第15話 はぴの巨大な頭脳
「へえ、ここが小鬼達の地下基地の入口か」
「ええ、そうよ。見張りは11匹ね。リーダー1、部下10の1分隊といったところかしらね」
「うん、そうみたいだね。あ、熊さん、あんまり出すぎないでね。見つかっちゃうよ?」
「ああ、すまないなぷうさん。でも、横・・・・・・」
「横?」
我輩達は今、お目当ての地下基地の入口が見える崖の上にいる。この地下基地の入口は、崖に囲まれた窪地の中央にあった。窪地はあまり防衛に向いた場所とは思えない気もするが、窪地にある出入口を含めた施設全体が、雪に覆われていて天然のカモフラージュになっている。これじゃあ、この吹雪の中上空から探そうとしても、発見は困難だろうな。おまけに窪地故に地上からも遠距離からでは直接見ることができない。このだだっ広い氷の大地で、わざわざ崖までこないと見つけられないようになっているとは。う~む、ローテクながら侮れんな。
そんなことを我輩が考えていると、突然ミニぴぴぷちゃ号の尻尾をかまれ、思いっきり後ろに引っ張られた。
「みぎゃ!? ってぷう? 何するのさ!」
別にミニぴぴぷちゃ号の尻尾をかまれても我輩は痛くはないのだが、痛いような気がしちゃうから不思議だ。
「はぴ! ミニぴぴぷちゃ号で覗いたりなんかしたら見つかっちゃうでしょ? ミニぴぴぷちゃ号が大きいってことをそろそろ自覚してよね!」
「ううう」
そうはいっても、ここまで来て仲間外れもさみしいではないか。でもまあ仕方ない、ここはちょっと後ろにいるとしよう。
「ごめんね、熊さん。見つかってはいないよね?」
「ああ、小鬼どもに変化はない、大丈夫だろう。案外やつらからしても、この吹雪では索敵に支障があるのかもしれないな」
「うん、そうだね」
「それで、どうするんだ? 俺としては潜入出来ればベストだと思うんだが、この吹雪じゃあ少々きついな。光学迷彩を使っても、吹雪のせいでどうしても雪が表面に付いちまう。普通の熊がシロクマになったところで、遠距離では保護色になるかもしれないが、近距離で小鬼どものBPSと監視カメラの目をくぐり抜けるのは無理だろうしな」
「私とぷうなら潜入しようと思えば出来なくはないけれど、ここは堂々と行きましょう。私達の目的はあくまでも攻略、出来るだけ多く倒したいわ」
「だが、隔壁を閉ざされると厄介だぞ?」
「そこはハンマー使いさんがいるでしょう?」
「がっはっは、ぴぴと言ったか? わしは気に入ったぞ。その作戦、悪くねえ」
「じゃあ、そういうことで、一気に行きましょうか」
「「「「「おう」」」」」
どうやらぴぴ達の作戦も決まったようだな。いや、とりあえず突っ込んで、障害は物理で解決というのが作戦というかはちょっと疑問だが、まあ、分かりやすくていいな。
我輩は特にすることもないので、ぴぴ達と熊さん達が突っ込んでいくのをまったり見学だ。とはいえ、所詮は小鬼のBPSがたったの11機。早い者勝ちだと言わんばかりの勢いであっさりと制圧された。そして、監視カメラの類もついでに全部破壊したようだな。ふむ、分かっていたとはいえ、なんの見ごたえもないな。
戦いが終わったところで、我輩も窪地の中央へと向かうと、そこには地下基地への入口と、変な施設があった。
「ねえ、ぴぴ、ぷう、この施設ってなにかわかる?」
「たぶんこれ、テラフォーミング装置の一つだよ」
「そうね。本体は地下にあるんでしょうけど、ここから惑星の宇宙パワーを、吹雪になるように変換して放出しているようね。もちろんこれ一つでこの氷の大地全体に吹雪を起こすことは出来ないでしょうけど、私のカンだと同じような装置が周辺にあと4個ありそうね」
「じゃあ、それを全部壊せば吹雪が止むってことだね」
「そうね。でもここは、大本を叩きましょうか。そのほうがおもしろそうだと、私のカンが告げてるの」
「うん。当初の予定通り地下基地攻略だね!」
そして我輩達は出入口へと向かう。出入口は横40m、縦20mほどしかない。くう、これじゃあ我輩のミニぴぴぷちゃ号が入れないじゃないか! せっかく来たのにここでお留守番っていうのも、ちょっとさみしいな。なんかいいアイデアはないものか。
「ふむ、予想通りしまっているか」
「僕たちが、攻撃を仕掛ける前から閉まってたんもんね。きっと、見張りの交代の時にしか開かないんじゃないのかな?」
「そうね、熊次郎の言う通りだと思うわ。そして、監視カメラを完全に壊したから、向こうも敵襲に気付いたでしょうね」
「それじゃあ、わしがぶち破るってことでいいかな?」
「ええ、お願いするわ」
そして、ディアネスが自慢のハンマーで思いっきり扉を攻撃すると、1回目であっさりと小さなヒビが入り、2回目で大きなヒビになり、3回目で崩れ始めた。これはまずい、思ったよりもあっさりと大穴があきそうだ。このままでは置いてけぼり確定だ。早くいいアイデアを思いつかねば。う~ん、う~ん・・・・・・、そうだ! 良いこと思いついちゃった。流石は我輩の頭脳だ。まさにアイデアの宝庫だな。きっと我輩の巨大な体に見合った、巨大で素敵な頭脳が入っているに違いないな!
「ねえぷう」
「どうしたのはぴ? 見ての通りあの入口だと、ミニぴぴぷちゃ号は通れないからね?」
「それは我輩でも見ればわかるよ。そうじゃなくって、この地面にぷうのビームで大穴開けれない? そうしたら我輩も一緒に行けると思うんだよね」
「う~ん、厳しいかな。宇宙パワーの少ない惑星ならわざわざ地下基地に入らなくても、ビームの一撃で地面ごと地下基地も破壊できたと思うけど。この惑星ほど宇宙パワーが多いと、地面に大穴を開けるだけでも、結構大変そうなんだ。ごめんね」
く、惑星アルファの宇宙パワーは、我輩の巨大な頭脳の性能をも上回るというのか!
「ううん、気にしないで。我輩は適当に暇つぶししてるから」
「ぷう~、行くわよ~。はぴは適当に遊んでて~」
「じゃあ、行くね」
「うん、みんなも気を付けてね~」
さてと、みんな行っちゃったか、どうしようかな。とりあえずみんなの通信でも聞いてれば最低限の暇つぶしにはなるんだけど、それだけじゃな~。あ、そうだ。ぴぴが言ってた、ここ以外のテラフォーミング装置のある場所とやらを探すかな。見張りがここと同じく小鬼のBPSが11機くらいなら、ミニぴぴぷちゃ号の爪でもなんとかなるだろうし、他の出入口になら、もっと大きいところがあるかもしれない。うむ、流石我輩の巨大な頭脳だな。実にいい仕事をしてくれる。まあ、出来ればみんながいる内に気付いてほしかった気もするが、そこまで贅沢は言っていられないか。
「よし、いざ出発!」
ようはここと同じような宇宙パワーの発生源のような場所を探せばいいわけだからな。ふっふっふ、その程度のこと、ミニぴぴぷちゃ号なら造作もない。我輩はミニぴぴぷちゃ号のセンサーを使って、早速周囲を捜索した。くっくっく、見っけ見っけ、全部で4箇所か、ぴぴのカンと同じだし間違いないな。
我輩は一番近い出入口に向かってミニぴぴぷちゃ号で飛んでいく。そして。
「食らえ! ミニぴぴぷちゃ号クロー!」
我輩はミニぴぴぷちゃ号の爪で小鬼のBPSを切り裂いていく。え? 爪による攻撃というか、ただの体当たりじゃないかって? のんのん、今回のはあくまでも爪による攻撃なのだよ。まあ、ミニぴぴぷちゃ号の手足は、ボディに可愛らしくくっついているだけだからな。爪による攻撃も、体当たりも、さほど差は無いがな。
まあ、なんにせよ2箇所目の出入り口の確保完了だな。どれどれ、入り口はっと、ダメだな。ここも出入口の大きさはさっきのところと変わんない。
この後我輩は残りの3箇所を調べてみるも、出入口の大きさは横40m、縦20mで統一されていた。
「う~ん、よくよく考えればこの出入り口って、テラフォーミング装置の管理か警備用だよな。小さくても仕方ないか。だがそうなると、物資の搬入搬出のための、もっと大きい出入口があってもよさそうだよな。いや、そういう場所ともなると、仮に見つかったとしても警備は厳重か。うう~ん、困ったな」
我輩は今一度最初の場所に戻る。そして、もう一度我輩の巨大な頭脳に任せてみることにした。
う~ん、う~ん・・・・・・、そうだ! これならいける。っていうか、なんで最初に気付かなかったんだろ。まったく、巨大な頭脳の称号返還ものだぞ。
そして、我輩はディアネスが開けた扉に近づいていき、中を覗いてみる。
「くっくっく、やはりな。我輩の予想通り、入口の扉より内部の通路のほうが広いようだな」
そう、我輩の予想通り、内部の通路は入口の扉より少し広かった。横は50m、縦は30mはあるな。いける。これならいけるぞ!
我輩の巨大な頭脳がはじき出した作戦はこうだ。ミニぴぴぷちゃ号はその名が示す通り、ぴぴとぷうをモチーフにした宇宙船だ。そう、当然ながら猫をモチーフにしているのだ。そして、猫というのは往々にして、狭いところへの侵入のプロフェッショナルである。その体のサイズでこんなところも行けるの? っていう思いもよらないことをよくするものである。ならば答えは簡単だ。きっとミニぴぴぷちゃ号もこの隙間に入れるに違いないというわけだ。
「よし、ミニぴぴぷちゃ号、いざ出陣!」
我輩はミニぴぴぷちゃ号で入口に突撃する。くう、中々進まないな。だがまあいい。多少力づくになることはわかっているからな。我輩はミニぴぴぷちゃ号の可愛い手足をばたばたさせて、ちょっと強引に侵入を試みる。
「う~、うう~」
めきめき。
「ふ~しゃ~!!」
ばっきん。がらがら。
そして、我輩の気合とともに、ミニぴぴぷちゃ号がとうとう入口を突破するのであった。
「おお~、入れた! 流石はミニぴぴぷちゃ号。我輩の巨大な頭脳と組み合わせれば、まさに無敵! 敵なしだな! っと、感動している場合じゃないな。早くみんなに追いつかないと」
我輩は通路を進んでいく。通路はゆったりとした螺旋を描きながら下っていく。たぶんこの螺旋の真ん中部分は、地下のテラフォーミング装置の本体と、地上部分をつなぐパイプになっているんだろうな。まあ、詮索してもせんなきこと、気が向いたら後で壊してみればいいことだし、今はただ前を見て進むのみよ。
めきめき、ばきばき。
「わっがはい~は、猫である♪ とっても大きい猫である♪ ミ~ニぴっぴぷちゃご~も~猫である♪ とっても可愛~い猫である♪ 伸縮自在♪ 神出鬼没♪」
ばきばき。
まったく、我輩が気持ちよく歌っているところだというのに、さっきからめきめきばきばきうるさいな~。
我輩は音の原因を探そうと、きょろきょろと周囲を見回した。するとそこには、来たはずの横50m、縦30mの通路は無く、直径50mくらいの、まるでミニぴぴぷちゃ号のシルエットのような通路だけが残されていた。いや、壁はかろうじて残っているな。
・・・・・・、我輩ははぴ。過去は振り返らない猫である・・・・・・。




