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プロローグ 金と銀


――シスディオ歴868年




 (父との確執があったとは聞いていたがここまでとはな……。確執のあった父はもう居ない。それでも狙ってくるのはそこまで深い恨みがあるようだな。だが魔物を使ってくるあたりまだ回復しきれてないか。)


 龍という種族は強大だ。人類に友好的ではあるが敵対すれば滅びは免れない。たがそれでも龍型の魔物、ワイバーンを複数相手すれば重傷を負う。


「怪我してるのね」


 幼さの残る、しかし貴族として、公爵家の令嬢としての自覚を持ち始めたであろう少女。エレナ・フォン・モントリヒト、8歳。銀色の髪に好奇心の強そうな金色の瞳。傷ついた龍に見つめられ、複数のワイバーンの死体が周りにあろうとも物怖じしないその姿は貴族故か。


「エレナ!?何故ここにいる!」


 昨夜の辺境伯領に隣接する龍の森での騒ぎを調査するために赴いた辺境伯アレス、その部下である騎士、雇われた冒険者がぎょっとする。


 出発前に同行を断り「お祖父様なんかきらい!」なんて泣きながら言われれば了承せざるを得なかった。孫に甘いただのジジイそのものだと自嘲する。


 念の為に最後尾の馬車の中で待機させ、護衛も付けていた。緊急時には()()と言われた自分が守れる、そう考えていた。


 それでも龍という予想外の存在に驚いていれば反応が遅れる。


「光の魔法を応用したの!姿を隠せるの!天才でしょ!」


 ふふん、と得意げな様子のエレナにアレスは心のどこかでまた新しいイタズラ用かと思いながら瞬時に気を引き締めて離れていろと忠告する。想定外の事態に混乱はしたが、周囲に魔物の気配はなく、傷ついた龍は警戒はしているが攻撃の意思は感じない。それでも何があるか分からない。


 傷ついた龍にどう対応しようかアレスが考えていると、傷ついた龍が口を開いた。


『君はその歳で光の魔法が使えるのか。なら回復魔法も使えるかい? 君の魔力は随分と多いようだしね。』

「ええ。回復魔法の方が得意だわ。そっちは宮廷魔法士もびっくりの才能よ。」

『それは凄い。それに穢れのない綺麗な魂をしているね。お礼にそこの魔物を渡そう。素材としては傷つき過ぎてしまったが人類は有効活用できるだろう?』

「お祖父様が喜ぶわ! じゃあ力を抜いて、回復魔法を掛けるわ。」

「ま、魔物の素材はありがたいが、エレナ大丈夫か?」

「大丈夫よ、お祖父様。安心して? さ、いくわよ。《回復(ヒール)》」


 この世界の上位者である龍が話をかけてくるとは思っていなかったアレスは面食らっていた。さらに、エレナが敬語も使わずに会話し、それを許している龍にも驚いて、完全に話に加わるタイミングを逃していた。


 辛うじて、魔法を掛ける所に待ったをかける。が、止める間もなくエレナが魔法を発動し、辺りを眩しいほどの光が覆う。


 『暖かい』。傷ついた龍は光に目を細めながらそう感じる。10秒程経ち、光が収まる。そこには輝く黄金の鱗を持つ龍が居た。


 周りの騎士や冒険者は回復魔法に込められた魔力の多さを感じ取ったようで少し騒がしい。


「これで完治しているはずよ。回復魔法の前に水の魔法で汚れを落としたから病気の心配もないわ。龍が病気になるかはわからないけれど。それにしても綺麗ね。」

『ありがとう、助かったよ。魔法でなければ回復に時間が掛かるからね。奴につけ入る隙を与えるところだった。』

「申し訳ない、黄金の龍殿。私はアレス・フォン・シュッツヘルン。王より辺境伯の地位を賜り、この森近くの領を収めています。回復魔法を掛けたのはエレナ・フォン・モントリヒト、私の孫です。質問なのですが、奴とは? それと昨夜の出来事についても説明が欲しいのですが……。」


 再起動したアレスが龍に問う。龍は少し考えながら事の顛末を語った。


『昨夜、我が父に恨みを持つであろう龍が魔物を使い襲ってきた。結界を張り周囲への被害は抑えたが思ったより魔物が強くてね、完璧にとはいかなかった。君たちが聞いた音はそれだ。あそこまで強い魔物を送ってきたんだ、かなり無理をしたようだね。しばらくは何も無いはずだ。仮にまた襲撃があったとしても狙いは僕だし、これは僕と奴の問題だ。君たちには被害が出ないように最大限の努力をするよ。』


 話を聞き、龍同士の戦いを危惧したがどうやら問題ないようでアレスは安堵する。何も考えず巻き添えを喰らうような真似はしないが、なにせ相手は龍。一大事になるまえに問題を知ることができたのは僥倖と言えよう。


『それじゃあ、僕は帰るよ。調査も一段落したようだしね。エレナ、感謝しているよ。ああそうだ、僕の名前はソルレクス。君の事を気に入った、今度はこちらから会いに行くよ。』


 最後に特大の爆弾を落として龍は帰っていった。アレスは娘夫妻にどう説明したものかと頭を抱え、エレナはまた(ソルレクス)に会えると純粋に喜んでいた。

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