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ココロオドル


「お兄ちゃん!だから魔法は!こう、ぐわーっ!てやって、ぬー!ってやるの!」


「こ、こう……かな?」


「ちーがーうー!それはむむむ!だよー!」


「ねーちゃん、僕もよくわかんないよ」


「知らないわよ!あんたは魔力も少ないし使えないんじゃないの?!」


「うふふ、喧嘩はほどほどにね」


巨大な蛇の背中の上には、俺達。小さな蛇が乗っている。

背中の上では、俺と弟が長女に魔法の使い方を教えてもらっている。どうやらこの世界では人以外も魔法を使えるらしく、さらに勇者や魔王というものも存在するらしい。誰かに教えられなければ、蛇なんて一生知らないかもしれないが、そこらへんの知識はママが教えてくれた。ママは狩りの仕方や脱皮の仕方以外に、魔法の使い方、世界の常識なども教えてくれたのだ。ママはそれをどこで身に着けてきたのか気になるところで、いざ聞いてみたら。


『うふふ。それは秘密よ』


と、なぜかはぐらかされた。だが、なんとなくはわかった。

ということで、俺は只今、揺れるママの背中の上で、兄弟の中では一番魔法の扱いが上手い長女に教えを乞うていた。

しかし、どうやら長女は天才肌のようで、ママの教えてくれたことをすぐに呑み込むが、それを誰かに教えるとなると、擬音ばかりで全く分からない。


「ママー、今度はどこに行くのー?」


「そうねー。ちょっぴり寒いところかな」


「さむいのー?さむいってなにー?」


「ママの氷みたいに冷たいってこと?」


「そうね、ずっとママの氷に触れてるみたいなところよ」


ママはいつもの口調で返事をする。


(そういえば、少し肌寒くなってきたな)


俺達は今、ママの背中に乗って移動をしている。というのも、度々こうやってママの背中に乗って移動している。大体一週間に一回移動し、そこで一週間狩りの練習や魔法や常識の勉強をし、また移動する。移動する先々で獲物が変わるので、それに対応した狩り方をしなければいけなくなるから、きっとそれが狙いなんだろう。実際、新しい獲物を見るのも戦い方を模索するのも楽しいのである。

ちなみに今は、産まれた場所の湖の近い森ではなく、背の高い針葉樹が取り囲む深い森の中、白い山が見えており、あちらの方角は雪が降るほどに寒いことがわかる。

すると、俺の中に当然の疑問がわいた。


「ママ、俺達寒いところ平気なの?」


「え?ふふ、大丈夫よ。ママたちはモンスターだから」


「モンスターだから?」


「ええ。あなたの思う通りだと思うわ」


本来、蛇は変温動物。温かい場所では活発に行動するが、寒いところでは、寒さに耐えられずに行動できなくなってしまう。だから蛇は冬になると食い溜めをして冬眠をする。

それに対して今の俺達。確かに肌寒いとは思うが、身体が動かしにくいだとか眠くなってきたというのはない。ママが俺達モンスターは大丈夫と言っていたということは、この異世界にはモンスター以外の蛇が存在するということなのだろうか。


「思ってる通りって……俺達以外の普通の蛇がいるってこと?」


「普通の蛇……?蛇は蛇よ?」


「え?」


「あら、ママはてっきりナーガやリザードマンの話だと思ってたわ」


(へぇ。ナーガやリザードマンもいるのか。それらは変温動物、と)


「ナーガとかリザードマンもモンスターなのになんで寒さに弱いの?」


俺がママにそう言うと、ママは笑いながら答えた。


「ふふふ。あの人たちはモンスターじゃないわ。亜人よ」


「エルフやドワーフと一緒なのっ?」


「っ!ええそうよ。ふふ、愛しの我が子。頭が良くてママは嬉しいわ」


「ねーねー、ナーガってなぁに?リザードマンってなーにぃ?」


「ママー!!私新しい魔法を覚えたい!」


「ママ!僕も魔法使いたい!」


「ママーさむいってなにー?」


「うふふ。ママのお口はひとつしかないから、ひとつずつしか喋れないわ」


ママは優しく微笑みながら、一人一人の話を聞き、それに答えていった。

楽しく家族で話していると、どうやら目的地に辿り着いたようだ。正直、その辿り着いた場所は見た目が悪すぎた。

紫色の沼に、毒々しいキノコが生えており、針葉樹の葉も、葉というより刃といえるほどに鋭い。


「じゃあ、いつも通りしばらくここに滞在するわ」


「「「「はーい!」」」」


兄弟達は元気に返事をしているが、なんというか、ゲームやらで見たことのある風景、ここにいるだけでダメージを受けてしまうほどに、居心地は悪そうだ。


「あら、どうしたの?」


ママは毒沼にしか思えないものを凝視していた俺に、不思議そうに尋ねた。


「え、あ、いや、なんかあの沼、苦しそうだなぁって……」


「……うふふ、あれはなんだと思う?」


「毒沼……?」


「正解っ」


ママは優しく微笑んでそう言った。


「心配しなくて大丈夫よ。私たちは麻痺と毒に種族柄耐性があるから。そうね、今日は麻痺と毒についてお勉強しましょうか」


ママはそう言うと他の兄弟も集め、いつものように大きく、長い身体で俺達を囲んだ。

その日の授業は異常状態と耐性、それに魔法の相性と属性についてだった。本当にママのこの知識はどこからきているのか気になって仕方がないが、この異世界の知識がない俺にとっては非常にありがたいことだ。


(なるほど。種族ごとに得意な魔法、耐性がついているのか。俺達蛇は麻痺耐性と毒耐性があって、闇魔法が得意なのか……)


魔法には火、水、土、風の四大元素に光と闇を加えた六系統、それに固有魔法という特別なものもあるらしいのだが、俺はひとつ気になったことがあった。


「ママ、俺達は闇魔法が得意なのに、ママと妹はなんで氷魔法が使えるの?」


「うふ、いい質問ね。そう。蛇のモンスターは闇魔法を得意としてる。当然ママも闇魔法を使えるわ。でもママ達は特別でね、ユニークモンスターという括りになるの。だから闇魔法以外に、何か他の魔法が使えるはずよ」


「よくわかんないけど、でも僕、闇魔法も他の魔法も使えないよ?」


「うふふ、それも無理ないわ。まだ進化はしていないから……進化していなくても上級魔法の氷魔法を使える我が子は本当にすごいことなのよ」


「お姉ちゃんすごいの?」


「ねーちゃんすげぇんだな!」


「しんか?じゅうきゅうまほう?ママーわかんなーい」


「うふふ。その話はまた明日にでもしましょう。愛しの我が子たち、今日はもう寝ましょうか」


「「「「はーい!」」」」


めちゃくちゃ気になることがたくさんあったが、兄弟達の元気な返事が今日の授業の終わり告げた。


(進化?!めちゃくちゃ気になる!!!!)


モンスター転生の定番中の定番といっても過言ではない言葉に、俺はとぐろの中で期待に心躍らせていた。

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