表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

第9話 血

 千面鬼と二体の悪鬼が、リィたちに対峙する。

 こちらには、デーモンマスターと呼ばれるセルケトと不思議な力を持つ少年がいるが、リィとセルケトが一度あっけなく凍らされてしまった通り、間違いなく千面鬼が強すぎる。

 地下では逃げおおせたと思っていたが、千面鬼は最初からリィを見逃すつもりだったのだ。配下の悪鬼たちも本気を出していなかっただろうし、完璧なまでの『罠』にハマってしまっている状況だろう。

 その証明に、セルケトの横顔を緊張の汗が一筋流れた。

「リィ、わかる?この状況……とんでもなく絶望的状況だってこと」

「は……はい」

 セルケトの真剣な声音に、リィも先ほどまで彼に向けていた疑念を晴らしていた。というか、状況がもうそれを許さない。一蓮托生。力を合わせても敵わないような『絶対悪』を前に、力を合わせない選択肢など初めからあってないようなものだ。

「何回も千面鬼と相対してきた、とは言ったけど、正直私はあいつに敵いっ子ない。将来いずれ成長したあなたと力を合わせても、敵うかどうかってレベルよ」

「氷……の鬼力(デラ)ですか?」

「いいえ。奴の得意能力は、水を操ること。空気中の水分の温度を急変化させて氷漬けにしてしまうの。そして、その鬼力は生半可な炎じゃ溶かすこともできない」

「得意能力……ってことは、他にもいろんなことができるってこと?」

「リィお姉ちゃん。それは、お姉ちゃんやセルケトさん、鬼力を持つ全ての生物に言えることだよ」

「え……?」

 不思議な力を持つ少年にいわれた言葉に、リィは驚いて振り返る。笑顔で言った少年は、人差し指を立てて眉間に皺を寄せる。必死に何かをしようとしている……?けれど、一向に何も起こらず、「はぁ……」と溜息をついた後に続けた。

「もちろん、自在に操るには修行が必要なんだけど……。僕の場合、まったくコントロールできないどころか、抑えることができなくってダダ洩れなんだ」

「この子……ウィルは生まれつき鬼力の才能に恵まれすぎているわ。そして、力が大きすぎれば大きすぎるほど、鬼力はコントロールが難しい。リィ、あなたぐらいの鬼力であれば、ちょっと修練を積めば炎を出す以外にもいろんなことができるようになるはずよ。あるいは、この戦いでもできるかもしれないわ」

 コントロールができれば、あらゆることが可能。

(そんな魔法使いみたいな能力が、今の私にあるっていうの?)

 夢の広がる話だ。物を触らずに宙に浮かしたり、空から雷を降らしたり。かつてローサが使用し、人々を癒してきた鬼力がそんな万能なものだとは知らなかった。

 ……で、あれば当然ローサは、やろうとすれば自由自在に様々なことをすることができたのだろう。

 ふと、ローサに想いを馳せてしまうくらいには、相変わらずリィの中でローサの存在はデカい。

「だったら、うまく鬼力を駆使すれば、何かしら出し抜くことも……」

「相手も同じだってことを忘れないで、リィ。千面鬼は、悪鬼たちの中でも【鬼将軍】(デーモンズ)と呼ばれる非常に凶悪な悪鬼。得意分野の能力じゃなくっても、私の得意分野である能力よりも遥か高等に扱うことができる。実際、私の得意とする……『肉体強化』同士で千面鬼と戦ったこともあったけど、手も足もでなかったわ」

「……そ、そんなのどうやって……」

(発砲塞がり……)

 相手は、こちらを遥かに凌駕する万能の(デラ)を手にしている。

 想像するがままに力を操ることができるのであるとすれば……、もうそれは神にも等しい相手と対峙するようなものじゃないだろうか?

「君たち、随分長話をしているようだね。無駄な足掻きをご苦労さん。……何をしたって、ぼくには——敵わないよ?」

 グリムスの姿を借りる千面鬼が、サッと右腕を縦にふるう。空気の振動が刃を形作って、瞬きの間さえ許さずにセルケトに届いた。

 セルケトの右腕が、肩口から吹き飛ぶ。鮮血のシャワーが降り注いで、視界が真っ赤に染まっていって……気付いたらリィは、自身の目線が地面から見上げていることに気付いた。

 気づく。

 鮮血は、セルケトだけじゃない。リィからも出ている。

 首から先を失った、切断面から血が留まらないリィの体だ。

 意識が遠のいていく。知らないうちに死んでいて、信じられない光景に痛みさえどこか現実感を帯びていない。

「才能のない君たちと違って、ウィルという少年は我々と肩を並べるべき才能に溢れた少年だ。……悪鬼を統べる新たな仲間として、立派に育てて見せよう」

 視界が明滅する。痛すぎる激痛は、とっくの昔に痛すぎるを通り越して感じることすらできない。ただ一つだけわかることは……すべてが終わったということ。

 セルケトが右肩の傷口を摑んで膝から崩れ落ちる。ウィルに向かって巨大な水の球体が放たれ、閉じ込められてしまうのが見えた。

 ゴポゴポと泡を吹きだし、もがき、ウィルはやがて気を失ってしまう。

「これでもぼくは、悪鬼の中じゃ中の下。……わかったかい? 君たち人類が成そうとしている悪鬼の掃討作戦が、いかに無謀かってこと」

 絶望の真っ赤に染まっていく視界の中。最後に、千面鬼のグリムスがニタリとこちらに嘲りの笑みを見せてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ