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一皮剥けました

自分のステータスを見た後、俺はなぜか兄弟達と共にママの背中に乗り、どこかへ移動中だ。

兄弟たちが背中で遊んでいるのを傍目に、俺は改めて自分のステータス画面を見ていた。


(……てか、なんだこの能力?!)


蛇目、言語翻訳、消化促進。スキルがこれしかないのである。

夢にまで見た。というほどではないが異世界転生。背筋をピンと立てていた俺はしおれるように倒れこむ。


(チートは?!チートはないのかよ!!)


俺は何度も何度も自分のステータスを見ているが、何度やっても映し出されるスキルは変わらない。


(異世界なのに。なんなんだこのスキル構成は……まぁ、チートって言えるのは言語翻訳くらいか……)


称号という欄を見ても、これといって強そうなものはない。懇願と慈悲。俺が何者かに頼み込まれてこの世界に転生したということがわかるが、その人物はなぜ俺を蛇に転生させたのかがわからない。


(白蛇……白蛇ねぇ)


昔、一度だけ助けたことのある白蛇がいたが、それ以降一度も会っていない。それが今になって懇願してまで俺を転生させるわけがないと思っている。


(ま!新しく授かった命だ!これはこれで楽しんで生きていくぞぉ!!)


「ッシャー!」


(おう?!)


ママが唐突に声を上げ、動きを止めた。

目の前には、美しい湖。深い森の中で、その湖だけが特別だと言わんばかりにポツンとあった。

中心にいくほど徐々に深まる青は、恐ろしくもあったが、そのグラデーションが美しかった。

ママは、体をスルスルと湖の中に入れると、俺達を地面に下ろして守るように丸くなった。


(浅瀬で水遊びをしろってことか?)


ママの体は湖の中に入っているが、その半分が顔を出している。浅い場所に体を置き、これ以上先へは行かせないように自分の体でせき止めているようだ。


兄弟たちはそれがわかっているのか、次々と湖の中に入っていった。

皆、水は初めてなのでおっかなびっくりしながらも顔をうずめたり、体を濡らしてはしゃいでいるようだ。俺も兄弟達のように水の中に入った。


(ひゃ~冷てぇ~)


俺は体をピンと立て、水面に首だけを出す。


(でも蛇って変温動物だったよな……大丈夫なんだろうか)


ママや兄弟達を見てみるが、別に寒がっている様子もない。


(ま!ここ異世界だし!!)


この一言ですべてが収まってしまうことに、俺は感動してしまう。


(ひゃっほー!)


俺は生前テレビで見たウミヘビのように、体をクネらせ、泳ぎを試みてみた。


(なるほど。全身が筋肉だから、全身を使ってバタ足するみたいな?ドルフィンキックで前に進むのと同じ要領か?)


そんなことを考えながらしばらく泳いでいると、体が急に軽くなった。


(ぬぉ?!)


水の中から引き揚げられると、そこには巨大な黄色い目。どうやら、ママが水の中から俺を引っ張り出したみたいだ。


「ウフフ、あまり深く潜ると危ないわよ」


「えっ」


「え?」


「ママが、喋ってる……」


「我が子がもう喋ってる……!」


俺とママは一瞬硬直し、ママが大きな声を出した。


「ッシャーーー!!!」


ママが口を開き、俺はその勢いで宙へ放り出された。

広い空、近づく大地。あ、俺。


「また死ぬわ……」


と思ったのも一瞬で、ママがすぐにまた鼻の上で俺をキャッチしてくれ、優しく地面の上へ下ろしてくれた。


「あぁ、可愛い可愛い愛しの我が子。愚かな母を許して頂戴」


「いえいえ!私を産んでくれましたし、危ないところを助けてもらいましたし、感謝しかありません!」


「ウフフ?愛しの我が子、話し方がもうすっかり大人ね」


「え?あ?えへへ……ママちゅき……」


記憶が残っているので、初対面の人にはまず敬語という癖が出てしまったようだ。癖というか礼儀なのでが、産まれて一週間そこらの赤ん坊がいきなり流暢に敬語を話してくるのはびっくりするだろう。


「ウフフ。いいのよ。愛しい我が子……それにしても話始めるのが随分と早いわね」


「……普通はどれくらいで話始めるの?ママ」


「あら、ママだなんて。嬉しいわねぇ……そうね、二週間くらいで初めての脱皮をしてから少しずつ言葉を喋り始めるわ。愛しい我が子。あなたはきっと天才なのね」


「ぼ、僕天才?」


「ええ!きっとそうよ!よく見れば、もう脱皮しそうよ」


「脱皮?」


「ええ。視界が白く曇ってない?」


「あ、うん」


実は、昨日の夜ごろから、視界の端からゆっくりと白く染まっているのだ。


「すごいわ。脱皮も早いなんて。脱皮はね……」


ママは俺に脱皮のやり方について説明をしてくれた。

まずは鼻先や顔を地面や木にこすりつけ、顔の皮を剥がす。そこから抜け出すように体をくねらせ、全身の皮を脱ぎ捨てるのだという。俺はそれを聞きながら地面に顔をこすりつけ、脱皮を開始する。


「すごいわ!上手!」


「え、えへへ、ありがとうママ……」


水遊びをしていた兄弟たちも、それが珍しいのか勉強するためなのか、俺の脱皮を凝視している。


(それにしても、中々難しいな……)


手足がないので、剥けたところから引きはがすのではなく、剥けたところをさらにこすりつけて剥がすしかないのだ。最初は尻尾をおさえてそこから抜き取ればよいとも思っていたが、尻尾を固定してしまえば体を動かす範囲が狭くなってしまう。俺は何度も何度も円を描くように地を這い、皮をこすりつけている。


数十分経ち、残すところは尻尾辺りのみになった。俺は顎で尻尾を固定し、体を引き抜いた。


「やりきった……!」


「すごいわ!さすがは愛しい我が子!」


「えへへ。ありがとうママ……」


「「「シャシャシャ!」」」


兄弟達も、俺の初めての脱皮を褒めてくれているのか、シャッシャシャッシャ言ってくれている。

俺は脱皮で疲れ、兄弟たちは水遊びで疲れたのか、ぐったりしている。

ママがまた鼻先に俺達を乗せ地上に移動し、中心に俺達を入れてとぐろを巻く。

辺りはすっかり暗くなっており、俺達はもう就寝時間のようだ。

各々がとぐろを巻き、その中に頭を突っ込んでいる。俺も例に漏れず、自分の体の中に頭を突っ込み、完全な暗闇の中、眠りについた。


初めての異世界、初めてのステータス、初めての会話、初めての脱皮。

今日一日だけでもいろいろなことをした俺は、すぐに深い眠りに落ちた。最後に聞こえたのは、優しい優しい、母の声だった。


「おやすみなさい……愛しい我が子たち……」

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