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魔物討伐

小石丸と魔物討伐隊の男たち一行は、食事を終えると移動を開始した。


「俺たちはユナヴィルって農村の農民たちなんだけどな、最近魔物が家畜を襲うようになっちまって」


リーダーの男が道すがら小石丸に事情を説明する。

皆、小石丸よりも一回り小柄で、身長百八十センチを超える彼よりも頭一つ分くらい小さかった。

小石丸は食べ終えた肉の骨を口に咥えながら話を聞いている。


「その魔物、あまり強くないから放っといたんだが、さすがに被害が増えちまって。ここら辺は平和だから魔物も普段はあまり出ないんだけどな。困ったもんだ」


魔物は出なくても、盗賊に襲われることもある。

だからこの辺りの村では自警団を組織して、必要とあれば連携して有事にあたるよう備えているそうだ。


「最近出没する魔物は、魔物にしては知能がある方なんだが、小柄で力も弱い。普段農業で鍛えてる俺たちの敵じゃない。だから人数集めて討伐しようって話になってな」


「あの程度の魔物なら楽勝だ」とか「全滅させて褒章もらおうな」なんて他の男たちも笑っている。

これから戦いに行く雰囲気ではないが、どうやらあまり強くない魔物らしい。


――まあ、小石丸には話の半分も理解できてはいないが。


「うん、肉もらう」


小石丸が骨を掲げて言うと、男たちは笑った。


「俺の名前はカトル。ユナヴィル村の自警団のリーダーをしている」


人懐っこい笑顔を向けて、男が手を差し出す。

少しウェーブのかかった短髪に、無精ひげ。

ひげのせいで分かりにくいがきっと若いに違いない。


農業で鍛えたと言うだけあって、豆だらけの分厚い手だった。


しかし、元犬である小石丸には“握手”の概念などなかった。

最も慣れた手つきで、右手をその上に重ねた。


「……握手を求めたつもりだったんだが。これは……?」

「……お手?」


静かに、ただ静かに冬の冷たい風が流れた。



ふと、小石丸が何かに気付いたように顔をあげ、鼻から大きく息を吸い込む。


「――なにか、近くにいる」


先ほどまで談笑していた男たちが、一気に真剣な顔になる。


「兄ちゃん、分かるのか? 確かにそろそろ魔物が出てもいい頃だが……」


「うん、生き物の匂い。嗅いだことない匂い」


「匂い……? みんな分かるか……?」


一同、首を横に振る。

人間になったとはいえ神の計らいで鼻は犬のころのまま。

よって、いまでも人の百万倍以上の嗅覚である。


半信半疑ながら、男たちは小石丸の先導に従う。


十分くらい歩いたところで、魔物は――いた。



「これは……多いな…………」


ざっと見て三十体。

だが、二足歩行で身長は百四十センチ程度。

頭は、なんと犬の顔をしていた。


「兄ちゃん、あれが――コボルトだ」


リーダーの男が声を潜めて言った。

ボロ布を纏っているため体型は分からないが総じて腕も足も細い。

こちらは小石丸を合わせても十一人だが、人間なら素手でも勝てそうなほどコボルトは小柄で弱々しく見える。


まして、人間こちら側は武装していて相手は素手。

多分これは一方的な殺戮になるであろう。


リーダーの男が全員に指示を出し、戦闘態勢を整える。


と、その時だった。


最も近くにいた、子供と思われるコボルトの少年がこちらに気付いた。

人間ですら視認できる距離である。

たまたま風下から近づいていたため接近できたが、相手も犬の魔物。

風向きが変わった瞬間に気付かれた。


コボルトの少年は武装した人間を見て、警戒の遠吠えをあげた。


人間たちには「ワオーン!!!」としか聞こえなかった。

だから彼らは逃げられる前に殲滅しようと、飛びかかるために身構える。


だが、小石丸にはコボルトの遠吠えがこう聞こえていた。


『兄ちゃん、人間だ! 助けて!!!』



男たちが飛びかかろうとした瞬間。

風と共に、一体のコボルトが現れる。


頬に傷のある、二つのナイフで武装したコボルト。

戦士といった風情の彼は、人間たちに向けて咆哮をあげた。


凛々しいコボルト戦士の迫力に、気圧される討伐隊の男たち。



だが、小石丸にはこう聞こえていた。



『いくらなんでも十一人は多いって!!!!』

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