ママ……
(いやいやいやいや、前世が人間、今世が蛇って、中々ハードじゃねぇか?!いや、でもミジンコとかノミじゃなかっただけまだマシか?いや、蛇かっこいいしな……うん)
俺は体をくねらせながら、そんなことを考えている。一旦落ち着いて、辺りを見渡してみると、巨大な木々が目の前に広がり、広大な大地が下にある。よくよく考えてみれば、自分の体長が極小なのだと納得した。
(でもおかしいな。地面が茶色で葉っぱが緑。空が青くて雲が白い。蛇の目って熱しか見れなかったんじゃないか?)
そう考えていると、目の前の風景が変わった。
サーモグラフィーでも見ているかのように、地面は青白く、空はオレンジ色に変わるが、先ほどのように普通の景色も同時に見える。
(あぁ、ピット器官ってのがあるんだっけ。そういえば、一時期蛇にハマって調べまくったんだよなぁ)
自分の知識の中にある蛇の体の構造を確認した。口の中にある小さな穴、鼻先にあるピット器官。手足のない細い体、蛇腹、一通り確認すると、伸びでもするかのように体をグッと伸ばして卵から這い出た。
(今の俺の大きさはイトミミズってくらいか?でも、生まれ変わるにしても前世の記憶持って蛇のっていうのも、辛いものだな)
俺は産まれながらにして慣れた体つきで地を這った。自分が這い出てきた卵を振り向くと、そこには自分の卵以外にも数個の卵が、浅く掘られた穴の中に詰まっていた。
(あれ?俺まさか長男なんじゃないか?待てよ?こんなに卵があるってことは……)
そう考えていると、ガサガサと茂みを掻き分ける音がする。背筋を立て、その音のする方向を振り返ると、今の俺からしたら怪獣にも見えるほど大きな蛇が顔を出していた。
その蛇はゆっくりとこちらを向き、二又に割れている舌をチロチロと出している。
(えぇ……こっち見てるぅ……)
ズルズルと音を立てながら蛇はこちらに近づいてくる。胴の太さは周りの木の幹なんかより太く、大きな顔も生前の俺を容易に丸呑みできるほど大きい。世界最大のアナコンダも裸足で逃げるほどの大きさではないだろうか。
(逃げなきゃやばい)
生命の危機を感じた俺は回れ右をして必死にうねる。小さすぎる体では必死に這っても逃げ切ることなどできないのだが、せっかく生まれ変わったのにすぐに食べられてはたまったものではない。すると、その巨大な蛇は俺の前に先回りし、グルグルと長い体で蛇尾と卵を囲んでいった。
(あ、ダメだ)
諦めるのが早すぎる俺。それも仕方のないことなのだ。
すると、巨大な蛇が蛇尾と卵を囲んだのを合図にしたかのように、次々と兄弟たちのの卵も孵った。
(産まれてきてそうそう、我が兄弟達よ……俺たちはもうダメかもしれない……)
一匹、既に諦めムードの俺を無視するかのように蛇達が孵化する。巨大な蛇はそれらに顔を近づけ、大きな口を開いた。
(もうダメぽ)
と思い目を瞑った瞬間。
ボトボトと、何かが落ちる音がする。
(ん?)
その音が気になり目を開けると、兄弟達の他に、うねうねとのたまう何かがいる。
赤い体にシマシマ模様が引かれているもの、それは前世でも見たミミズに似ている。
(まさか……)
兄弟達はそのミミズに群がって噛み付くものや、締めつけるもの、どうやら吞み込もうとしているようだ。巨大な蛇はその光景を、舌をチロチロと出しながら、つぶらな瞳で眺めている。
その表情は、俺の若かりし日の記憶を呼び起こした。
(お母さぁん……)
どこが胸なのかわからないが、俺はほっと胸を撫で下ろした。