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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
煩悩の犬は追えども去らず
17/35

魔物パーティー、村へ行く

更新がだいぶ遅くなってしまいました……。

明日以降は取り戻したいと思います。

「え、コボルト!? あと草の魔物!? なんで!!?」

「すまん! 仲間になった!!!」


この日、七度目の“説明”を適当に済まし、カトルは小石丸達とともに自宅へ走る。

人の体を持ちながらも顔が犬そのもののコボルトであるハチと、見た目は完全に少女ながら頭から草が生えているアルラウネのライカ。

この二人は、人里では大いに目立った。


「これは顔を隠す物を用意する必要があるな……」


カトルの呟きに、ハチも頷く。

もともとコボルトの集落から()()でたことがなかったハチである。

小石丸についていくことを簡単に考えていたと、頭を抱えていた。


「え、魔物!? 可愛い!!」


「すまん! 仲間になっ――ん、可愛い?」


「カトルおかえり。先に帰ってきた奴らから聞いてるよ。コボルトとコカトリスが出たんだって?」


「姉さんか……ただいま」


オレンジ色の髪をした、そばかす顔の女性が楽しそうにカトルの肩を叩く。

身長はカトルと同じくらいで、小石丸の背中にいるライカの顔を興味津々でのぞいていた。

だが、そもそも叫んでしまうほど人見知りな彼女である。

「ひっ」と小さく叫んで、小石丸の背中から離れ、地面に隠れてしまった。


「アルラウネかい? 可愛いね」


ケタケタと笑いながら、今度はハチを覗き込む彼女に、カトルはため息をつく。


「……姉さん、急いでるんだけど村長家にいる?」


「父さんかい? いるはずだよ」


「説明しなきゃいけないことがたくさんあるんだけど……」


「それはいいけど、紹介はしてくれないのかい?」


物怖じしない女性である。

今度は自分より頭ひとつ分以上も背の高い小石丸を見上げて、笑いかけた。


「あたしはトレーズ。この村の村長の娘でカトルの姉だよ。あんたが村の男たちを助けてくれたんだってね」


ありがとう、と言いながら右手を差し出すトレーズは、笑うと確かにカトルに似ていた。


出された右手に、なんとなく“お手”をしながら小石丸も負けない笑顔で言った。


「おれ、小石丸。こっちがハチで、もう一人がライカ!」


握手さえできれば完璧だった――というのは酷というもの。

なにせ飼い犬に握手なんて文化は無いのだ。

陽がこの場にいれば、自己紹介が出来ただけで感動の涙を禁じ得なかったはずだ。


「ん、カシミール? とハチとライカね」


「俺はカシムって呼んでるが――って、そういえば二人の名前聞いてなかったな。いやそもそも俺自己紹介したか?」


カトルの呟きに、トレーズはあらためて笑った。


トレーズとカトル、確かに血のつながりを感じるな、とハチは小さく笑った。


名も知らぬ魔物二人と魔物の言葉が解る得体の知れぬ大男、小石丸と行動を共にして、いつの間にやら当たり前のように彼らを助けてくれようとしているカトル。

最初から明らかに魔物であるハチとライカに物怖じしないトレーズ。

二人は確かに、顔だけでなく、雰囲気も良く似ていた。


カトルは、ハチとライカに「俺はカトル、よろしくな」なんて今更な自己紹介をしたあと、トレーズに向き直る。


「姉さん、カシム達にお礼したいから料理を作っといて欲しいんだが……いま忙しいか?」


「全然、村の英雄に料理をごちそうできるなんて名誉な事さ」


「……村の英雄?」


「ああ、父さんのところ行くんだろ。あたしは食料を買い出ししてから帰るから――まあ、覚悟しとくんだね」


意味ありげに笑うトレーズに、カトルは顔に疑問符を張り付けたまま、背中を叩かれ送り出されるのであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ハチに驚く村人に何度か遭遇しながらも、決定的に恐慌に陥らないあたり、カトルは信頼されているのだろう。


商業都市ケアンテリアと王都グレートデーンの中間に位置するこの村は、農業を主産業としながらも宿場町としての機能も兼ね備えているようで、中央通りには少ないながらも店や宿がいくつか並んでいた。


家はあまり密集しておらず、あちこちか牛や豚、馬など家畜の鳴き声も聞こえてくる。


小さい広場を抜け、さらに歩くとひときわ大きな木造の家が見える。



その家の前でオレンジ頭にオレンジ色の髭の男が――滂沱の涙流し、仁王立ちしていた。




「おおおお、カトル良く帰った!! 皆から話は聞いてるぞ!!」


男は一行の姿が見えた瞬間、恐ろしい速度で駆け寄ってくると、カトルを全力で抱きしめる。

戦闘の傷も癒えきっていない彼は、抵抗することもできず苦しそうにされるがままであった。


「一人の犠牲を出すことも無く、コボルトだけでなくコカトリスまでも倒し、あまつさえ魔物たち配下に加えての凱旋。英雄だ。お前は村を救った英雄だ」


「痛い! やめてくれ、涙と髭を擦り付けるな!!」


カトルは、全力で抱きしめながら髭を擦りつけ泣き続ける男を、うんざりとした顔を隠そうともせずに引きはがす。


「まず、コカトリスを倒したのは俺じゃない。このカシムだ。それに、ハチとライカは配下じゃない」


「謙遜までできるとは、さすが俺の息子!!」


「話を聞けクソ親父!!!!」


カトルの悲痛な叫びが響き渡る。

いつの間にか日も落ち始め、あたりは夕焼けに包まれていた。


オレンジ髭の男はひとしきり泣きながら大声で笑うと、小石丸達に向き直った。


「カシム殿、息子を助けてくれてありがとう。コボルトの――ハチ殿か。あとライカ殿は――」


地面に埋まったままのライカの唯一見えている大きな葉が、ぴょんと返事をするように弾む。


「私はセドリック。カトルの父でこの村の長をしている」


丁寧に頭を下げる村長――セドリック。

急に雰囲気の引き締まったオレンジ髭の男に戸惑いながら、小石丸達も頭を下げる。


カトルは大きくため息を吐いて、父親に向かって口を開く。


「なあ村長。至急話したいことがある」


「村長と呼ぶということは――大切な話だな」


「ああ。この村に危険が迫るかもしれないから対策を立てたい」


海禰の顔を思い出しながら、カトルは身震いをする。

あの悪意の塊の男が、この村に来たらひとたまりもない。

小石丸以外の誰が、匂いで幻覚を破れるというのだろう。


カトルの言葉に、セドリックは神妙に頷いた。


「分かっている。確かに危機が迫っているようだ」


「分かってる……? どういうことだ?」




「――カシム君の腹の虫が盛大に鳴っている。これは深刻な危機だ」


カトルが崩れ落ちるのと同時に、夜の帳を落とし始めた空へと、小石丸の腹の音がグウと大きく響いたのだった。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

PV数を心の支えに、今月いっぱいは毎日更新がんばります。


(どこかで一日かけて今までの全話見直しもして、もっと楽しいものをお届けできるよう気合を入れなおします)

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