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灰と黒


ママは俺の質問を静かに聞いて、少しだけ黙った後、ゆっくりと話し始めてくれた。


「その質問に答えるには、あなた達のお父さん、そして私の話をしなければいけないわ」


ママはそこからポツリポツリと言葉を紡ぐ。


その昔、ママは有名な魔法使いの人間に飼われていた。飼われていたといっても、使い魔として人間に協力し共に生きていたらしい。人間の歴史や魔法の知識など、俺達に教えてくれる事柄は、その時に学んだものと言っていた。

ママはその人間にとても大切に扱われており、まさにベストパートナーと言えるほどだったらしい。だが、人間は長生きする生物ではない。ママは蛇であってもモンスターだ。それも高ランクの、人間より何倍も長く生きる。

ママのパートナーが死を悟った時、ママとの使い魔契約を破棄し、ママに自由に生きることを願った。ママも最期の願いに応え、その人間の下を離れようとした。だが、その人間の周りの人間はそれをよしとは思わなかった。

いくら有名で人望のある魔法使いの使い魔であっても、モンスターはモンスター。使い魔の契約がなくなったことで、ママが暴れることを危惧した人間は、大量の冒険者を雇い、ママを襲おうとしたらしい。

ママも魔法使いもそれに気づき、安全にママを逃がすことに成功した。


ママは、それから下の野生のモンスターとして平和に生きていた。人間の事は嫌いではなかったから、大人しくしていたらしい。だが、当時巣にしていた岩場が色々なモンスターで溢れかえった。ママは高ランクのモンスターで魔法も使う。ママに敵わないモンスターは近寄らないはずなのだが、何かから逃げるように他のモンスターをよく見かけるようになった。

ある日、日常になりつつあった逃走するモンスターを観察していた時、モンスター達が逃げ出している相手を見つけた。

自分と同じくらい真っ黒な大蛇だった。のた打ち回りながら周りのモンスターを殺戮し、近くのモンスターに手当たり次第に手を出していた。

その大蛇は、岩場の中で大人しくしているママを見つけてこう言ったらしい。


『俺様と戦え』


『嫌』


争いごとが嫌いなママは、即答したらしい。


「それが、あなた達のお父さんとの出会いよ」




「なぜだ」


「……」


灰色の大蛇はそれ以上何も言わず、とぐろを巻いて昼寝をしようとしていた。


「お前が拒んだとしても、俺様には関係ない!」


黒色の大蛇は追いまわしていたモンスターに目もくれず、灰色の大蛇に真っ直ぐに向かっていく。灰色の大蛇は既にとぐろを巻いており、その猛進にすぐには対処できない状態だったが、彼女には関係がなかった。


「ぬぉっ!」


黒色の大蛇は身体全体を使って急ブレーキをかけた。あと少しでも遅ければ、きっと頭はなくなっていただろう。灰色の大蛇と、黒色の大蛇の間には巨大な氷柱が数本刺さっている。それは、灰色の大蛇の魔法だった。


「ほう。魔法を使うか……ならば、相手にとって不足なし!!」


黒色の大蛇が猛進を再開すると、次々と巨大な氷柱が降り注いでくるが、今度はそれをするすると避け、灰色の大蛇がいる岩場に到達。灰色の大蛇を食い殺すために細い穴から顔を入れたが、そこ灰色の大蛇を見つけることが出来なかった。


「んぅ?」


穴の中には、水色の大きな塊、ひんやりとした空気を出している。その塊が動いた。


「ごふっ」


勢いよく飛び出してきたその水色の塊は、氷の礫だ。黒色の大蛇の鼻に大打撃を与え、たまらず穴から頭を引き出す。


「ふふふ、不意打ちを食らってしまったが、どうということはない。ここを突破すれ、ばっ!」


勝ち誇ったような笑みを浮かべる黒色の大蛇の鼻に、もう一発氷の礫がヒットする。それを合図にしたかのように、穴の中、周囲からも次々と礫が飛んできた。不意の一撃で体勢を崩された黒色の大蛇はそれを避けることが出来ず、全身に受けてしまう。


「ぐ、ぐはっ、ふ、ふふ、お前をっ強者と、認め、ぐっ、よう。きょふっは退くが、必っず、お前を討ち取ってみせよう!」


黒色の大蛇がそう言い終わるか終わらないかの時、今日一番の大きい氷柱が、黒色の大蛇の頬を殴った。


「お、覚えていろ~!」


その一撃を食らった黒色の大蛇は言ってフラフラと森の中へと帰っていた。

灰色の大蛇のお気に入りだった岩場は、魔法のせいで荒れてしまっているが、自分の巣が無傷なので問題はない。灰色の大蛇は、変なモンスターに眼をつけられてしまったことを憂いていた。


「……面倒くさいわね……」


その日から、黒色の大蛇は毎日毎日、一日も欠かすことなく灰色の大蛇の巣を訪れては勝負を仕掛けていた。風の強い日も、雨の日も、雪が降ろうが関係ない。昼間に来なかったと思えば夜襲をすることもしばしばあったが、同じ蛇なのだ。どちらも夜目は効くしピット器官がある。灰色の大蛇が負けることは一度たりともなかった。


そんな毎日が続き、黒色の大蛇の敗北が三桁を超えようとした時。


「あなた、毎日毎日よく飽きないわね」


「っ!おぉ。お前が言葉を発するのは初めて会ったとき以来か?」


「……」


「飽きない!俺様より強い奴と戦えるのだ!飽きることはない!」


「私には絶対に勝てないのに?」


「絶対?ははは、調子に乗るな!まだ・・勝てないだけだ!」


その言葉を口火に、今日の戦いが始まった。いつものように氷柱を避け、いつものように氷の礫を身に浴び、いつものように氷柱で横っ面を叩かれ、敗れるかと思われた。


「ふっふっふ!!その技、見破ったり!!」


黒色の大蛇はとぐろを巻くように身体を縮ませ、氷柱が自分のほほを殴りつける前に飛び出した。


「っ!」


バネのように縮ませた身体の爆発力は驚くもので、一瞬で穴の中に頭を突っ込み、灰色の大蛇の身体に噛みついた。


「ふふふ、ようやく一撃」


だが、灰色の大蛇の身体を噛みちぎることはできず、いつの間に周りに浮かんでいる氷の礫の集中砲火を浴びることになった。

頭がボコボコと凹んではいるが、まだ絶命はしていないらしい。黒色の大蛇はかっこ悪い姿のまま、解説をしだした。


「ふ、ふふ……お、お前は異なる魔法を同時に使うことが、できない……氷柱を使う時は氷柱の魔法のみ、礫の魔法を使う時は礫の魔法のみを使うことが出来る。だからその瞬間を狙って飛び込めば一撃を加えることが出来る……違うか」


黒色の大蛇が言ったことは間違っていなかった。灰色の大蛇は一度に一種類の魔法しか使うことが出来ない。そして発動している魔法を途中で破棄することもできないので、そこを狙われると危うい。

だから広い場所では氷柱を使って攻撃を兼ねた牽制をし、狭い岩場で氷の礫を放るという戦法を使っている。それをわかっているからこそ、灰色の大蛇には他の戦法もあるのだが。


(……散々挑んできて、今気づいたのね……)


「図星か!はっはっは!俺様は確実に強くなっていりゅっ!!」


黒色の大蛇は巨大な礫を鼻に受け、穴の外へ放り出された。


「いい線をいっていたが、今日はここまでだな……」


黒色の大蛇は今日も負け、いつものように森に帰るのだが、今日だけはいつもと違った。


「お前、名前はあるか?」


「……グレース。グレース・ラピス」


黒色の大蛇が、初めて戦い以外の話を始めた。灰色の大蛇は全く興味もなかったが、それになぜか答えてしまう。


「グレース。いい名だ。俺様はヴァンス!お前を倒す雄の名だ!よく覚えておけ!」


ヴァンスはそれを捨て台詞に、森の中へ消えていく。

岩場に一匹残ったグレースはとぐろを巻き、いつもとは違う何かを感じながらゆっくりと眠りについた。


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