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JCを拾ったら居付かれた  作者: 暗蔵暮らし
2/6

一人暮らしの部屋

「高校生だったんだ、てっきり大学生かと思った」


「勝手に漁るなよ。下手な事したらたたき出すからな」


 少女の向ける視線の先には、葵の通っている高校の学ランが壁に吊るされている。

 男の一人暮らしが気になるのか、部屋の中を落ち着きなく見回す度に、枝毛のない黒髪が綺麗に波打っていた。

 私立の有名中学に通うぐらいなのだから、裕福な家庭だろう。立つと天井に頭をぶつけてしまう、寝るスペースだけのロフトに、キッチンスペースのある手狭なワンルームが物珍しいだけかもしれない。


「お前を泊めるのは今日だけで、明日の朝には出てってもらうぞ」


 冷凍庫へ溶けたアイスをしまいながら、部屋をうろつく少女へ再度忠告する。


「お前って言わないで、私には倉本奏くらもとかなでって名前があるんだけど」


 葵が目を向けると怒っているのか、少し頬を膨らましていた。


「……別にいいだろ」


 どうせ、一晩泊まるだけなんだ。

 余計な詮索(せんさく)をするつもりも、深く関わる気もさらさらない。


「……私だって、お前なんて呼ばれて、してほしくない。ちゃんと奏って呼ばれたいし、お兄さんのことも名前で呼びたい……」


 頬を赤らめながら、段々と小さくなっていく奏の声に、思わず葵は天を仰ぐ。

 正直断りたい。しかし、名前を呼ばないと自分がクズい人間になる気がした。


「……神崎葵」


「それじゃあ……葵君かな」


「何で君付けなんだよ、俺の方が年上だろ」


「良いじゃん、葵さんよりカワイイし。それで、その……する前にお風呂だけ借り

たいんだけど」


「今日は風呂沸かしてないから、シャワーで我慢しろ。体冷えてんだから、しっかり浴びろよな」


「うん、ありがと」


 奏は強張った笑顔でお礼を口にした。

 男の家。しかも、今日会った名前しか知らない相手と、これからいたすと考えれば、当然の反応か。

 ヤるつもりはないと伝えても、余計に警戒されて信じてもらえる気はしないので、寝る前まで黙っておくつもりだが、少し可哀想に思える。

 ふと、昨日テレビで歯磨きをすると、気分をリフレッシュさせるとリポーターが言っていたことを葵は思い出し、棚に入れてあったバスタオルと新品の歯ブラシを奏に渡した。


「おま……奏は夕飯に、ハンバーガー食べただろ。臭うから風呂場で磨いとけ」


 ひくりと、奏の頬が震えた。段々と葵を見る目尻が吊り上がっていく。


「ふ、普通思ったとしても、女の子に臭いとか言わないよね、デリカシーって知ってる?」


「デリカシーでも、デリバリーでもいいから、さっさと入れ、風邪ひくぞ」


「……最っ低」


 目付きを険しくさせた三白眼で葵を睨みながら、脱衣所の扉は強く閉められた。

 奏への気遣いは失敗に終わったみたいだが、緊張した様子は消えていなので、良しとしておこう。


――暫らく風呂場から出てこないだろうし、寝る準備しとくか


 部屋は足の踏み場がない訳じゃないが、雑誌や漫画がフローリングの床に置きっぱなしで、テーブルの上にも空のペットボトルが転がっていた。

 一見して片付いた状態とは呼べないが、部屋の隅や、テレビの上に埃は殆ど溜まっていない。

 毎週末、部屋の掃除は欠かしていないので、目に付く漫画を本棚に並べ、テーブルの上のゴミを纏めておくだけで随分と綺麗になった。

 次にロフトに上り、端に畳んである、普段使っている布団を敷き直し、消臭剤をスプレーしておく。多感な女子中学生を、男臭さが残る布団で寝させるのは気が引けるが、これで我慢してもらおう。

 最後に自分の寝床を確保するため、葵はロフトから降り、押入れから毛布を一枚取り出し、ソファーに掛けた。準備は以上だ。

 誰かを呼ぶ予定のない部屋に、予備の布団なんて置いていない。

 真冬でもないので、ソファーに横になって、毛布を頭までかぶって寝れば、十分だ。


 一仕事言えてソファーに寄りかかっていると、葵の口から大きな欠伸あくびが漏れた。

 涙のにじまぶたを擦りながら、ぼんやりと、風呂場のあるキッチンスペースの仕切り扉の方に頭を傾ける。

 自分のタイプではないが、目鼻立ちの整ったとびきりの美少女が、部屋でシャワーを浴びていると考えると、胸の奥が浮かんでいる様な妙な気分だ。

 部屋の照明で照らされ、奏の黒髪に光の輪が出来た姿を見た時は、天使と言われても信じてしまいそうな程、可憐かれんだった。


 

 そんな少女が夜の公園で一人きりで泣いていた。


 公園に置き去りにするつもりはなかったが、自分の選んだ選択が正しいとも思っていない。嫌だと言っても、警察へ連れていくことが家出少女に対しての最善だと分かっていた。

 だけど、結局は奏を一人に出来ず、家に連れてきてしまった。

 シャワーの一定した水音が余計に眠気を感じさせ、段々とまぶたが重くなってくる。膝に掛けた毛布が温かかった。

 霞掛かすみがかった意識では、まともに思考が働かない。

 今更連れてきた理由を並べても仕方ないし、このまま寝てしまおう。

 奏だって寝てると分かれば、自分でどうにかするだろうと決めつけ、そのまま葵は、ソファーにもたれ掛かって寝息を立て始めた。

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