただけのはずの小石丸が人間以上の戦闘力を備えてしまっているのか。


答え合わせは次章でさせて頂きます。


ここまで読んでいただいた皆様に感謝を。

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