確信と核心
「綺麗ね……」
「……そうだね」
俺は、ママに連れられ池のほとりに来ている。池の水は透き通っており、中で泳いでいる魚が見えるほどだ。その池の水面に月の光が反射し、辺りを照らしている。とても綺麗だ。
「それで」
「二人でゆっくり喋るのは初めてね」
ママは俺が喋ろうとするのを遮って、そう言った。
「……うん。そうだね、移動と狩りと勉強はみんなでするけど、その後はみんな寝ちゃうもんね」
「ええ。 ……今は楽しい?」
「うん。色々大変だけど、皆もママもいるし、すごく楽しいよ」
「そう」
ママはいつものように微笑んでくれる。何やら手探りをするように話を振ってくるが、ママがなんで俺だけを呼んで話そうと言ったのか、俺は気づいていた。ママも気づいているはずだ。
「ママは、やっぱり俺のこと……」
「ええ。他の子とは違うのでしょう?」
それは、既に確信しているようだ。
「最初はちょっとした違和感だったわ。孵化してすぐに喋るのも、脱皮が早すぎるのも、それは他のみんなよりもお兄ちゃんなのだし、個体差はあると思ってたわ」
ママは俺を責めるわけでも、悲しんでいるわけでもない。ただ淡々と、俺が自分の知っている子供ではないという確認だ。
「私が確信したのは、知るはずのない知識を持っていること。頭がいいだけじゃ説明がつかない。私が教える前に人を知っていたり、未だ会ったこともない亜人の種族名を知っている。そして何より、武器や道具の適切な使い方を知っている。そう、あなたは……」
ママは、核心に迫る。
「転生者、なのでしょう?」
ママがそう言った瞬間、静かな風が俺の頬を撫でるように吹いていく。風はそのまま、池の水面に波紋を広げていく。
何も言えなかった。何を言えばいいかわからなかった。肯定も否定もするべきではないのかもしれない。今まで愛を込めて育ててきた我が子は、本当は皮を被っていたのだ。
俺は、ママの方を向けない。
ママは何も言わず、俺が答えてくれるのを待ってくれている。俺もママもわかりきっているんだ。
(ママは俺を一生懸命育ててくれた。色々なことも教えてもらった。今日は命だって救ってもらった。そして何より産んでもらった)
ママは、本当に俺達を、本当に大切に育ててきた。嘘をついていたのは、俺だけだ。
「ママ、俺、俺は……」
俺は全てを話した。
俺の前世は人間だったということ。そこで死に、ママの子供として転生したこと。なぜ記憶を引き継いでいるのかは俺にもわからないこと。蛇に生まれ変わったことには驚いたが、兄弟達と母さんのおかげでここまで頑張れていること。死なないように必死で生きている。
ママは相槌を打ちながら、俺の話を静かに聞いてくれた。
「ママには本当に感謝してるし、家族も好きだ。 ……俺のこと、嫌いになった?」
「いいえ」
優しく相槌を打つママが、俺の最後の問いにだけ、被さるように否定した。
「最初こそ戸惑いはありました。ですが、前世の記憶があろうとなかろうと、あなたはあなたです。私の愛しい我が子なのです。私の知らない一面を持っているというだけで我が子を嫌いになる母がどこにいます」
「ママ……」
「こうして、正直にあなたの口から聞けたことが、私は嬉しい。これからも我が子たちに愛を注いでいくわよ」
ママはいつものように俺の頭を撫でてくれた。
「さぁ、今度はあなたの番よ。この世界に生まれて、前世の記憶を持っているからこそ、聞きたいことは山ほどあると思うわ。私が知っていることであれば答えられるわ」
ママはそう言って笑顔になった。
確かに、俺はこの世界のことをよく知らない。モンスターや魔法が存在し、人間、エルフ、亜人といった色々なものも存在している。前世でいう所謂ファンタジーの世界。どんな国があるのかも気になるところだが、今の俺にはあまり関係がない。
俺が今一番気になっているのは、俺達自身のことだ。
聞いていいのかどうか迷ったが、ママは優しい。なんでも話してくれるはずだ。
「……じゃあさ、ママは……俺達は、なんで逃げ続けているの?」
俺の質問に、ママは驚きもせず答えてくれた。