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第8話 餌(リィ)

「いろんなもの」と言ったが、それはたった一人の人物であった。なぜ、一人なのに「いろんなもの」と言ったのか? それは、そこにいた人物が次々と形を変えており、一つに定まらない「いろんなもの」であるからだ。

 最初は、小さな少年だった。一秒の間に、それは頭の頭頂部から一瞬で変形して、背の折れ曲がった老婆となる。纏っている服装ごと変わっていき、人間じゃないものにも変身した。

 犬、筋骨隆々の男、ネズミ、金髪の美女、水馬(ケルピー)——そして。

「ローサ……」

「うふふ、やっと会えたわね。ただいま」

 ニコリと笑顔を見せる、正真正銘生きてる人間であるローサがいた。

 生きることに絶望していたリィの心に、温かな光が灯る。その笑顔の元へと駆け出し、やっと再会できたローサに抱き着こうとする。

 ——が、そのローサまで五秒後には姿を変えていた。地下房で見た、悪鬼のローサへと。

「まったく……どおりで。【神英騎士団】より先に到着できるなんて……おかしいと思ってたわ」

 声の方を振り返れば、アフロオカマがダクダクと血の流れるわき腹を抑えながら、苦笑いを浮かべている。いつのまにかそのすぐ横に少年が立っており、彼が接近することでアフロオカマも凍結が解除されたのであろうことがわかった。

額に浮かぶ玉の汗と、陽気ながらも真剣になっている瞳の色を見るに、状況がよほど深刻なことがわかる。

 血の流れ出るわき腹の方はといえば……そこを抑えているアフロオカマの手が白く発光しだした。

 リィは驚愕に目を見開く。見たことがある。忘れるわけがない。忘れることなどできない。ローサがよく村人たちを癒していた、不可思議な力だ。

 予想通り、アフロオカマのわき腹から流れ出る血の流れが止まった。傷口を癒したのだ。

 少年が小さな声を発する。

「【鬼将軍】(デーモンズ)……千面鬼(せんめんき)‼」

「ククク……ぼくはずっと、【闇騎士】(シャドー・ナイト)たちの到着を待っていたんだ」

 悪鬼のローサの姿をしていた「ソレ(、、)」が、グチャグチャと音を立てて大きく変形を始める。

 その割には体格的に大きく変わったわけでもなく、リィも知っている一人の男の姿になっていた。

 中肉中背でパッとしない顔立ち。ウィルグリッド家の一人息子、グリムス・ウィルグリッドである。乱暴的な両親に対し、グリムスはずっとリィと距離を置き続けていた。リィの方からコンタクトを計った時には無視されたし、視線も冷たくはあったが、グリムスだけはリィに手をあげるようなことは一度もなかったのである。

 そして、リィは理由もわからずこの時直感していた。

 リィがずっと一つ屋根の下で生活していたグリムスは、この千面鬼であったと。

 アフロオカマが、隣から話しかけてくる。

「リィちゃん知ってる? 百の顔を持って人の世に溶け込み、過去千年に渡って歴史を変える重大な事件を引き起こしてきた怪人の都市伝説を」

「……百面怪人? でも、その正体が——」

「そう。悪鬼だったのよ。そして、『百面怪人伝説』は、都市伝説でも御伽噺でもない。千面鬼は悪鬼らを束ねる【鬼将軍】(デーモンズ)の実力を持ちながら、知略に長けた悪鬼。すさまじい【鬼力】を持ちながらも、それを一切感知させない。事実、私は百年以上彼と渡り合っているけれど、一度も勝てた試しがないわ。よりにもよって、ローサの育て子の近くにいたなんて……」

「百年……⁉」

(この人、一体何歳なの⁉)

 リィは驚き、アフロオカマを見上げる。肌ツヤスベスベであり、何だったら三十歳とかに見える。体格とか顔の濃さ的に二十代とは思えないが、百歳を超えているともまったく思えない。

「リィちゃん。今、あなた失礼なこと考えていたでしょ。やだわ、私は見た目通りの三十代よ」

「でも、百年以上戦ってきたって……」

「リィお姉ちゃん。それは、魔界と人間の世界で時間の流れがまるで違うからだよ」

 言ってきたのは、中性的な顔立ちの少年の方である。さらに、少年はまくしたてるように続けた。

「セルケトさんは、魔界での戦闘経験もあるデーモンマスターなんだ。とっても強いんだよ!」

「デーモンマスターだなんて、恐れ多い称号ね。少なくともデーモンマスターの名を貰っている人たちは、全員私より強い。若さのわりの経験値を買われているだけよ。……この状況を打開できるほどの力はないしね」

 おどけた笑顔を浮かべていたアフロオカマ——セルケトが、真剣な表情となって千面鬼に向き直る。リィも息をのんで、グリムスの姿をした——もといグリムスだった伝説の悪鬼を振り返った。

「ぼくはウィルグリッド家——【神英騎士団】の潜入員の息子になりすまし、あのローサの育て子であるというリィ、君の可能性をずっと探っていたんだよ。でも、的外れだった。幾月も、幾年も待てども、君は力に目覚めなかった。君は自分の事を恐ろしく感じているかもしれないが、その程度の【鬼力(デラ)】の持ち主なんてザラにいる。もしも、役に立ちそうならこちら側に引き入れようと思っていたのに期待外れだったってわけだ。かけた時間に対して、報われなさ過ぎる。……だから、餌にしたのさ」

「……‼」

 リィはそこまで聞いて理解する。現状がどういう状況なのか。今まで何が起き続けていたのか。

 引き取るといってくれたウィルグリッド家は、リィの村で生活する【神英騎士団】の潜入員だったのだ。だから、リィは最初研究の対象にされていた。

 そして、そのウィルグリッド家の息子になりすまし、千面鬼はずっと自分を観察していた。そして、自分を生かしておき、セルケトたちがやってくる『罠』とした。

「そう、あの家に火をつけたのはぼくさ。ウィルグリッド夫妻を火の海に沈めたのはぼくだ。……そして、リィ。君ももう用済みだ」

 千面鬼のすぐ両脇。青色の鱗をした猫と蛇と鶏の合成魔獣——地下で相対した悪鬼が現れたのだった。

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