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電験三種と過ごした日々  作者: 37,5or9
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・ヒッチハイク【完】

・ヒッチハイク【完】


 皆さんは海外旅行に行ったことはあるだろうか。


 私はない。行ってみたいなあ、と考えだした矢先にコロナウイルスだ。この状況はいつまで続くのだろうか。なんだか最近(2023年1月)過去最高に悪い状況らしいのだが、街を歩いていても、別に自粛とか緊急事態って雰囲気ではない。

 なんだかもうよく判らない。この世界は私にはよく判らないことばかりだ。ワクチンも3回目までは接種したのだが、4回目はもういいかな、と考えている。2回目、3回目は副反応がひどかった。会社で集団接種が開かれていたのも3回目までだった。3と4の間に何があったのか、これもよく判らない。結局私は周りに流されているだけだ。

 ただワクチンを3回目まで接種すると、映画の割引を受ける権利が出てくるので気になる方は調べてみてほしい。(何回この話するんだよ)


**


 ヒッチハイクというか全然知らない人を車に乗せたことは2回ある。


 1度目はコンビニから出たところを、女性二人に声を掛けられた。また宗教かなと思ったのだが、話を聞くとどうも帰りの足がないらしく、乗せてくれないかと頼まれた。私は正直面倒だし少し怖いと思った、だが困っているのに断るのもどうなんだろうかとも思った。どうせ私には急ぎの用なんてなかったので、結局送っていくことにした。正直乗せなければよかった。こんなことを書きたくはないが、実はあまり感じのいい人たちではなかった。

 後でこのことを会社の人に話してみると、そういうのは美人局つつもたせの可能性があるから絶対やらない方がいいと注意された。確かにその通りだ、善人ぶって面倒ごとに巻き込まれたなら、本当に間抜けな話だ。皆さんは注意してほしい。


 **


 2度目のときはフランス人青年2人だった。

 まだ生産管理の仕事をしていたころの七月の土曜日、私はなんとなく海を見に行くことにして県をまたぐ大きな国道を走っていた。(もちろん車で)

 遠目から歩道に人が見えた。縁石の上に立って、車道側に手を伸ばし親指を立てていた。


(ヒッチハイクだ)


 それだけなら素通りしていたかもしれない。だが、その青年は会社の人に似ていた。私はいろいろあって……その人のことが苦手だったけれど、困っている人を放っておくべきではないと思う気持ちもないではない。もちろんその日も暇だったというのもある。もしも電験三種の試験前だったとしたら素通りしたと思う。


(車壊れたんだろうか)と思いながら近づいていく。


 だが近くに車はない、とすると単純にヒッチハイクしているのか、何かの事情で車から放り出されたのか。

 さらに近づく。


 ……会社の人ではなかった。


 そりゃそうだ。よく考えればそんなわけはない。さらに近づいていく。肌は浅黒く、黒い髪を後方に流していた。首には真珠のネックレスを、木製にして二回りほど大きくしたような首飾りをつけていた。なんとなく格闘ゲームのキャラクターのように見えた。


 (……) 結局、通り過ぎた。


 ……のだが、次の交差点を左折して、グルッと一周して戻ってみることにした。ヒッチハイクなら乗せてあげようかなと考えたのだ。これは偽善半分、なんか楽しいことが起きたらいいなというのが半分で、善意はなかった。その日は晴れていて日差しは強かった。


(一周して戻る間に、誰か他の人に乗せてもらっている可能性もあるな)


 とも思った。それならそれで別にいい。普通に海まで行こう。2周目、彼はまだ縁石に立っていた。でも……通り過ぎてしまった。


 いざ声を掛けるとなると、メチャクチャドキドキして緊張した。


(やっぱり駄目だ。俺以外の誰かが助けてあげてくれ)と思いながら通り過ぎた。……で、また交差点を左折した。次戻ってまだ居たら今度こそ乗せてあげようと思った。我ながら訳のわからない思考と行動だ。


 まだ彼は立っていた。ハザードランプをつけて止まる。助手席の窓を開ける。海外ドラマの俳優を思い浮かべる。「どこまで?」みたいな感じでさわやかに自然に話しかけようと思った。が、無理だった。


「ど、どこまで行くんですか」(日本語)みたいなことを聞いてみると、隣の県の名前を告げられた。それなら、はい、通り道だから(日本語)と乗せてあげることにした。


 とそんなことをしていると、歩道の方からもう一人あらわれた。私は三周しておきながら、彼の存在にはまるで気がついていなかった。相変わらず迂闊だ。


 もう一人の彼は肌は白くて、顔は小さく日焼け跡があった。金髪をやはり後ろに流していた。


**


(なんで気づかなかったんだろう)


 最初の彼をA、次の彼をBと呼ぼうと思う。

 私はバックドアを開けた。トランク(正確にはトノカバーの下の部分)に荷物を積んでいると、後ろに黒いミニバンが止まった。家族連れが乗っていて、お父さんとAさんが話し始めた。私はその様子を見ながら、ミニバンの方がいいだろうな、と他人事のように考えていた。なんだか外国人の青年二人を乗せて走ることになるというのが、現実味のないことに感じられ、自然と現実逃避みたいな状態になっていたのだ。(お前が声かけたんだろ)


 結局Aさんは家族連れの誘いを断ってこちらに戻ってきた。なぜ断ったのか判らなかった。あるいは自分の方から言うべきだったのかもしれない。ミニバンの方がいいよ、あっちに乗った方が快適だし楽しいよ、と。


**


 Bさんは助手席に乗り、Aさんはその後ろに座った。いざ、走り出そうという段になって、今更不安になった。


(なんだかすごいことになった)


 自分の車に知らない外国人が二人乗り込んでいるというのは、なんというかあまりにも非現実的な気がした。


**


 いろいろと話した。


・二人はフランスの大学生で(院生とか博士とかそのあたりは判らなかった)卒業旅行で日本に来た。

・フランスでは卒業旅行するのが一般的らしい。

・彼らは『麻酔』について学んでいるそうだ。でも医者とは違うらしい。

・ヒッチハイクは青森からで、山口まで行く予定らしい。

・ホテルではなく公園でテントを張って休むこともあるらしい。


 おお、結構話したな。やるじゃないか、と思ってくれた方も居るかもしれない。


 が……申し訳ない。ほぼ全部日本語で話してくれたのだ。(!?)すいません。


 フランス語は全然わからない。私の知っているフランス語は「断頭台への行進」(マルシェオシュープリス)だけだ。挨拶もありがとうも、出てこなかった。


 もちろん彼らは英語も話すことができた。だが私はできなかった。車を運転しながら英語を考えるって、想像以上に難しかった。Bさんの話す内容に対して『すごいすごい』と完全な日本語でリアクションを取っていた。なんでだろう。


■■


 Bさんはクラシックが好きで、ピアノも弾けると言っていた。


 私はそれだ!と思った。

 

 私はオーディオに手を伸ばし、できる限り選局してみた。どこかのラジオ局でクラシックが流れていることを願って……が、駄目だった。


(自分のCDにしようか)と何度も考えたができなかった。指でちょんとスイッチを押せば、ラジオからCDに切り替わる。だが、私は勇気がなかった。私は好きな曲を入れてCDを焼くタイプの人間だ。(クラシック曲は入っていなかった)どれも好きないい歌だ。だが、彼らがどうとるか判らない。それが怖かった。もしかしたら、『最高にクールだね』となって盛り上がった可能性だってある。でも私は失敗を恐れて、何もしなかった。あれは本当に駄目だった。


**


 いろいろ無理をした。

 エアコンのスイッチを入れ(それでも涼しくならなかったので結局窓も半分くらい開けた)、普段なら利用しないのにその時は見栄を張って高速道路に乗ることにした。(途中で迷った)でもヒッチハイクの旅なら下道の方がよかったかもしれない、と今になって思う。


**


 ふとある考えが浮かんだ。

 彼らがもしも万が一、仮に、なにかよからぬことを考えていたとしても、運転中の私はそれをどうすることもできない、ということだ。運転中というのはあまりにも無防備だ。何をされても抵抗できない。私は少し怖くなった。


 でも彼らの方がもっと怖かったかもしれない。だって私の運転だ。


 実際のところ、彼らは全然悪い人ではなかった。人の良さがなんとなく判った。2人だけで外国語で話をされていたりしたら、ちょっとやだな、とか思ったのだが、そんなこともなくてマナーがよかった。


**


 隣の県に入ったあたりで、もう大丈夫だと言われたので。コンビニで降ろすことにした。私はせっかくだから海に行かないかと、聞いてみたが断られた。そして別れた。二人ともきちんと挨拶をしてくれた。Aさんは手を合わせて頭を下げてくれた。首に巻いたアクセサリーとあわせて考えるともしかすると仏教徒なのかもしれない。と、テキトウなことを考えた。


 疲労困憊していた私はいそいそとコンビニを後にした。いいことをしたには違いがない。だが自分がやる必要はなかった気もした。でもまあ、未来ある若者を無事に送り届けたのだから上出来だ。もし彼らに何かあったら国際問題になっていたかもしれない。


 海外を旅する人はすごいと思う。


**


 ヒッチハイカーを乗せることは、勧めることはできない。というのもトラブルに巻き込まれる危険があるからだ。だが、そんなことを言い出したら何にもできなくなってしまう。そこが難しいところだ。


 今はもう居ないけれど、この車に短い間だけでも誰か乗っていたのだと思うと不思議な気がする。



■■■■


 以下、妄想です。


■■■■



 夕暮れ、青年がヒッチハイクをしていたので止まってみることにした。


 どこまで行くのかと聞くと、彼は隣の県まで、と答えた。隣の県に用事はなかったが、そもそも私にはこれといった用事がなかったので乗せてみることにした。色々なことに退屈していた。彼は首に巻いたタオルで汗を拭いてから、礼を言って助手席に座った。しばらくするとこんなことを聞いてきた。


「この辺に何か用事があったんですか?」


 何故そう思うのか、と聞き返してみる。


「いや、なんだかこの車何度か見かけてような気がして」


 それは他人(車)のそら似だろうといって誤魔化した。


「いつもラジオを聴いているんですか?」


 質問の意図がよく判らず、いつもはCDを聴いているが、と正直に答えてしまった。失敗だった。


「どうぞ、お気になさらず」


 促されたが、左手でオーディオを操作しようとして手が止まる。


「どうぞどうぞ」


 私は上手く説明できる自信がなかったが……言うだけ言ってみることにした。

 私は歌が好きで……だから私を馬鹿にするのはかまわないが、歌を馬鹿にされた場合、君の命の保証はできない、と正直に伝えた。


「判りました」


 彼は腕を組んでしばらく考えて、頷いてそれからそう言った。あるいは「判ります」と言ったのかもしれなかった。


 私は観念してCDを再生する。




挿絵(By みてみん)




「これはなんていう曲ですか?」


 彼は1曲1曲、曲名を確認した。知っている曲もあるだろうにと思ったが。リュックから取り出したメモ帳に律義に全てメモをとった。


「好きな歌が判るとその人のことが判るような気がします」 


 私は嫌だな、と思った。べつに理解してほしくはなかったからだ。彼はその後、膝の上で両手の指を僅かにリズムに合わせて動かしていた。それが気になった。なにか楽器をするのか、と聞く。


「探偵みたいですね」


 感心したようだった。探偵よりも刑事(デカ)になりたかったのだ、と言ってみる。警察をやっている知り合いが居る。立派だがそれ以上に大変な仕事だと思う。私はオススメしない。

 彼は最近練習を始めたと言った。


「人に聴かせられるほどではないですが」


 いい趣味だと思う。私は小学校で習ったはずなのに楽譜が少しも読めない。楽譜が1つも読めないのに、音楽が好きというのは……もしかしたらおかしいだろうか。


 CDが一周してしまうと話題がなくなった。


 私は隣に人が居ることを忘れて小さく歌いだしてしまった。彼は気にしていない様子だったので、まあいいかと続けたのだが、1つ問題があることに気づいた。今歌っている曲には高速で英語を刻むように歌い上げる箇所があった。そして私はその部分を歌えなかった。正確な歌詞さえ覚えていない。徐々にその部分が近づいてくる。敗北が迫ってくる。あるいは私が敗北に向かって進んでいるのだろうか。人生とはそういうものだろうか。

 もし誤魔化したことを笑われたら……いや、それは私が笑われるということだから問題はない。私は結局英語パートを歌わずに済ませることにした。さあ、笑いたければ笑え。


 だが彼は笑わず、歌を歌い出した。果たして彼は正確に高速英語パートを歌いきってみせた。私は驚き、賞賛した。


「ヒッチハイクする前に練習していたんです。いろんな曲を」


 喜んでもらえたらいいと思って、と彼は続けた。私は嬉しくなってもう1度歌っていいか、と訊いてみる。合わせてみたくなった。彼は何度でも、と快く応じてくれた。


 しばらく一緒に歌って、もうじき別れるという時になって、肝心なことを訊いていないことに気づいた。なぜヒッチハイクをしているのか、ということだ。


「昔読んだ本のことを最近思い出して」


 へえ、それはどんな?


「ある部族の話なんですが……」



【完】

今度こそ終わりです。

読んで頂いて本当にありがとうございました。お元気で。


**


【2023.01.14 追記】

 

 今日久しぶり(1週間も経っていないのですが)にログインしてみると、誤字の報告があった。ちゃんと読んで、面倒だろうに誤字の報告をしてくれる方もいらっしゃるのは本当にありがたいと感じた。ありがとうございます。


 私がこんなに何度も追記を繰り返した理由は、現実逃避の部分も大きいけれど、それ以上に自分の書いた文章を誰かに読んでもらえるということが嬉しかったからだ。現実で悩んでばかりいるよりは、文章を書いている方が楽しい。それを誰かに面白がってもらえれば、なお嬉しい。


 身の回りの物はほとんど電気を使っているし、私はこれからもやらかし続けるだろうから、続けようと思えばいくらでも続けられる。でも、ものすごく今更だが、もはや小説じゃないよなあと思う。私自身そういう意識があって、なあなあで投稿してしまっていたりして、やはり駄目だと思う。

 いい加減な知識で電気や車について語るのも申し訳ないし、私自身恐ろしい。だったら書くなよ、という当然の気持ち以上に、私は文章を読んでもらたかった。でも電気を人質にして読んでもらっているという罪悪感があった。もし仮に、またなにか書くとしても別の小説として出そうと思う。


 うすうす気づいておられる方も多いと思うが、私は本当に大した人間ではない。判らないものは今でも判らないままだし、機械の科目合格は運がよかっただけだ。でもそんな人間でも資格を取ることはできた。受験時も今も独り身で派遣社員だったり無職だったりで、世間体は悪いが、勉強時間を捻出することは社会人や学生の方よりも簡単だったと思う。


 私が勉強を始めたのは5,6年くらい前だけれども、その時と比べても近年の参考書の進化は目覚ましいし、動画投稿サイトでも電験三種や電気関係の動画がものすごく充実している。正直この小説を読むよりもはるかに勉強になる。

 そして最近、試験が年2回になった。これが本当に大きいと思う。受験チャンスが増えるし、半年に1回ならモチベーションも維持しやすいのではないかと思う。

 何が言いたいかというと、今がチャンスだということだ。資格を取ってしまって次に進んで欲しいと思う。

 私も私で、どうにかしていこうとは思います。


 とにかく電験三種は取ってしまってください。

 交通安全、無事故、無災害、健康にはお気をつけて。


 ありがとうございました。



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