3、太陽電池 2019理論
結局理論は駄目だったのだが、試験終わった直後はもしかしたらギリギリ受かっているかもしれないという望みを捨てきれていなかった。
午後の法規まで時間があったので(理論は1時間目、法規は4時間目だ)1度、アパートに帰ることにした。試験がまだ残っている状態で、済んでしまった科目の自己採点をするのは精神的に良くないと言われている。が、してしまった。もし合格点に達していなかったら、もう法規を受けるのは止めようかなという考えもあった。
この年は大手の解答速報を待たずに、というよりもそれより先に解答速報を出してしまおうという有志の方々が、試験が終わった後速攻で手作りの解答速報を出してくれていた。
それを見て、理論の自己採点をする。
果たして55点だった。
例年55点が合格点となっていた。60点が基準の年もあるが、それは稀だ。だからつまり
(合格した!)
と、立ち上がってガッツポーズを決めた。
普段はガッツポーズなんてしない。半分ふざけてやってみた。昔好きだったお笑い芸人のドラマの真似をした。
そうだ、ここまで頑張ったんだから、報われなかったら嘘だ。ギリギリで俺は勝ったんだ。意地悪な問題が出ようと俺の努力が~~。いろいろなこと思った。
採点が終わって理論の問題用紙の表紙にデカデカと55/100と書く。普通に考えて大した点数ではないのだが、私にとっては100点と変わらないくらい価値があった。そして合格と書き込む。
(勝った)
そうこの時は信じていた。
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一度有頂天になったものの、まだ法規が取れなければ意味がない。
意味がないのだ。
そう考えだすと、急に気分が悪くなってくる。昔録音したカセットテープを探しだし、林原めぐみ様の『Give a reason』という曲を繰り返し聞いて、恐怖心を抑えようとした。それでも落ち着かず、昼食をとったらさっさと大学に戻って、自習室で勉強することにした。アパートにいてもまるで集中できなかったからだ。
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法規が始まる。
これで最後だ。これで全力を出し切れば、もう終わりだ。そう思って挑む。
どれもこれもつかみどころのない問題ばかりだ、論説問題に比べたら計算問題の方がまだ自信をもって答えられる。
日本語の微妙なニュアンスの違いはそんなに重要なことなんだろうか? いや重要なのはわかる。これはそういう科目だから。でも試験問題として適切なのか? この問題一つで1年勉強してきた人の合否を分けていいのか? 自分自身適切な試験問題なんて判りはしないのだが、そんなことを考えていた。偉そうに。
あれだけ読み込んだのに、自信をもって答えられたのは僅かだ。というよりどっちでも同じような選択肢が多かった。(個人的な感想です)試験になると自分の記憶が信じられなくなって、もう駄目だった。
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とにかく終わった。
もういいじゃないか。
今年で終わりって決めていたから、もう受かっても落ちても、もうこれ以上苦しむことはないのだ。帰り道にあるスーパーで地元のバスケットチームの選手を見かけて、おー頑張ってくれよ、なんて適当なことを思っていた。
もういい。もういいんだ。
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その年の解答速報は嫌に時間がかかっていたのを覚えている。
そう2019年の理論にはあの問題があったのだ。受けた方は覚えているだろう。
太陽電池の問題だ。いくつか空欄があるが、要点は太陽電池に負荷をつないだ時、太陽電池の温度は上がるのか、それとも下がるのか、という点だ。
私は負荷をつないだらそりゃ温度は上がるだろうと、これは常識を見る問題なんだろうと、判った気になっていた。よく考えると自信も根拠もまるでないのだが、普通そういうもんだろう、という謎の確信だけ持っていた。有志たちの解答速報では『温度は上がる』が正解となっていた(これは多数決で上がるという人の方が多かったということだ)。自分も特に疑いを持たなかった点だ。
果たして解答速報が発表される。
まあ、一応、もう一度確認しておこうと思って、採点しなおす。えーっと正解の数は……
10個。50点。
あれ? もう一回
10×5=50点。
なんで? どこが……
50点。
50点てことはどういうことだ?
おかしくねーか?
太陽電池の問題の解答が異なっていた。大手の会社様の速報では『温度は下がる』、というのが正解になっていた。
えーっと……
え?
つまり、その
えーと
うん(笑)
(泣)
あーいや、でもこれが間違うってこともあるかも、あるかな……
いや、たぶんこれは、でも
希望は捨てないが……
問題用紙の表紙、55/100、合格の文字。
え、マジで?
おいおい、こんな喜劇ってあるか?
血の気が引くのを感じた。とりあえず法規を採点することにした。
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結果として、理論は落として、法規は受かった。
令和元年も合格できなかった。




