第34話 本番はこれから
デメキンにゃんこ囮だにゃ~作戦から3日、ついに今日は妖精軍による本格的なデメキン攻略が開始する日だ。我輩達はこの3日間、宇宙船とBPSを万全の状態にすべく修理、調整をしたり、今日の本格開戦を前に作戦を立て直すなど、忙しくしていた。
我輩達が前線から離れた後も、続々と到着するハンター達による積極的なデメキンへの攻撃が継続していたが、デメキンにゃんこ囮だにゃ~作戦のせいかより慎重になったデメキンに対して、なかなか有効なダメージを与えられなかったみたいだ。
まあ、デメキンにゃんこ囮だにゃ~作戦も、1000m級が2隻だけだから、きっとデメキンの戦力からしたら微々たる戦果なんだけどね。
でも、そんな我慢の日々も今日までだ! たった今、ステルスモードを起動して接近していた妖精軍の大艦隊が、デメキンの正面にその姿を現す。聞いていたとはいえ、実際に大艦隊がこうしてやってくるとすごい壮大な光景だね!
確か、今回のデメキン攻略作戦に参加するのは、妖精軍宇宙防衛部隊に所属する第1~第13艦隊までの合計13艦隊だ。妖精軍の艦隊は1艦隊につき1000m級が1隻、500m級2隻、300m級4隻で構成されているため。合計では1000m級13隻、500m級26隻、300m級52隻、総数91隻というまさしく大艦隊だ。
「おお~、やっぱりこんなに集まると迫力が違うね」
「そうね、惑星アルファ所属の妖精軍の7~8割がここにいるのよね」
「うん、確かそんなこと言ってたね」
「そういえば、姿を現したってことは、奇襲する気はなかったのかな?」
「あったと思うわ。ただ、実際にデメキンの索敵範囲内に入って、奇襲は無理と判断したようね」
「うん。本来ステルスモードからの奇襲が得意なのは、肉食獣が多いハンターなんだけど、そのハンターでさえ接敵前に見つかって迎撃されているからね。種族的に隠れるのが肉食獣ほど上手じゃなく、宇宙船のサイズも大きい妖精軍の艦隊では、奇襲は無理と判断したんだと思うよ」
「なるほど~」
「賢明な判断だと思うわ。ステルスモードは得意な種族じゃないと消費エネルギーが多いらしいからね」
「だね。見つかっちゃうステルスモードなんてサクッと止めて、火力とバリアにエネルギーを振ったほうがいいもんね」
我輩達が妖精軍の動向に関してお話ししていると、めめさんから通信が入る。
『全艦に通達、これより本艦は作戦エリアへと移動する』
ついに我輩達も行動開始だ。めめさんの号令で我輩達の羊羊猫号は作戦エリアへと向かう。今回は妖精軍との合同軍事作戦になるため、妖精軍とハンター、お互いが邪魔をしあわないように作戦エリアの割り当てが決まっている。デメキンの頭側半分が妖精軍の担当で、尻尾側半分がハンターの担当だ。
そして、そのハンター担当エリアの中でも、左舷側半分をハンターギルドを中心としたギルド軍が担当し、右舷側半分を好き勝手にやりたいハンター達の担当になる。
我輩達が選んだ場所はもちろん、好き勝手にやれる右舷の尻尾側だ。この間のデメキンにゃんこ囮だにゃ~作戦でぴぴとぷうがダメージを与えた場所でもあるしね!
しかも、あれから3日も経っているにもかかわらず、ぷうが壊した砲台やバリア発生装置は、完全に修理されていないみたいなんだ。ぷうも大きくて丈夫で重要そうなのから狙ったって言うし、そう簡単に修理できるものじゃ無かったみたいだね。しかも、傷口に塩を塗るかのごとく、ハンター達のしつこい攻撃の的にされていたしね。
というわけで、我輩達は作戦エリアのデメキン右舷後方へと意気揚々と向かう。
そして、我輩達が移動していると、突如デメキンが今までにない動きをしだす。進行方向はそのままなんだけど、その立派な角を妖精軍の艦隊のほうへと向ける。これは、お辞儀?
「何だろ? デメキンがお辞儀してるね?」
「これは、高エネルギー反応」
「デメキンが主砲を撃つのかな?」
ぴぴとぷうの言葉を受けて、我輩はミニぴぴぷちゃ号のモニターを見る。すると、デメキンの角の付け根付近に、強力な宇宙パワーの反応が集まる。妖精の艦隊は退避は間に合わないと判断したのか、艦の前方に強力なバリアを展開する。でも、ミニぴぴぷちゃ号のモニターによると、デメキンの角の根元に集まった宇宙パワーのほうが、妖精軍の艦隊のバリアの宇宙パワーよりも、はるかに巨大だ!
これ? 防げるの?
我輩のそんな疑問もよそに、デメキンの角から、強力な宇宙パワーで出来たビームが、妖精軍の艦隊を襲う!
『総員対ショック用意!』
ごごごごごごご!
それと同時にめめさんからの通信が入る。そして、まばゆい光が収まってすぐ、今度は羊羊猫号を凄まじい衝撃が襲う。これは、デメキンビームの発射時に漏れた宇宙パワーの余波!?
幸い揺れは数秒で収まったけど、ビームの発射方向とは逆、デメキンの尻尾側にいた私達の船にまで衝撃が来るなんて、凄い出力のビームだ。あれは頑丈さが売りのミニぴぴぷちゃ号といえど、当たったらただじゃすまない威力だ。
そうだ、今の揺れで怪我した人はいないかな?
「ぴぴ、ぷう、大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫よ。切り裂き王にも異常なし」
「わたしもぜんぜん平気~」
ふう、よかった。我輩ももちろん無事だ。ちょっとびっくりしちゃって、危うく椅子から落ちそうになったけど、そこは猫のプライドで爪を立ててしのいだからセーフだ。椅子にちょっと傷跡が出来ちゃったけど、まあ、ちょっとだしね!
『各部の被害状況は!?』
『親羊子羊ともに外装含め一切損傷は見られません。BPSも全機正常。怪我人は・・・・・・、確認取れました。軽傷者数名だけです』
『俺達熊班も異常ないぜ』
「我輩達も無事~」
『良かったわ。それで、味方の被害は? 今のビームは妖精軍の艦隊に向けて放たれたものよね?』
『姐さん大変です! 妖精軍の第2艦隊所属の500m級2隻、300m級3隻が大破! 1000m級も前半分が吹っ飛んでます!』
『そんな!』
『待ってください。デメキンの角から冷却反応を確認しました。わざわざ冷却しているということは、まだ撃てる可能性が高いはずです!』
『そうね、冷却にはどの程度かかりそうかしら?』
『信じられないくらい高温になっていますし、デメキンが角付近に保有していた宇宙パワーが大幅に減少しています。ですので、次弾を発射するにはかなりの時間が掛かると思われます』
『わかったわ。次弾発射の兆候が見えたら即座に教えて頂戴。それで、妖精軍からの支援要請とかは来いるかしら?』
『来ておりません』
『そう、わかったわ。では、私達は予定通りこのまま進撃します』
『は!』
我輩もミニぴぴぷちゃ号のモニターで壊滅しかかってる第2艦隊を見てみたけど、酷い損傷状態だ。めめさんは妖精軍のことを特に気にしていないみたいだけど、いいのかな?
「ぴぴ、ぷう、妖精軍放っておいてもいいのかな?」
「構わないと思うわ。妖精軍には妖精軍の作戦があるはずだから、余計な行動は向こうの邪魔になる可能性が高いわ。私達は私達の仕事をするまでよ」
「うん、わたしもそう思う。確か、妖精軍の艦隊は、300m級や500m級が落ちても良いことになっているはずだから」
「それってどういうこと?」
「えっと、BPSと宇宙船の間で使ってる亜空間脱出のセーフティーが、1000m級とその他の艦の間にも結ばれているんだったかな? それに、1000m級宇宙船も、重要なのは後方部分で、前方部分は火器やBPSの格納庫とかだから、あのやられ方なら、少なくとも人的被害は大丈夫なはずだよ」
「そうだったんだ。でも、あんな強力なビームを浴びて、亜空間脱出フィールドは無事だったのかな?」
「亜空間干渉には極端に圧縮された宇宙パワーが必要なの。ああいうビームで干渉することはかなり難しいわ。前回の基地の自爆のことが気になっているのなら、そこまで気にしないでもいいわ。あんな惑星の宇宙パワーの噴出口での自爆攻撃なんて、本来なかなかありえないシチュエーションだもの。それに、そんな時でさえ、母艦が離れていた熊さん達はともかく、現場の側にいたミニぴぴぷちゃ号の亜空間フィールドは大丈夫だったでしょう?」
「そっか」
でも、3日前はぴぴもぷうも黄色いのの亜空間脱出フィールドにあっさり干渉して追撃してたんだよね? うう~ん、ちょっと気になるけど、まあ、いっか! 今はデメキンの相手をしないとだもんね。
どうやら他のハンター達も、さっきのビームに動揺した様子はない。みんなデメキン目掛けてまっしぐらだ。むむむ、動揺してたのは我輩だけだったのかな? ちょっとさみしい。
『はぴさん、ババ、ドッキングを解除、作戦開始です!』
『おっけいお姉ちゃん!』
「ああ、了解した」
我輩達はドッキングを解除してそれぞれ作戦行動を開始する。
「はぴ、切り裂き王出るわ」
「噛み付き王も続くよ!」
「2人とも、わかっていると思うが、油断と無理は禁物だぞ?」
「わかっているわ」
「わたしも」
ミニぴぴぷちゃ号から切り裂き王と噛み付き王が出撃する。めめさんの親羊、ばばさんの子羊からも同じようにBPSがどんどん出撃していく。
こちらの本気度がわかったのか、それともここで一気に攻勢に出てまとめて潰そうと思ったのか、デメキンも今回は本格的にやる気みたいだ。今まで見たことも無いような数の敵が出撃してくる。
さらに、尻尾みたいなブースターの出力がかなり弱くなり、代わりにバリアの出力が上がる。これは、ブースターをアイドリング程度の弱い勢いに切り替えて、今までブースターに回していたエネルギーをバリアと火器に回す気だな!
本番はこれからってことか。いいだろう、受けて立つ!




