殿下、私の田舎スローライフは?
「エリ、私は君を愛してるよ。だから、田舎でスローライフなんて言わないで。エリと離れるのは嫌だ」
「えっ」
これでは、私の願いが叶えられない……!!
ん?私の願い?それはね、田舎でのスローライフなんだよ!!!(キレ気味)
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私は都会で生まれ、都会で育ち、都会で働いた。だから、自然と全然触れ合えていない。
私は老後、定年退職したら田舎に行ってのんびり過ごそうと、まだ二十代後半だけど計画を立てていた。
というかそうしないと、私の精神が持たなかった。
……運が悪く、私が就職したのはブラック企業だった。そして私は過労死してしまったっぽい。
いや~、自分でも軽く言いすぎているとは思うよ?
だけど、なんか異世界転生したらしい。だからか、前世にはそんなに未練がない。
まああるとすれば、田舎のスローライフに関する事ぐらい。
でもそれは転生したから、こっちで果たせばいいんだよね~。
転生したから特別に体が動かせるとかはあるわけがなく、体が思う通りには動かない。それに、皆の顔がぼやけて見えるぅ~。
あ、でも母親らしき人、父親らしき人、乳母らしき人は何となく、過ごす時間が長いからか分かるよ!!
だけどそれ以外の人は判別不可。
ま、まあまあまあ。まだ赤ちゃんだから。ね?
そして3歳になりましたパンパカパン!!
私は3歳の今までで、いろいろな事を知った。
まずここは、やっぱり違う世界。そして、魔法を期待したりもしたんだけど、魔法はこの世界になかった……。
で、私は公爵令嬢だと言う事も、知った。そしてその事を知った時、私の願いは叶うまで遠いという事を知った。
そもそも公爵令嬢に田舎のスローライフなんて事、許されるのだろうか。
いいや、許されないだろう。幸せのない政略結婚とかしか思い浮かばない……。
いや、それこそないな。両親、ママもパパも私の事を溺愛している。だから私が不幸になる政略結婚はないだろう。
だけどママもパパも、私が田舎でスローライフをしたいとは知らない。
だから不幸にはならなくとも、私の中では本当の幸せというのは築き上げられないだろう。
はあぁ~〜。公爵令嬢だから、贅沢はできるよ?だけど、私は贅沢を望んでいたわけでは無いんだよっ!!
……まあ、こんな事人に言えないんだけどさ。
そして5歳から、勉強が始まった。
家庭教師からは、褒められた。……マナー以外。
しょうがないんだよ!?言い訳じみてるけどさ。マナーとか、カーテシーとか、知ってるわけないじゃん?
だけど数学とかは、チョチョイのちょいだった。5歳が習うのなんて普通にスラスラ解ける。
……でも私は5歳が習うものだと思って普通に解いていたが、私が出来すぎて学園で習うレベルのに変えていたらしい。
学園で習うレベルが、かけ算だなんて思うわけがないでしょっ!!どんだけレベルが低いんだっつーの。
あ、学園は12歳から18歳までの貴族と平民の特待生が学ぶ場。
う~ん。行きたいような、行きたくないような??
なんだかイヤな胸騒ぎがするんだよね。言い訳じゃないよ。言い訳っぽいけど。
そして6歳。王城で開かれるお茶会に招待された。王子は私の一つ年上の、7歳と同い年の6歳らしい。
あ、これあれだ。婚約者と側近を決めるやつだ。
うん。目立たないようにしたい。無理だと分かってるけど。
だって、私は筆頭公爵家の令嬢だもん。はあ、猫被りを頑張らなくちゃ。あ、でもパパに確認しよう。
「パパ~!!」
「ん?どうしたんだい?僕の天使」
「もうっ!私は天使じゃない!あのね、私が王子様の婚約者に選ばれなくてもいい?」
「勿論だよ!!エリが幸せではないんだったら、婚約する必要はないからね!」
あ、私はエリナと言う名前で、その愛称でエリ。パパは私を溺愛し過ぎている。だから私を天使と言う。
いや、私、とっても可愛いし綺麗だよ?うぬぼれではなく。しかーし!天使は言い過ぎだと思う。
というか本物の幼児なら、その言葉を信じて、性格がアレになると思う。アレだよ、アレ。わざわざ言ったりはしないけど。
まあとにかく、私はパパと一緒にお茶会へ。目立たないのは無理だから、できるだけ気に入られないように。
そしてお茶会会場は、薔薇が咲き誇りとても綺麗で、ロマンチックで、ファンタジーな場所だった。
あ、うちは筆頭公爵家だから一番に王子達に挨拶する。
私は習ったカーテシーを披露する。
「王太子殿下、第二王子殿下、はじめまして、サーガウィー公爵が第一女、エリナにございます」
「顔を上げて」
「はい」
ふわわぁ~。流石王子、とっても綺麗な美形。子供でこれだなんて、大人になったらが怖いね。
「「「………」」」
む、無言~!!お、王子達、何か話題振ってよ!!振らないんならもう行っちゃうよ!?
「…ではこれで失礼いたします」
「「えっ」」
いや、こっちがえっ?だよっ!!
まあいいや。声をかけられたわけではないからね。
今回は立食型のお茶会だったから、立ち食いをしている。流石王城!!めっちゃくちゃ美味しい~~!!!!
そうして私は時間を忘れて食べ続けた。だけどお腹に入るのは限界がある。も、もう無理。
私はブラブラと人のいない方に行ってみた。
!?誰かに腕を掴まれた。
「驚かせてごめんね。でも話して見たかったから…」
「は、はあ」
うげぇ。そう思った。…顔に出てしまったらしい。
「流石にその顔は傷つくなぁ。ねえエリナ嬢、君だけなんだ」
「な、何がですか?」
「私達と全然話さなかったのが」
「えっ??」
や、やってしまったーー!!!
そうか、もうちょっと話さなければ不審ではなかったのか…。
「何で?私達王子の婚約者や側近になる為に、皆とても躍起になってるのに」
「君は、#何が__・__#他の人と違うんだ?」
「わ、私は王子の婚約者など、望んでいないのですっ!」
「それは何故?」
「だ~~!!しつこいっ!!!私はただのんびり、田舎でスローライフを送りたいだけなの!!だから婚約者だなんて興味ないのっ!!分かった!?……はっ!」
私はそっと王子に視線を戻して、またはずした。
お、王太子殿下、笑顔が黒い。
「ふ~ん。ねえエリナ嬢、君のその願い、叶えられるよ。私と結婚すればね」
「は?」
「だって、私と婚約しなかても、他の人とする事になるかもしれないでしょ?なら、私と婚約しなよ。私の妻になれば、最低限の政務をしてくれれば自由にしてあげる。どう?」
「おっ、王太子殿下!!私と婚約してくださいっ!!!」
「うん。よろしくね、エリナ」
うん。若干乗せられた感あるけど、田舎でスローライフに繋がるならいいや。
そして学園入学です。……この世界では、私の常識が常識ではないらしい。
学園は全寮制。うん。これはいい。でも私の常識ではないのはここからで、婚約している者は、婚約者と一緒の部屋に住む。
これが普通らしい。ここの常識、異常だと思うの私だけ!?
6歳から今まで、レオ、あっ、王太子殿下の名前はレオンね。レオとは、最低限のやり取りだけだったのにぃ。
まあ最低限と言っても、仲良く見せる為に手紙などのやり取りは頻繁にやっていたんだけどさ。
「エリ、よろしくね」
あ、あれから呼び方がエリナからエリにランクアップしたよ。私は王太子殿下からレオにランクアップ。
そしてレオはスキンシップが過剰な気がする。…私の気のせいか?
なんか、会うたびに抱きつかれるし、個人的に会うと、膝の上に乗せられる。
最初は流石にドギマギしたけど、なんかもう最近は慣れちゃった。
あ、レオと同じ部屋でよかった事もある。例えば勉強で分からない事があれば聞けるとかね。
そして私は学年一位を保った。それと筆頭公爵家だという事が合わさって、私には友達が少ない。というか少な過ぎるっ…!!
今は二年生。クラスは成績で分けられるから、ほとんどクラスメイトは変わっていない。だけど、今日転入生が来た。
その転入生がくせ者で、男子ばかりに話しかけている。だから女子ウケがとことん悪い。
私もいい印象はない。煩いんだよね、あの子。そして何故か私を睨んでくる。……話したことも無いはずなのに。
そしてその子が転入して来た日も、食堂でレオンに膝抱っこされて食べていた。
そこに、転入して来た子、確かキャロンが急に割り込んで来た。
この瞬間、私の中でキャロンは嫌いリストに入った。
ちなみに余談だけど、この嫌いリストは作ったものの、誰も書き込まれていなかった。ははっ。記念すべき1人目だ。
「レオン様~。この女が何で膝の上に乗っているんですか?こんな性悪女には、ちゃんと言わなきゃですよっ!」
キャロンはそう言って頬を膨らませ、プンプン、とした。
……。食堂に居る人は皆、キャロンが言った事を飲み込めず、固まっている。そして理解した瞬間、皆冷気を放ってる。
その事に気づいていないのは、言った本人だけだ。
この子、アホの子だ!!
まず、王太子であるレオをいきなり名前呼びはない。しかも初対面だよね!?
次に、私を性悪女だと言うのがアウトッ!!私はこれでも筆頭公爵家、つまり王族の次に偉い家柄だ。
だからまだ喋った事もないのに、しかも平民であるキャロンが言えるわけないのだ。
……それに何か胸がモヤモヤする。
「ねえ、君」
「は~い!何ですかぁ。あ、私はキャロンですよっ。キャロンと呼んでくださいね」
「君、バカだね。私、君に会ったの、今初めてだよ?なのに何でレオンだなんて呼べるのかな?そもそも、エリは性悪ではないよ?なに勘違いしてるんだ。それを言うなら、君の方が性悪だろう」
おお~!レオカッコイ~!!
「な、何よっ!!私が性悪だと言うのっ!?」
「そうだよ。それに君は不敬罪と言う言葉、知ってるかな?君はそれに当てはまる。この事は報告させてもらうから。覚悟しておいて。…とりあえず、私の視界に入らないでくれる?不愉快だ」
そしてこの騒ぎは終わった。
だけど、私の胸はモヤモヤしたままだ。
私とレオの部屋に戻った。そして私はベッドへダイブ。
もう、ヤダ。もう婚約破棄を、勝手にして、パパの怒りか陛下の怒りを買って、平民になれないかな~。
…これが声に出ていたらしい。
「……なにそれ。そんなの許さないからね??」
えっ!!振り返ったら、ドアのところにレオがいた。さっきの、声に出ていたらしい。とても怒っていらっしゃるぅ!!
ひえぇっ!こ、こっちに来るぅ~!!
「これまでの6年でも、私の気持ちは届かなかったらしいね。エリ、私は君を愛してるよ。だから田舎でスローライフなんて言わないで。エリと離れるのは嫌だ」
「えっ。わ、私のスローライフゥ~~!!」
「ねえエリ。ちゃんとこっち向いて。エリは私の事、どう思ってる?」
私?考えた事もなかった。
ああ、そうか。だから胸がモヤモヤしたんだ。
「…レオ、私もレオを愛してる」
「エリっ!!」
そう言ってレオは私を抱きしめて、キスをした。私の前世も含めたファーストキスだ。
抱きしめキスをして、しばらくたった。
……もう言ってもいいかな?
「でもね、レオ。私、田舎でスローライフはしたいの」
「……エリ??」
レオ、顔が引き攣ってる。せっかくのイケメンが台無しだよ?
「ちゃんと最後まで聞いて!レオは王になるでしょう?だから、レオと私の子が王になったら、隠居して二人で田舎に行こう?そして、スローライフを過ごしたい。二人だけで」
「エリっ!!勿論だよ。これからも、幾度生まれ変わろうとも、愛してる。梨花でもエリでもある君を」
「えっ??」
な、何で私の前世の名前をっ……!!
はっ。
「しゅ、俊?」
レオは笑みを深めた。
答えはそれだけで充分。
「私もね、貴方を愛してる。これからも、何度生まれ変わろうとも、愛してる!俊であり、レオである貴方をっ!!」
そして私達は、またキスをした。
前世では叶わなかった恋も、スローライフをも手に入れた私は、この世の誰よりも幸せだと思う。