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プロローグ3

 冷涼とした空気が、石造りの壁で囲まれた地下空間を漂う。

 真っ暗闇。

 そこら中に人の気配や吐息、寝息があるというのに、異様なまでに静寂だった。——ここが地下牢であるからだ。

(くだん)の少女は、麻でできた囚人服を身に纏わされ、薄い布団に横たわっている。

 突然の出来事に気は動転し、体は疲れ切っているが、ぐっすりと眠れるわけがない。なんといってもとにかく寒い。

 両腕はキツい金属の拘束具で一つに固定され、首には見せしめとばかりに同じ金属の首輪がついている。

 前、ここに監禁されていた人間が残していったものだろうか?

 人間が便をする場所は確保されているというのに、部屋の隅に汚物が転がっていて、固まって石のようになったそれらからの異臭が凄い。

 加えて、縦横二M(メートル)の広さしか少女が入れられている牢屋のスペースはない。

 薄い敷布団は、まるでクッションの役割を果たしていない。石床に体を横たわらせている気分だ。

 窮屈で、寒くて、固くて、息苦しくて、動悸がおさまらない。

 何一つ居心地の良さがない。

 少女を苦しめる場所は、もうなくなったはずなのに。

 少女は自由へと解放されたはずなのに。

(やっぱり、あの時鏡の中にいた、影の所為だ)

 思い出すだけで眩暈(めまい)がする。

 燃える炎の中、少女は確かに見た。反射して映る真っ黒な自分(かげ)を。

 あれは何なのだ?あれのせいで、炎の中でも燃えることなく、むしろそれを心地よいとさえ思ってしまっていたのではないだろうか?そもそもあれが家を燃やしたのではないだろうか?

 炎の中では心地よいとさえ思い、素晴らしい事が起こったと天に感謝すらする想いだった。

 だが、今の状況は何だ。なぜ何の罪も冒していない自分が拘束されなければならない。どうして15歳の罪なき幼気(いたいけ)な少女が、冷たい牢の中で夜を過ごさねばならない。

(全部、全部……あの影の所為だ)

 少女の頬を、涙が伝う。頭をよぎるのは、自身に向かって暴力を振るう父親と母親。振るわれる金属棒。肌を薄く切り裂く鋭利な包丁。縄で縛られ抵抗できず、なすがまま。痛みと恐怖で思考が埋め尽くされる。

 ——だというのに。

 今の状況よりはマシに思えてしまうのだ。

 少女は、あの家で住人たちのはけ口になっていた。

 彼ら彼女らの、人間としての小さな器量で受け止めきれない色んなものを、少女という小さな受け皿一つで支えていたのだ。

 少女の心はとうに壊れていて、それでも生物として「生を求める葛藤」が少女を生き永らえさせてきた。

 あの家では、奴隷だったのだ。

 だが今は……囚人。それも、明らかに他の囚人たちよりも厳重に拘束具をつけられ、警戒されている。これではまるで自分が——魔女かケダモノにでもなってしまったようではないか。

 少女は思い出す。——あの家での苦痛と葛藤の日々を。

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