十蛇十色?
「見て見て!私こんなにおっきいお魚とったよ!」
「へへん!僕だって大きい鳥とったもん!」
「私、何もとれなかったよぉ……」
「うええ~ん!!」
「でも、やっぱり一番すごいのは、兄ちゃんだよな!」
「うん!お兄ちゃんすごい!」
「すごいよぉ……」
「すごい!すごい!」
「い、いやぁ~そ、それほどでも……」
今、俺の目の前には色とりどりの蛇が並んでいる。
横に並ぶ魚よりも、二回り小さい長女。その隣、大きな鳥と同じ身体の太さをしている次男。何も獲物が取れずに泣いている、末っ子の双子。
そして、その兄弟達の前で自分よりも何十倍も大きな猪の上でとぐろを巻いている長男の俺。
そう、俺が産まれてからもう1ヶ月。兄弟達も順調に脱皮を繰り返し、言葉も喋れるようになり、今は狩りの練習中だった。
「みんなすごいわ~。でも、獲物がとれなくても落ち込まなくていいのよ。ママも最初は失敗ばかりだったんだから」
「ほんとー?」
「ええ本当よ。練習をすれば、必ずとれるようになるからね」
「い、今はダメでも、ぼ、ぼくもママみたいに大きくなれる?!」
「えぇなれるわ。ママも最初はみんなみたいに小さかったんだから」
周りの木々よりも遥かに大きく長い、我らがママである。ママは獲物をとれた俺達を褒めた後、獲物のとれなかった末っ子たちを励ましていた。
(ママも最初は小さかったのか……俺も大きくなれるかなぁ)
「みんな、食べて大丈夫よ。あなた達はお母さんのとってきたスモールワームを食べていいからね」
「わーい!ありがとうママ!」
「ありがとー!!」
狩りの成果を見せると、食事が始まる。原則的に、自分がとってきた獲物を食べることになっているのだが、たまにとれないこともある。じゃあその日は飯がないのか?というと、違う。ママは俺達が万が一とれなかった時のために大量の餌をとってきてくれている。
狩りの練習ではあるが、ママは俺達を甘やかしてくれているのだ。
「お兄ちゃん、切るー?」
「あぁ。頼む。みんなで分けような」
俺は長女にそう頼むと、長女の頭上に氷柱が形成される。それは、まるで意思を持っているかのように動くと、俺のとってきた猪を5等分に切り分けた。俺はそれを兄弟達に分け与える。
大きな猪をとったのはいいのだが、俺の身体の大きさでは丸吞みできず、かといって量もそんなにいらないのである。だったらなぜそんな大きなものをとる必要があるのかというと、単に狩りの練習だからだ。
俺は切り分けてくれた長女にお礼を言うと、大きな肉塊を口の中に押し込む。
(やっぱり、魔法はすごいなぁ……)
俺と同じく、獲物を口に運んでいる兄弟達を見て思った。
異世界だからなのか、俺達兄弟は皆体色と身体の大きさ、そして能力が違う。
猪の時のように、氷柱を使って大きな魚を食べやすい大きさにカットしている長女。大きさは俺より少し小さいく、身体の色は淡い青色。ママと同じく氷属性の魔法を使える妹だ。
次に次男。身体は俺よりも大きく、前世でいうアナコンダくらいだろうか。身体の模様や色もアナコンダのように茶色いまだら模様。魔法はまだ使えないようだが、ピット器官で見る限り、魔力は多少あるようだ。
そして双子の末っ子達。身体は小さく細い。身体の色は赤と青で、魔力も長女と同じくらいあるはずなのだが、未だ使えていない。
(で、俺は……)
程よい大きさに程よい太さ。鱗が真っ黒なのに、目だけが青い。魔力はあるようだが、魔法は全く使えなさそうだった。
「愛しい我が子」
「っ!ふぁ、ふぁふぁ?(マ、ママ?)」
恐ろしいほどに身体が巨大すぎる我らがママ。灰色の体色に、氷属性の魔法を使う。ママは俺達が安全にご飯を食べられるように、その巨大な身体で俺達を囲っている。そんなママが首を動かして話しかけてきたのだ。
「んぐっ。ど、どうしたの?ママ」
俺はゆっくりと丸吞みしていた猪をすぐに押し込むと、ママにそう返事をする。
「ジャイアントボアを仕留めるなんて、あなたはすごいわ。それに、その身体」
ママが言っているのは、俺の黒い身体のことではなく、獲物を呑み込んだのにちっとも大きくならない身体のことを言っているのだろう。これは、俺の能力の一つ、消化促進の効果だ。何を丸吞みにしても身体が大きくならない。満腹感はしっかりあるし、いつも通りの大きさで動くことができるので自分では中々いい能力だと思っている。
「あはは、すごいでしょ。ママ」
「えぇ。あなたは本当に私の自慢の子供だわ。だから」
「……?だから?」
「だから、危険なことはしてほしくないの」
「……」
ママはそう言って、悲しそうな顔をした。
なぜそのような顔をしてしまったのか、俺にはすぐにわかった。それは、俺のジャイアントボアの倒し方。
蛇ならば、獲物に巻き付いて絞め殺すか、毒で殺すかだろうが、ジャイアントボアを絞め殺せるほど俺は大きくも長くもなく、毒も持っていない。
俺の武器は、素早さ。地上でも木の上でも、全身の筋肉を使って器用に速く動ける。俺はその武器を使い、ジャイアントボアの身体を這いずりまわった。
蛇の這う気持ち悪さと、怒りから、ジャイアントボアは怒りの雄叫びを上げたのだが、それが最期。俺はそれを見逃さず、自分からジャイアントボアの口の中に入っていったのだ。
ジャイアントボアが口を閉じるころには俺は喉の奥。ジャイアントボアの気道を塞ぎ、文字通り息の根を止めた。
ママは優しく、頭もいい。ジャイアントボアに打つ手のない俺が、ジャイアントボアを狩ってきたのだ。やるわけがないと思いつつも、その狩り方に至ってしまったのだろう。
俺は俯きながら、小さい声で言った。
「ママ、ごめんなさい……」
「謝らなくていいの。あなたの命、あなたの生き方。ママが口を出すことが本当はいけないの。でもね」
「でも?」
「でも、やっぱりママの子だもの。心配してしまうわ……」
ママは、何より子供たちの考え方を尊重してくれている。勝手なことをしても厳しく突き放すのではなく、優しく肯定をしてくれる。失敗をしても怒らず、次はどうすればいいかを一緒に考えてくれる。
俺はそんなママが好きだし、兄弟達もそうだ。俺は、ママの無理矢理作った笑顔を見ながら言った。
「うん。俺、もう無茶しないよ。ママが心配するようなこと、絶対しないよ」
「……嬉しいわ。でも、あなたの生きる道。ママのことは気にしなくていいの」
「ううん!もう決めたから!もうママを心配させない!それが俺の生きる道だから!」
「……そう」
いつも通りの優しい顔、ほっとしたような息遣い。俺はそんなママの顔に向かって頬ずりをした。
「ママ、大好きっ!」
「んっ?僕もママ好きだぞ!」
「私も好きよ!」
「ぼくもー!」
「好きー!」
次々に兄弟達が集まり、同じようにママの顔に頬ずりをしている。
「……ママもあなた達が大好きよ。愛しの我が子達……」
ママが笑顔で頬ずりを返している後ろ。俺達を囲んでいるとぐろが微かに震えているのを見て。俺は本当に、蛇に産まれてよかったと。この人のところに産まれて良かったと、心から思った。