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JCを拾ったら居付かれた  作者: 暗蔵暮らし
4/6

起床

 中学生を拾った翌日の金曜日、葵はカーテンの隙間から顔を照らす日差しによって目を覚ました。

 深夜に起きた半裸女子の襲撃により、葵が再度眠りについたのは、午前二時。男子高校生には刺激の強い奏の下着姿が頭に浮かんできて、毛布を被りなおしてから一時間、寝付くことが出来なかった。

 気だるげな顔を時計に向けると、五時半を指している。

 何時もより三十分早い起床時間だが、もう一度寝なおす気にもなれず、一つ大きく欠伸をし、両手を上げてめいいっぱい身体を伸ばして気合を入れた。

 カーテンを開けて日の光を浴びると、頭が冴えていくのがよく分かる。

 対面に隣家のない小さなベンダの先には、遠くに山々の稜線りょうせんがくっきりと見えていた。見上げる空は快晴、二階の部屋であることを改めて感謝する。

 スッキリと冴えた身体をもう一度部屋に向けると、右端にロフトへ掛かる梯子が目に入った。

 結局、奏は梯子を上げずに、そのまま寝た様だ。


「おい、少し早いが朝だぞ!」


 声を掛けるが返事がない。

 それどころか、部屋には電線に止まった雀の鳴声だけしか聞こえてこなかった。

 もしかしたら自分が寝てる間に帰ったのかもしれない。

 葵は確認のために梯子に手を掛ける。

 家を出てくなら、一言あってもいいんじゃないかと思いながら、ロフトの上に顔を出すと、布団を口元まで深く被った安心しきった少女の姿が、目に飛び込んできた。

 近くで見る奏の整った鼻梁びりょうと長い睫毛、シミ一つない白い肌に、絹糸の様な艶やかな黒髪。顔の半分が隠れていても分かる、作り物めいた美しさに息が止まり、足を踏み外してガタリと大きな音をたてた。

 それでも奏はスヤスヤと規則正しい寝息を立て、閉じた目蓋は開く様子を見せずに、熟睡している。

 顔の前で手を振ってみたが、一向に気付く様子はない。


――いくら何でも、安心し過ぎだろ。昨日初めて会った男の部屋だぞ?


 気持ちよさそうな寝顔に、揺すり起こす気持ちも萎え、葵はすごすごと梯子を下りる。

 朝の支度はやるべきことが多い。済んでから起こしても遅くないと、気持ちを切り替えて洗面台に向かった。






 バサッ 


 ゴン 

 

「いっつ……!」


 そんな音と声がロフトの上から聞こえてきた。

 恐らく、寝ぼけた状態で立ち上がり、天井に頭をぶつけたのだろう。

 あれは地味に痛い、引っ越してきて間もないころは、自分も同じ目に何度もあったと、瓶詰のなめ茸と刻んだねぎを卵にかき混ぜながら、葵は何度も頷いた。

 痛みが治まったのか、しばらくして、梯子のきしむ音が聞こえる。

 お姫様が起床した様だ。

 葵は、熱したフライパンにサラダ油を引き、混ぜ込んでおいた卵を流し入れ、軽く固まり始めたら手早く巻いて中身トロトロの半熟卵焼きを手早く皿へ乗せる。

 開いたフライパンに今度は、冷蔵庫に作り置きしておいた鶏そぼろと薄切りにした茄子を入れ、味噌、みりん、一味唐辛子を入れ味を調え、炒めておく。

 その間に、コンロに備え付けの魚焼きグリルに入れた塩鮭を返すと、皮目の香ばしい香りが漂ってきた。

 千切りにしておいた大根と大根葉、油抜きした油揚げ沸騰した鍋に入れ、火が通ったら、味噌を溶かし入れ、一煮立ちさせたら仕上に粉末タイプのだしの素を入れれば味噌汁の完成。

 叔母の家に居た頃から磨いた葵の家事に一切のよどみはない。朝の貴重な時間、学校に持っていく弁当の分も含めて、三十分で朝飯を効率的に作っていく手際はベテラン主婦にも劣らないと自負している。


く~


 真っ白な蒸気を噴いている炊飯器の炊きあがり時間を葵が確認していると

、部屋との仕切り扉の前から可愛らしい腹の虫が鳴きだした。

 そう急かすな、ちゃんとお前の分も作ってある。

 葵が奏に伝えようと振り向き。


「ぶふっ!」


 予想外の、見た目の奇襲に噴き出した。

 決して顔を真っ赤にして、お腹を押さえる奏の姿に笑った訳じゃない。


「な、何だその髪型。た、タコか、タコ足か…!」


 シャワーから上がった後、しっかりとドライヤーで髪を乾かさなかったのだろう。綺麗なストレートヘアーは見る影もなく、至る所から外へと跳ねまくった酷い寝ぐせ頭だった。


「え!? なにこれ!?」


 ゲラゲラと笑う葵を見て、奏は洗面台の鏡に映る自分の悲惨な寝ぐせを、慌てて両手で押さえた。

 しかし、小さな手のひらに収まりきらない長髪が、指の隙間から飛び出して、更に葵の脇腹を苦しめる。

 呼吸困難になりかけて、うずくまっていると、奏が足を踏み鳴らし、真っ赤にした頬を膨らませながら葵に文句を言っているのが目に入ってきた。正にゆでだこ状態の姿に、更に横隔膜おうかくまくが悲鳴を上げる悪循環におちいる。

 何時もであれば、洗濯機やテレビの音しかしない静かな部屋で、何の感慨かんがいもなく家事をして、朝飯を食べ、家を出て学校へ行く。それが今日はどうだ。

 こんな騒がしい朝は何時ぶりだろう、目尻に浮かんだ涙を拭きながら、偶には悪くないかもしれないと、葵は思った。

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