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電験三種と過ごした日々  作者: 37,5or9
10/52

10、試験後 

 雨は強くなっていて傘を持ってこなかった自分は当然濡れた。


 なぜ折り畳み傘を持ってこなかったのか自分でもよく分からなかった。ただ鞄は登山用の防水のものだったので筆記用具や受験票、電卓は濡れない。自分は濡れてもまあ別にいいか。


 会場から工学部棟までが多分1キロくらいあったのではないかと思う。おまけに普通に迷ってしまって時間がかかった。


 体は軽かった。睡眠不足のせいもあるかもしれないが、やはり解放されたことが大きいのだろうと思う。始まる前までは試験後には決定的に変わっているなんて思っていたが、結果が出るまでこのふわふわした感覚は続くのだろうと思う。


****

 

 アパートに帰ってシャワーを浴びて着替える。


 今年も有志の方による解答速報がでているだろうか? 去年の思い出が頭をよぎる。が、結局見ることにした。待ちきれなかったのだ。(あとから知ったことなのですが、今年(2020)の有志の方による解答速報はすべて公式と同じだったそうです。すごい)


****


 明日からの職場の道順を確認しておこうと、一度車で行ってみることにした。雨がかなり強くなっていて視界が悪かったけれど、さすがに真昼間だから、何とかなった。


 午後3時ごろにアパートに戻ってきて、もう特にやることがないことに気づく。参考書や部屋中に貼ってある紙をを片付けるか。とも思ったのだが、一応正式に結果が出るまではそのままにしておこうと思った。なんとなくだ。


 寝不足だったので眠れるかと思ったのだが、変に高揚したり、試験で興奮していたせいか眠る気にもならなった。5chのスレは勢いがすごかったが、もう自分には関係がない気がした。


 午後7時過ぎ、近くのラーメン屋に行くことにした。


 試験を受ける前というのはいろいろ考えるものだ。終わったら、あれを買おう、あれをしよう、あるいはゆっくり休もうとか。でも終わってしまった途端、どれも別にいいんじゃないかと思ってしまう。金だってかかるしね。


 それでも一つ、ラーメン屋で生ビールを頼むという行為だけはやっておこうと思った。そのラーメン屋にはたまに行っていたのだが、コロナが流行ってからは行っていないからもう半年ぶりになる。

 わざわざ行っておいてなんだが、人が多かったら帰ろうかとも思っていた。それくらいの意志だ。幸い、日曜の夜だからか客はもうほとんどいなかった。テーブル席に座って、メニューのビールを探す。580円。高い。普段の感覚ならまず頼まないが……。頼むことにした。今日はそうすると決めていたのだ。もしかしたらすごく美味く感じるかもしれない。


 塩ラーメンとビールを頼んだ。ビールは速攻で出てきて、これラーメン来るまで待ってた方がいいのか。とか思ったが、好きにすればいいだけの話だ。先に少し飲むことにした。自分は30を過ぎていまだにビールの美味さを理解できていないが、その時飲んだビールは苦みがなく、のど腰が良かった。一口で思った以上に腹が膨れてしまった。ラーメンとビールを交互に食べたり飲んだりして、帰った。


 店のおばちゃんは「いつもありがとうございます」と言ってくれたが、どうなんだろうか。本当に俺のことを覚えてくれているのか不安になる。だれにでもいつもありがとうございます、と言っていたりして。なんてことを考える。おばちゃんの顔を見る。多分この人はそんなことをしないだろうと確信する。根拠はない。ただ、おばちゃんは俺とは違う人間だからそんなことはしないんじゃないかと思ったのだ。重ねて言うが根拠は、ない。


 そう思いたかっただけだ。人を信じたかっただけだ。


 人を信じるという決断を下す前に散々疑ってしまう自分が嫌になった。



 他人の心は判らないのと同じように、自分の心も誰にも本当は判らない。


 自分の苦痛や苦労、少しだけの達成感、今の妙な不安定さ、これから来るだろう虚無感は誰にも判らない。伝わらない、伝える相手もいないし。自分だけのものだ。これは自分でやってみないと判らないものだ。だからこの気分を経験できたという意味では、苦しんだ意味はあったのかもしれない。


****


 ここまで読んでくれたあなたに感謝します。

 ありがとうございました。


 

(了)


ありがとうございました。

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