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勇者、柴犬―飼い犬が異世界に転生して飼い主を探すようです―  作者: konzy
煩悩の犬は追えども去らず
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敗北感の後で

海禰が去った後、一行はしばらくその場を動けなかった。


カトルとハチは、一度死を覚悟した。

たまたま武器を持っていなかったからという理由で助かった。

ただの幸運でしかなく、次会ったときも生き残れる自信は無かった。


小石丸は一矢報いたものの、鼻にかけられた血のせいで嗅覚が利かず、どうしていいか分からず辺りをぐるぐる走り回っている。

ライカはいつの間にか小石丸の背中にくっついている。


「なあ、カシム!!」


最初に口を開いたのは、カトルだった。

意味もなく走り回っている小石丸に言葉を届けるため、声を張る。


「魔王を倒すとか、神がどうとか言ってたがさっきの奴は何者なんだ!?」


「……あいつ、おれと、陽くんを、殺した」


お前は生きてるじゃないか――とは言えなかった。

小石丸が、あまりに苦しそうな顔をしていたから、きっと言えない事情があるのだろうと早合点したカトルはハチに視線を送る。


『オレは……もう少し強いと思っていた』


ハチは、ついに膝を抱えて座り込んでしまっていた。


『コカトリスに人間達、さっきのカイネと名乗った男。カシム様。誰にも勝てないじゃないか』


コボルトの年齢は分からないが、きっとまだ若いのだろう。

呟いている言葉は分からずとも、落ち込む理由は分かる。


カトルだって魔物討伐の為に村を出たのに、結局誰にも勝ててないのだ。

小石丸がいなければ、コカトリスにも、さっきの男にも素手のまま殺されていたに違いない。


「――でも、誰も死んでないじゃないか」


カトルは、誰にともなく呟く。


その声に反応して、ハチが立ち上がり、小石丸は近づいてきた。


「なあカシム。お前は主人を探してるんだよな?」


「うん。陽くんさがす」


「じゃあ、一度うちの村に寄って準備をしてから――商業都市に行こう」


「しょうぎょう都市?」


「ああ。今いる街道を北東に行くと俺の村があって、南西に行くと商業都市ケアンテリアだ」


カトルは方角を指さしながらハチと小石丸に説明する。

ハチが人間の言葉を分かっていることは、もうカトルにも分かっていた。


「ケアンテリアにはな、全てを見通すと言われている()()がいるんだ」


『商業都市なのに、魔女?』


ハチの表情から何かを読み取ったのか、カトルは言葉を続ける。


「金に貪欲な魔女だから商業都市に住んでるらしいんだが、逆に言えば金さえ払えばどんな探し物でも見つけてくれる」


「探し物? 陽くん、見つかる?」


「ああ、恐らく。俺も会ったことは無いが実力は確かのようだぞ。ただ――」


「ただ?」


「料金が高い。金貨にして十枚。俺の十年分の年収だ」


この世界に来てまだ一日も経っていない小石丸と、人間との関わりの無かったハチにはお金の価値は分からない。


銅貨一枚で、硬いパンがひとつ買えるらしい。

銀貨一枚で羊が一頭買え、金貨一枚になると地方の村なら小さな家が建つ。


カトルの説明になんとなく困難を察した小石丸だったが、そこは元飼い犬。

もちろんお金など稼いだことがないため、大変さが分からない。


「まあ大金だが、カシム達なら商業都市(ケアンテリア)で稼げるだろう。それに()()()()()()はずだ」


商業都市に魔女がいて、修行にもなる。

意味は分からないが、現状ここにとどまっているわけにもいかない。


「実はうちの村にそのヨーくんが来てる……なんて可能性もあるしな。さっきの男がうちの村に来ないとも限らないから――情報収集も兼ねて一度村へ来ないか?」


カトル以外の魔物討伐にでた自警団員たちは、コカトリスとの戦闘後先に帰っている。

ただ、手負いの者も多い。さっきの男が村に来てたら対処しきれないだろう。


「まあカシムの一撃で手負いになってたろうから、あの男も無茶はしないと思いたいが……」


カトルの言葉に、ハチが無言で頷く。

小石丸は真面目な顔のまま――お腹がグゥと盛大に鳴った。


「ははは。ずっと戦い詰めだったからな。うちで飯でもご馳走しよう。そのあとケアンテリアまで一緒に行ってやるよ」


「ご飯!! あとカトルも一緒!!」


「ああ、そもそもお前たちだけだったら……ケアンテリアに入れもしないと思うぞ」


唯一人間の言葉が話せるのが、まだ会話のつたない小石丸のみ。

あとのメンバーはコボルトと、アルラウネ。

この数時間でカトルは慣れてしまったが、都市には確実に入れてもらえないだろう。

それに俺も負けたままではいられないからな、というカトルの言葉は小さすぎて誰にも届かなかったが、きっと一同の総意であっただろう。


小石丸がいなければ、人間にも勝てなかったハチ。

突然現れたコカトリスに、全滅させられていたであろうカトル。

そして、陽を死なせてしまった小石丸。


皆、自力では大切なものを護れなかった。


だから――絶対に強くならなければ。

ケアンテリアで情報を得られて強くなれるなら、行かない理由は無かった。


「じゃあ、行くぞ」


カトルは、一行を先導するように歩き始めた。


彼は、すっかり忘れていた。


自分が魔物(コボルト)討伐のために、村を出ていたのだということを。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お、カトル無事だったか――って魔物おおおお!!?」


ハチとアルラウネを見て驚く村人たちに、片っ端から説明を強いられるカトルであった。

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