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元犬と犬の魔物

コボルトの戦士と思しき青年と、人間の男たちとの間に緊迫感が流れる。


「コボルトで武器持ちは初めて見たが……全員で囲めばやれる。気を引き締めて行くぞ」


リーダーであるカトルの言葉に、他の男たちも無言で頷く。

他のコボルトたちも遠吠えに気付いて近寄ってくるが、右往左往するばかりで戦闘に加わる様子はない。


男たちは、目の前に現れた武器を持つコボルトに気を取られて、気付かなかった。


ここは、街道から少し入ったまばらに木が生える林のような場所。

見通しもそこまで悪くない上に、今は真昼。


なぜ、こんな弱い魔物が、これほど人里の近くに現れたのか、ということに。



『兄ちゃん……』


コボルト少年は不安そうにコボルト戦士の兄を見る。


『任せろ。戦えるのはオレだけ。一緒に逃げてきた村のみんなは絶対守る』


この間、人間たちには「わんわん」という吠えあいにしか聴こえていない。

理解できない言葉での魔物たちの会話など、不気味にしか見えなかった。


カトルは、手に持つ槍を構えて意を決した。


「よし。村のみんなのために、やるぞ! 全員であの武器持ちにかかれ!」


先陣を切ったカトルのやりがコボルト戦士を貫くかに見えた瞬間、紙一重でかわしてナイフで反撃を試みる。

しかし、身長の低いコボルト。

リーチも短く首などの急所には届かない。

コボルト戦士のナイフはカトルの左腕を切り裂いただけで致命傷には至らない。


次第に他の男たちも参戦する。

驚異の身のこなしで男たちの槍を躱すコボルト戦士だったが、さすがに多勢に無勢。


徐々に細かい傷が増えて、だんだんと追い詰められていく。


小石丸は、状況が理解できていないため、いまだにぼーっと骨をしゃぶっていた。


『兄さん! ダメだ逃げよう!!』

『馬鹿を言うな! こっちには子供と老人もいるんだぞ。逃げ切れるわけがないだろう!!』


「ガオオオオォォオオオ!!!」とコボルト戦士の雄叫びがとどろく。


カトル達人間も少しずつ傷が増えているが、コボルト戦士の青年はすでに満身創痍であった。

すでに深い傷で左腕はあがらず、右手一本で戦っていた。

血を流しすぎているため、気を抜けば倒れてしまいそうだった。


『兄さん、このままだと死んじゃう(・・・・・)!!』


カトルが、動きの鈍ったコボルト戦士にとどめを刺すべく、突きを放った瞬間だった。


「死んじゃう……? 死んじゃう良くない!」


小石丸がカトルの槍を片手で止めた。

コボルト戦士に集中していたとはいえ、少し離れたところで骨をしゃぶっていた小石丸の接近に、カトルは気付かなかった。

それほど圧倒的速度の踏み込みだった。


「――な!? どうした!?」


「陽くん、助けられなかった。だから、死んじゃう、良くない」


「??????」


コボルト戦士の身長が、中学一年生としては小柄の陽とほぼ一緒だったからかもしれない。

小石丸は、死という言葉に陽が血まみれで倒れた瞬間を思い出していた。

相変わらず、状況は理解できていない。

でも、体が勝手に動いて、カトルの攻撃を止めてしまっていた。


「兄さん、家族まもってる。死んじゃうのダメ」


コボルトたちの会話が理解できていないカトルには、何を言われているか分からなかった。


コボルト戦士の青年は、多量の出血よって立っているのがやっと。

だんだんと意識も遠くなっていた。


この場で唯一、状況を正確に理解した者がいた。


彼は、警戒しながらも小石丸にゆっくり近づき、言った。


『あの……僕はコボルトの“キュウ”と言います。もしかして人間なのに僕らの言葉が分かるんですか?』


コボルト少年、キュウの言葉に小石丸は――首を大きく横に振った。


「違う。おれ人間じゃない柴犬……あれ、でも今人間? そう人間!」


えっへん。と胸を張る小石丸以外の全員の頭上に、巨大なハテナマークが出現した。

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