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第11話 愛しき幻

 終わらない。死なない。

決意をしたものの、目にした景色が「死んだ」という事実をつきつけてくる。

そして同時に、いくつもの違和感も生じていた。目もくらむような速度で変わっていく光景。体を失ってなお、自分のみが感じない獄炎の熱さ。抜けきらない、どこか夢の中のような感覚……。

——「まだ死んでいない」と実感したからこそ、リィは「終わらない」ことを決意したのだ。

(ローサと離れることは寂しいけれど……)

 まやかしであれど、死に近い景色だからこそローサに会えた気がしていた。

 ここを離れることは、ローサと再び別れることを意味するだろう。

 だが、こうしている間にもきっと、時が流れている。刻一刻と状況は悪化していく。

 そして、リィの決断を後押しするように、さらに目の前の光景がガラリと変わる。

 一面の平原。その中心に立つ、巨大な王都。

(世界最大都市——グランベイル‼)

 総人口30万人を優に超す、大陸で最も巨大な都市。50メートルの大きさを誇る王城ベイルヘム以外にも、いくつもの背の高い塔のような建物が都を囲う外壁外から眺めることができる。

 圧巻。荘厳。豪華絢爛。

 きっと、中に足を踏み入れようものなら、その景色に足をすくませてしまうことだろう。

 平原から眺め、それですら圧倒されるリィ。

 しかし、リィの注意が他に逸れる。

 王都の上空に真っ黒な暗雲が出現したのである。そして、その中からいくつもの化け物が王都目掛けて産み落とされていく。

 ——悪鬼だ。

(王都……グランベイルが!?)

 そんなことありえない。真っ黒な暗雲から産み落とされることも、これからグランベイルが破壊の限りをし尽くされようとしていることも。

 現実に起こったとしても、【神英騎士団】がいるのだから王都陥落とまではいかないかもしれない。けれど……リィにはわかる。これは、起こりうる未来なのだ。人類が悪鬼の殲滅を完了させない限り、いずれ実現されてしまう未来なのだろう。

 とにもかくにも、もうリィがここにいる理由はなかった。

 ローサがいるように感じていたのは、先程の漆黒の空間だけだった。

 リィの推察によると、そもそも空間まるごと千面鬼が作り出しリィに見せてきた幻だと思っている。

 幻惑の鬼力だ。

 それだったらすべてに説明がつく。

 自分の首が飛んで、それなのにまったく痛みを感じられなかったこと。異様に早く切り替わっていく景色。俯瞰的に眺めているかのような、夢見心地な感覚。

 だから、ローサの存在もまやかしにすぎない。あれに関しては、自分自身で作り出した妄想だ。けれど……そこにいた。いいや、ずっといたのだ。一緒に。すぐそばに。

 そして、感じたからこそ分かった、ローサの積もり積もった後悔の念。

(大丈夫、大丈夫。ローサ。ありがとう、ありがとう。ローサ。)

 ローサは、後悔に憑りつかれ続けているかもしれない。それなら、そのローサの後悔も背負って生きて行こう。いつか、ローサの後悔が晴れるぐらい幸せになってやろう。

 ——世界の秩序を守る【神英騎士団】がリィの敵となっている今、幸せの道はきっと【闇騎士】にしかない。

 リィはお腹いっぱいに息を吸う。腹の底から気合いを込め、叫ぶように言った。

「こんな場所は——すべて幻よ‼」

 叫んだ瞬間、景色すべてが明滅する。まぶしくなって、瞼を開けていられなくなる。その光の向こうから、優しい声音でローサが語り掛けてきた気がした。

『あぁ……愛しいリィよ……』

 

 

 世界がガラリと入れ替わる。

 空を見上げている。横になっている。

 グリムスの姿を借りる悪鬼——千面鬼の腕の中で。

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