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その6

 話はまーとイマイの出会いまで遡る。 


 6月5日 ゲーム機が充電しろとうるさい。充電した。

 6月8日 ゲーム機が充電しろとうるさい。充電した。

 6月10日 ゲーム機がシクシクうるさい。

 6月13日 洗面器の水につけようとしたら凄いうるさくなった。

 6月15日 二階から落とそうとしたら凄いうるさくなった。

 6月18日 充電した。

 6月21日 充電した。

 6月24日 充電した。

 6月27日 充電した。

 6月30日 充電した。


 聖歌(チャペル)の日記は突っ込みどころが満載だった。まず、そもそも毎日書いていないので日記では無い。そして、話の8割が充電した話であり、残りの2割はゲーム機をこっそり破壊しようとしたという業務報告書だった。この日記からわかることは、充電が3日に一回のペースで行われているということのみ。

「あんたよく生きてたわね」

《愛のなせる(わざ)さっ!》

「病的にポジティブね」

 日記の始まりは6月。恐らくその頃にこのゲーム機を誰かから貰ったか、もしくは譲り受けたのだろうと推察できる。良くも悪くも人の感情に無頓着な聖歌(チャペル)は、初対面の人間に対しては「好かれる」か「嫌われる」または「完全に無視される」ことが多い。そもそも大概の人間は大体そうなのだろうが、聖歌(チャペル)の場合はそれが特に顕著というかはっきりしていた。人による好き嫌いの激しいパクチーのような女なのだ。


 7月3日 まーちゃんにゲームに興味があるか聞いてみる。無いらしい。

「ああ、そう言えばその手の質問を聞かれたことあるわね」

 まーは数か月前を思いだしていた。


 7月6日 まーちゃんの後をつけてみた。アパートの鍵を手に入れた。

「思い出に書くような内容じゃないよねっ!」

 RPG風の犯罪行為が露呈した瞬間だった。


 7月9日 まーちゃんは主食を全然食べないらしい。だから胸が…………

「せめて最後までいいなさいよっ! 否定しにくくなるでしょうがぁ!」

 つまり、肯定ということだった。


 7月12日 まーちゃんの健康保険証を手に入れた。

「包め! オブラート!」

 しかし、まーはオブラート世代ではない。単語として知っているだけだ。

 そして何だ、最近はやっているのか? 健康保険証が?


 7月15日 まーちゃんの弱味が見つからない。

「あたしめちゃくちゃ狙われてるじゃん!」

 話の流れがスパイ小説じみてきた。


 7月18日 まーちゃんの家の鍵が見つからない。

「速攻で無くしてんじゃねえわ!」

 まーはマスターキーの存在を確かめて安心する。


 7月21日 まーちゃんが見つからない。

「お前の所有物じゃねえわ!」

 身体に発信器でも仕込まれてるんじゃないかと心配になる。


 7月24日 イマイが見つからない。

「そこにいるよね!」

 ではなぜ日記が書けているのか?


 7月27日 ま

「が・ん・ば・れ・よっ!!」

 せめて名前を書け。


《どうだった! 何か見つかったか? 相棒!》

「ことごとく大事にされていないわよね、あんたって」

《大事なものは、見えないからなっ!》

「『ない』と『みえない』は全然違う。星のプリンスに謝りなさい」


 8月2日 先日、一回だけまーちゃんがしているアルバイトというものをしてみた。他でもしてみる。

「……ん? てゆうか、あいつがアルバイト?」

 確かに現金としてのお小遣いはないが、欲しいものがもしあれば聖子に説明すれば買うこと自体はできるはずだった。聖子の懐事情は比較的ぬくぬくのはずだから。ただ、聖子の希望にそぐわないものは確かに買えない。だとすれば何を買うつもりだったのだろうか。


 8月5日 面接には履歴書がないとダメらしい。

「たぶん、落とされたのはそれだけが理由じゃないけどね」

 ただ、とりあえず持っていけよとは思った。


 8月8日 履歴書には写真がないとダメらしい。

「最初のところでちゃんと聞いておきなさい」

 面接の二度手間だ。


 8月11日 面接中に勝手に飲み物を開けて飲むのはダメらしい。スタバなのに。

「言ってくれるだけ親切だな! 面接官。そしてスタバは関係ねえ!」

 大人の対応というやつだ。


 8月15日 面接中に勝手に食べ物を出して食べるのはダメらしい。ケンタなのに。

「面接官に同情を禁じ得ない! あとやっぱりケンタッキーも関係ない!」

 超大人の対応だ。


 8月18日 面接中に勝手にゲーム機を出すのはダメらしい。

「邪魔してんじゃないわよ! あんた!」

《面接官がお嬢さんだったのさっ! 声を録音したかったのさっ!》

「せめて納得できる理由を持ってこい!」

 もはや地域の経済活動を邪魔しているとしか思えない。


 8月21日 電話で名前を告げると、落ちた。

「ブラックリスト入りしてんじゃん!」

 そろそろ手詰まり感が半端ない。


 8月24日 メールで名前を告げると、落ちた。

「媒体の問題じゃねえわ! 気付け! 地域に情報回ってるよ!」

 

 8月27日 お

「だ・か・ら、が・ん・ば・れ・よ・っ!」


 8月30日 NBCで仕事を斡旋される。屈辱の極み。

「お前が言うなにもほどがある!」


《どうだった! 何か見つかったか? 相棒!》

「一か月の使い方が無駄すぎて引くわっ!」

 ただ、どうやらNBCで聖歌(チャペル)仕事アルバイトを紹介してくれたらしい。しかし、どういう仕事内容だったのかは全く触れていないのでわからない。

《相棒、これからどうするんだ?》

「多分、流れからしてあの子(チャペル)に仕事を紹介したのは元木店長かオーナーだと思う。まずは何の仕事をしていたのかが気になるわね」

《それを調べるんだなっ! じゃあ、俺の出番だなっ!》

「? あんたが何の役に立つっていうのよ」

 ゲーム機としてすら役に立っているところを見たことが無いのに、一体何が出来るというのか。

《俺はゲーム以外なら何でもできるゲーム機だぜっ!》

「あんた、存在意義って言葉ググってみた方がいいわよ」

《まずは一人、気になる人物を教えてくれよなっ!》

「どうしてよ?」

《情報収集するんだぜっ! RPGの基本だぜっ!》

「だから、どうやって?」

《盗聴だぜっ!》

「お前オブラートって知ってる?」

 

 まーは悩んだ末、狙い撃つ人間を決めた。もちろん、法に背くことを悩んだわけでは無い。


 

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