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「ちょっと出てくる」
あら早い、と母に驚かれながら玄関を後にする。
学校がないのに朝の8時に出掛けるなんて私でも早いと思う。
本来なら寝直すところだ。
駅前のファストフード店で美味しいのか不味いのか判断しかねるコーヒーを飲みながらハルが来るのを待つ。
どう話したもんかな…。
さすがにちょっとキャパオーバー気味。
「モモ、おはよ」
苦笑いの彼氏登場。
朝イチで私らしくないメッセージ送ったからなぁ。
春休みの宿題の進捗状況やら2年から増える選択科目の話をしつつ1時間ほど過ごしてハルのマンションへ。
ハルのお母さんもパートへと出掛けたはず。
信じてもらえるかもらえないかは置いておいて、聞いてほしいことがあると伝える。
「別れ話じゃなければね?」
「そんなわけないでしょ」
ありえなさすぎて思わず笑ってしまう。
「いやでもそんなわけかも、とか思ってたんだよ最近ちょっと変だったし」
「変なのはいつものことですぅー」
「それはモモの個性でしょ、体調も良さそうに見えないし」
うーん。出来た彼氏様だ。崇め祀りたい。
マンション敷地内をハルの後ろからついていく。
「さ、入って」
いつ来ても物が少ない綺麗なハルの家。
うちならリビングのテーブルにリモコンとティッシュは置きっぱなしだ。
何も無いテーブルってこの世に存在するんですね。
ハルがお茶の用意をしてくれているので、なるべく深刻に聞こえないように話し掛け始める。
「私、中学の頃からちゃんと眠れなくてね…」
***
一通り、話し終えて時計を見ると、30分も進んでいない。
あれ、結構濃い毎日だと思ってたけど実はそうでもなかったのかな。
それか話すのが下手で端折り過ぎたりしてたかな。
ミカちゃんの事はともかく、ヨハンの事は話さないほうが良かったかな。
というか中二病判定されてそうで怖い。
無言はんたーい!
「と、いうことでコレです!」
「え?」
家から持ってきた小瓶を鞄から取り出す。
ベネチアガラスのような細工の多い小瓶。
「ハル、窓閉めて」
風で飛ばされないよう窓を閉めてもらっている間に、私はティッシュを2枚広げる。
「ほんとは膠とかで溶いたほうがいいんだろうけど…」
そんな勇気はない。
瓶のフタを取り、中身をほんっの少し、耳掻き1杯にも満たない量を取り出す。
「これ、私があっちから持って帰ってきたものなの」
「…絵の具?」
「に、なる前の鉱物を砕いた粉ね」
正直、そこらのファンデーションより細かいパウダー状。
粉末を指で押さえティッシュの上を滑らせると淡い青色が伸びやかに乗った。
流れ星より美しく煌めく一筋の青。
鞄からもうひとつ瓶を取り出す。茶色の小瓶。
「こっちは通販サイトで1400円で買ったやつ」
指にざらりとした粉の感触。
同じようにティッシュの上を滑らそうとしたけれど、濃い青がくっきり残るものの、線と言えるほど伸びない。
「全然違うね…」
でしょう。そうでしょう。
思うに値段も全然違うの…
そんな怖さを伝える為にスマホの画面を見せる。
「”天然ラピスラズリと人工ウルトラマリンの違い”」
ハルは読み進めるにつれ、顔が青くなる。
私の指先より青いんじゃないだろうか。
てかウェットシートで丁寧に拭ってもなかなか落ちないなこれ。
私たちのお小遣いやお年玉では買えないレベルの絵の具。
「ね、どうしたらいいと思う?」
普段は出さない甘えた声で聞いてみた。
ハルの表情は固まったまま。
やっぱり相手が動揺してくれてると落ち着く~。




