来ました!異世界!
『……て』
(ん?)
『あなた……ありが……ごめ……でもき……』
真っ暗な空間の中に、一際目立つ女の子が立っている。
真っ白な肌に真っ白な髪、真っ白な着物には綺麗な金色の装飾が施されている。
さらに目を引くのは、その女の子の目だ。
目だけが、赤い色をしているのだが、その赤が全身の白を際立たせているし、全身の白も彼女の目を目立たせている。
(……かわいいけど、何言ってるか全然聞き取れねぇ)
『ずっと……きっと……だから、ありがとう』
はっきりと聞こえるのはその最後の感謝の言葉だけ。
その言葉を聞き終えると、女の子は消え、真っ暗な世界が視界に広がる。
(あぁ、またこの夢か)
俺は目を覚まし、夢を振り返った。振り返ると言っても、いつも同じ内容の夢なのだ。
真っ暗な場所に、真っ白な女の子。女の子は穏やかな表情で何かを俺に語っているが、俺はそれを見ていることしかできない。手を伸ばそうにも手足はなく、声を出そうにも発声器官はない。
夢だからなんとかなる気もしなくもないが、夢の中の俺は、どこか悲しそうに彼女を見つめているだけだ。
(なんで夢の中の俺は悲しんでいるんだろうか)
俺はそんなことを考えながら、自分の体の中から頭を出した。
体の中といっても、内臓とかではない。とぐろの中からだ。
この世に産まれてから一週間。初めて睡眠をした時のことを思い出す。
(蛇って……瞼がないんだよなぁ)
そうなのだ。蛇には瞼がない。だから常に目を開きっぱなし。眠ろうと目を瞑ることもできないし、夜はピット器官で青白い世界を見せられることにもなってしまう。だから俺はとぐろを巻き、その中に顔を突っ込み、真っ暗闇にして寝ている。
俺たちが寝ている間はママがさらにとぐろを巻いて守ってくれているし、安心感がハンパなかった。
件の夢は、俺が生後3日目に初めて見た夢だ。最初は何を言っているかわからなかったが、それも少しずつ聞けるようになっている。初めて理解したのは「あなた」俺のことを指しているのだろう。そして最後の「ありがとう」感謝の意味だが、前世で会ったことも、今世で会ったこともない女の子なので、全くもって見当がつかない。
(会ったことも聞いたこともないっていったら、卵から孵化する前のあの地獄みたいなところでも謎の声を聴いたよなぁ)
ノイズだらけの声を思い出した。天国への入国審査かとも思ったが、それは間違いだったようだ。
(得体のしれないものを考えるのはやめよう。まずは、飯だ飯!)
俺の目の前には、初日に食べたミミズの他に、赤い実が落ちている。これも俺が生後3日目にママがミミズ一緒に運んできてくれたのだが、中々に甘くて美味しい。だが俺達の口には大きすぎるようで、兄弟たちは四苦八苦している。俺はというと蛇の特性を活かし、顎を上下に目一杯開け、下顎も左右にしっかりと開いている。同じ蛇なのだから兄弟たちもできるはずなのだが、それができるのは未だに俺だけらしい。
(ふぅ~食った食った)
卵から孵ってからというもの、食っちゃ寝の生活だが、俺もそろそろ動き出さなければいけない。
(這うのにも慣れてきてるし、飯も器用に食える。後は……)
俺はピット器官に集中し、見る世界を変える。左目では普通に色のついた世界を、右目では赤外線でサーモグラフィーのような世界を。
(集中すれば同時に見れるってすごいよなぁ。そうそう、気になるのはこれだ)
冷たい地面や葉などは寒色で、温かい空や兄弟達の体温は暖色で見えており、ママの体温もオレンジ色で見えているのだが、気になるのはママの体の周り。
ママの体を包み込むように黒色の靄が漂っている。
(まぁ氷魔法使ってたし魔力って考えるのが妥当か?)
この黒い靄はママだけではなく、兄弟たち数体にもあった。俺の体からは出ていないらしく、魔法は使えないのかとショックを受けた。
(ってか!そうだ!ここってもしかしたら異世界なんだよな……ってことは)
超大蛇VS空飛ぶ大トカゲを初日に見て心躍らせていたのに、それから一週間食っちゃ寝の生活をしていたからか、そのことを完全に忘れてた。
ここは、もしかしたら地球という場所ではなく、異世界なのかもしれないのだ。
(ラノベとか漫画で散々夢見た異世界だぞ!だったらやっぱりお約束の……)
前世ではアニメやゲームといったものも好きだった俺は、異世界転生というジャンルも好きで嗜んでいた。俺が一番好きだった作品では城や国に召喚されてそこでスキルを鑑定するというものだったが、それ以外。召喚されたのではなく、転生した主人公たちがまず初めにすること、言うこと、それが……。
(ステータス、オープン!)
俺が心の中で高らかにそう唱えると、青白いウィンドウが目の前に浮かび上がる。
名前:
種族:スモールベビースネーク(一週間目)
ランク:G
レベル:1/1
固有スキル
蛇目
言語翻訳
消化促進
スキル
称号
白蛇の懇願、転生神の慈悲、転生者
「ッシャ!シャーーーー!!!(異世界!!キターーーー!!!)」
いきなり大声を出した俺に、ママ共々兄弟たちが驚いていた。
「シャ、シャー……(あ、ごめん……)」
「ッシャーーーーーーー!!!」
「フシュゥ……(ひえぇ……)」
初めて鳴き声を出した我が子にが嬉しいのか、ママも感激の声を出したが、俺はそれに驚いて情けない声を出してしまった。ステータスのウィンドウは閉じてしまっていた。