6、2020年6月 新しい派遣先
無職になるといつも思うのが、自分にはニートの素養がないということだ。
最初の3日間くらいは好きなことをして過ごしてやろうと意気込むのだが、すぐに働いていない罪悪感や将来への不安に苛まれて何やってもつまらないという状態になってしまう。せめて普段できないようなこと、長期旅行が出来たらよかったのだが今年はコロナでとてもそんな感じじゃなかった。家にこもって勉強するしかない。理想的な状況と言えなくはない、のだがそんな生活、息がつまってしまうに決まっている。
アパートは壁が薄い。隣の人もずっと家にいるのがなんとなくわかる。無職仲間だな(笑)。(いびきに切れながら)
****
6月に入ってしばらくして派遣会社から次の会社を紹介された。
とにかくなんでもいいから、もう働きたい気分になっていた。(不思議なもので働きだすとすぐ辞めたくなるのだが)
そこは憧れの社員食堂があって、なかなか有名な会社で話だけ聞くと好条件の会社のように思えた。が、そんなに上手くいくわけがなかった。
【働きだす前の健康診断でなんか知らんけど、いつ痛風になってもおかしくない状態になっていると言われた。ビールは全く飲まないし、そんな贅沢もしてないので原因はよくわからなかったが、とにかく薬を飲むしかなさそうだった。】
その派遣先のことを悪く言いたくはない。彼らはいつも通りに仕事をしていただけで特別、自分に冷たく当たっていたというわけでもない。だから自分が勝手にやっていけないと感じただけで、要するに本当に合わなかったとしか言いようがない。
それに言いたくはないが自分にはそこの仕事をこなす能力がなかった。
働きだしてから気づいたら体重が10キロ落ちていた。これはたまたま7月末に銭湯に誘われたときに量って気づいた。(自分のアパートには体重計がない)
もともと眠りが浅いたちだが、より頻繁に目が覚めるようになった。会社にいる間、ずっと人の顔色を気にしていた。少なくない暇な時間が苦痛だった。役に立てないのが申し訳なかった。しかし頑張ってどうにかなるとも思えないレベルだった。
自分を守るために辞めさせてもらうことにした。勝手だと思う。
契約上、辞める1か月前に言えば問題はないのだが、それでも迷惑をかけたことには違いなくと申し訳なかった。前回首にされて派遣社員というのはこういう扱いをされるものだと判ってしまって、逆にそういう扱いをされても文句は言えない分、自分だってそういうことをしてもいいのだと、そんな考えもあった。
悪いのは自分だ。四六時中勝手に人の顔色を窺って、勝手に疲れ切っていた。だが、その悪いところを改善できるとは思えなかった。いろいろ相談して9月の頭で辞めさせてもらうことになった。
****
自分は一体何なんだろうか。
前いた会社では割と重宝されていたのだ。(首にされたのに?)なのに、新しい会社に来たらまるで役に立たないと言われる。自分自身は大して変わっていないはずだ。なのになぜここまで評価が変わるのか。
自分に自信が持てない。自分は普通なのか劣っているのか。前の会社がいいところだったのか。たまたま相性が良かっただけなのか。ここが相性が悪かっただけなのか。
頼りになると言われれば、有能な気になって、役に立たねえなと言われると、本当にそんな気になる。(実際役に立ってない)
俺はすげー駄目な奴なんじゃないのか。迷惑をかけて申し訳ない。
何度こんなことを考えたか判らない。社会で人と関わらずに生きていく方法はないか。動画投稿者、転売、宝くじ、株、自分にできそうなのは……宝くじくらいしかない。
もうこれしかないとサマージャンボを買ってみたものの、当たらなかった。いやこれでいい。ここで運を遣ったら、電験に合格できなくなってしまう。
運? 自分は運で合格するつもりなのか?
それは違う、はずだ。
****
仕事の復習をしないといけなかったため、勉強の時間は減ったけれど、それぐらいでちょうど良かったのかもしれない。残業のない会社だった。帰ってから5時間近く、さあ勉強していいよと言われても、それはそれで辛い。
8月に電験の模試があった。大手の通信教育会社様が開催してくれているもので2500円くらいで1科目受けられた。自分の実力を試したくなって受けてみた。会場で受験する方式と、自宅で受験して郵送で送る方式があって、自分は自宅で受験した。コロナがうるさいということもあったけれど、そもそも田舎なので会場まで遠すぎた。
2週間ほどして結果がネットで公表される。点数は70点だった。そんなに人が受けているわけではないけれど、上位の方で結構いい感じなんじゃないかと思った。が、すぐに不安になった。まぐれ当たりが2問、実質60点。……合格ギリギリだ。でも、順位的には、いや、それは根拠にはならない。
電験の雑誌でも8月には毎年恒例の予想問題が掲載される。買って解いてみる。問題数が本番とは違って13問だった。13問中7問正解、割合で見ると53.8%。
……不合格じゃないか……。
他の予想問題もなんだか良かったり、悪かったり……。
どうなんだろうか。模試は実際の試験よりもやや難しめに作られるという話があるけど。どうなんだ。
俺、実力ついてんのか、これ? 1年集中してやって、コロナで1月勉強してこれで駄目だったら、俺は何をしていたって言えばいいんだ。
何をしていたと言える?
うだうだ考えても仕方ない。本番前に判らないところや、足りない知識が知れてよかったと考えて、前向きにやっていこう。と自分に言い聞かせる。
****
新しい派遣先で評価されなくても、仕事は全然できなくても、それでも資格が取れたなら自信がつくんじゃないかって考えていた。仕事で落ち込んだら、逆に勉強を頑張ろうという気になった。こんなの結局逃避じゃないのか。もし、ここまでやって取れなかったら俺は本当にただの間抜けで、ただの仕事のできない無職なりかけの人間でしかない。それは嫌だ。
そうならないために今日も過去問を回す。間違えたページに付箋を貼り、覚えておくべきことを紙に書いてまとめる、目につくところに公式を張り付ける。
ずっと繰り返している。
****
梅雨はずっと雨が降っていて、梅雨が終わるとすぐに滅茶苦茶熱くなった。8月は日中外に出る気にはなれなかった。でも、雨が降ろうが暑かろうが部屋の中で机に向かう分には関係のない話だ。ただ、気分を言い訳にしているだけだ。
去年も一昨年も図書館でよく勉強していたのだが、今年はコロナで自習室自体閉まっていて、アパートで勉強するしかなかった。うんざりしていた。仕事に行く時以外、ずっとこんなんじゃねえか。
司法試験が8月の半ばに行われた。その結果次第では(コロナのクラスターが発生するか、しないか)電験はもしかしたら延期ないし中止になるかもしれないと思ったが、幸いクラスターは発生しなかったようで、8月の終わり受験票が届いた。
受験票にはコロナ対策用のアプリをダウンロードしてくださいと書かれていたが、自分のスマホには容量的な問題で入らなかった。電話で聞いてみると、別になくても大丈夫だと言われた。
そんな感じでまた無職になって、気づいたら試験まであと一週間というところまで来ていた。




