第2話 血の戦士
紅焔に包み込まれた、ひっくり返った馬車の中。
眼を回すリィの横で、少年——ウィルは激しい心臓の動悸を抑える。気が動転していた。何が起こったのか、と状況を飲み込めない自分がいる。
この場で——アフロ男性、セルケトのみが冷静でいた。
彼が、素早く筋骨隆々の腕をふるいつつ、「ごめんね」と呟く。
すると、一瞬ウィルは息ができなくなる。リィも顔を真っ赤にする。
が、それはたった一秒の出来事だった。
一瞬、空気中から酸素を失くしたということだろう。
リィとウィルの衣服に燃え移っていた炎ごと、周囲を囲む炎が消失していた。
「すごい!鬼力って、コントロールできればこんなことも——」
「伏せてっ!」
興奮して関心するリィのセリフを遮り、リィの頭を摑んでセルケトが強引に下へ押し込む。ウィルもすぐさま、それに従った。
——風の刃が掠めていった。
下げた首筋近くを、猛烈な勢いの風が通りすぎたのだ。風切り音とともに、横転していた馬車が真っ二つとなり、斜めに入った切れ目からボトリと半分が地面へ落下する。
広がるのは草原と、真っ青な空。
そして、こちらへ向けて駆け出している焔を纏った悪鬼と風を纏った悪鬼だった。
どちらも人型だ。
まず、焔を纏う悪鬼は肥大化した巨大な顔の持ち主だった。ブクブクに腫れあがっているかのようなそれには、無数の赤目が並んでおり、一つずつしかない小さな口と鼻にむしろ違和感を覚える。
次に、風を纏う悪鬼は大きすぎる両手を持っていた。隆々に盛り上がる筋肉を持ちながら、そこには無数の羽虫がたかっている。血が滲んでいた。手は、指らしき膨らみは存在するものの間がヒレのようなもので繋がっており、物を器用に摑んで使用することは不可能そうである。
走り抜けてくる悪鬼二体。
……に対し、セルケトは小さく何事かを呟く。
「『巡れ!』」
セルケトの両腕と、両足の筋肉がドクンと大きく波打つ。
血管という血管が肌の上からでも視認できるほど真っ赤に染まり、血液のような赤い靄を纏った(というよりは、穴と言う穴から噴き出してきた)。
リィが目を見張る。無理もないだろう。初めて見るのだろうから。
セルケトの得意分野である、鬼力を。
セルケトが地面を蹴り飛ばす。
その瞬間、三メートルを超す土埃が立ち上る。セルケトの姿が残像となって、土ぼこりの向こうに消えた。
ガンッ
という、強烈な殴打音。
土埃がなくなる頃には、笑顔で立つセルケトのすぐ足元に、二体の悪鬼が事切れていた。




