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第7話 シャドー・ナイト

(この人今……女の子の弟子を持つことになるなんて、って言った……?)

 リィは思いっきり心当たりがあるのだが、あえて周囲に他の人影を探した。もちろん、アフロオカマと五歳の少年の姿しかない。五歳の少年は確かに女の子に見えなくもない可愛らしい見た目をしているが、やっぱり顔立ちのそこかしこに男の子らしさを漂わせている。男なのは間違いないのだろうから、もしかしてこの少年を女の子と見立てて弟子にしようとしているのだろうか? アフロオカマ自身のように、オカマな男の子に育てようとしているのかもしれない。

(いや……待って。弟子って……そもそも何の弟子?)

 実はオカマアフロの恰好もまた、黒いジャンパーコートを羽織ったシックなものだった。そして、少年が身に付けているのとは違い、胸に徽章がつけられている。見たことのない、巨大な怪物が翼を広げた影のような形をしていた。真っ黒であり、『影の化け物』と言い表すのが一番的を射ているだろう。

 疑問とともに持ち上げた視線が、バッチバチのつけまつげをしているオカマアフロの視線とぶつかった。オカマアフロはまるでこちらの心を読むかのように、胸を張って続けた。

「ワタークシは、【闇の騎士】(シャドー・ナイト)の女幹部が一人。あなたにとっては何を言っているのか分からないだろうけど……そうねぇ、すごく簡潔に言っちゃえば、悪鬼と戦う【神英騎士団】(デウス・ナイダー)と正反対に位置する、対立する組織ってこと」

「……お姉さんは悪い人じゃないよ」

 【神英騎士団】(デウス・ナイダー)——。

人間の味方とされる吸血鬼や【始祖鬼】たちと契約を結んで、悪鬼と戦う力を得たものたち。その中でも、訓練を積んで国家直属の騎士となった者たちがそう呼ばれる。

(それと対立する組織ってことは……悪鬼に組する組織ってこと!?)

 リィは身構え、距離を取ろうと後ずさりを再開する。だが、少年が「悪い人じゃないよ」と言いながらリィのお腹に抱き着いてしまい、リィは自然と動けなくなった。

 ついでに言えば、少し胸がドキドキと脈打っていた。

 少年の顔立ちはめっちゃ整っていたうえに、小さな体で縋りついてくるその姿がたまらなく可愛かったのである。

「私たちは、あなたのように鬼力デラに目覚めながらも、【神英騎士団】に処される運命にある子たちを集めて、力を合わせて生きているの。……まだまだ説明しなきゃいけないことはあるけれど、今は急いでこの場を離れなくっちゃね」

「……嫌です」

 リィはお腹に抱き着いている少年を強く抱きしめ返しながら、アフロオカマを睨んだ。静かに……だけど、凄みを含む迫力満点の言葉だ。アフロは首をすくめて「面倒くさいことになったわね」と一人ごちる。

「あなたも勘づいているだろうけど、【神英騎士団】がもうすぐここに来るのよ。さっきも言った通り、私たち【闇の騎士】は彼女らに好かれちゃいない。あなたも当然、私たちも消されることになるわ」

「【神英騎士団】は正義の騎士団。それに消されようとしているってことは、あなたたちが悪人ってことです!」

「あなたを存在ごと否定し、あなたの育母——ローサを殺したあの騎士団が?」

「っ——‼」

 遥か過去のものとなった、ローサとの平穏で幸せな日々を思い返す。ローサの笑顔、優しい言葉、温かい温もり——。

「もう時間がないわ。本来、奴らは私たちなんかよりよっぽど手が早い。全世界に同志を潜ませているからね。とにかく、私たちについてきてからでも——」

 アフロオカマの言葉が中断された。

 突如、アフロオカマの姿がブレる。その場から高速移動をしたのだ、と理解した時には氷漬けの氷塊となったアフロオカマが宙から落下してきて地面に激突したところだった。

 ピシッ。氷塊ごと、アフロオカマのわき腹にヒビが走る。赤い血が氷の中で滲む。

 ——いつの間にか、一面が白銀だった。

 この寒さ、見覚えがないわけがない。あたりは見渡す限り完全凍結していて、街の子供たちの泣く声が収まっていることからも子供たちごと凍らせてしまったのだろう、ということがわかる。

 リィは最初、自身の炎の力のおかげで助かったのだろうか、と思っていた。リィは何度もその謎の力のおかげで日常を奪われ、窮地を脱し、寒さや熱さから逃れることができた。

 だが、恐らく今回は違う。

 地面を覆う霜は、少年を中心に避けるように円を描いていた。地面についていたリィの掌だけが少年から距離がありすぎたのか、凍り付いて地面に張り付いている。

(冷たっ——)

 無意識のうちに炎を発火させて溶かそうとし、ビクともしないことに驚愕を覚える。純粋に炎の火力が足りない。地下牢で悪鬼を退けた炎の力をもってしても、解かせないほどの鬼力が込められた氷なのだ。

 そして、少年だけがそれを寄せ付けない『絶対領域』のような不思議な力で助かっているのである。

 少年がリィの掌に触れることで、その氷もみるみると溶けていった。

 恐る恐る立ち上がり振り返ると——そこには「いろんなもの(、、、、、、)」がいた。

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