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プロローグ


俺の名前は上沼(かみぬま)蛇尾(へびお)。24歳。

俺の両親がなんでこんな変な名前をつけたのかはわからないが、俺は俺でかっこいいし気に入っている。

蛇のように切れ長の目と、ちょっぴり長い舌。名は体を表すと言うが、蛇っぽいのはそれだけだ。

別に狡猾というわけでも、体が柔らかいというわけでもない。身長は平均より少し高く、顔もブサイクではないと思っている。


「オーライオーライ」


暑苦しい倉庫内で、仕事をしている真っ最中。

同僚も気のいいやつばかりで、残業は少しばかりあるが、課長も所長も社長もみんないい人ばかり。今働いている職場に一切の不満などなかった。


(一つあるとすれば、このクソ熱い仕事場くらいか……)


そんなことを考えつつ、同僚の運転する作業車の誘導をしながら額に溜まった汗粒を拭った。


(やべ、暑すぎて頭がクラクラしてきた……)


足をフラつきさせつつ、こんな場所で倒れては危ないと思い、俺は一旦休憩を挟もうと、声をかけた。


「すいません、勝さん、ちょっと」


「おい!へび!」


「へ?」


バックミラーを見ながら俺の誘導に従ったいたはずの勝さんが、窓から身を乗り出して俺のことを呼んだ。

俺はそれに驚きつつも何かに躓き、後ろに倒れこんでしまう。


(やべ、倒れちまった)


(しま)!ストップだ!!」


「えっ、勝さんなんで」


勝さんが、なんで怒鳴るように声を上げているのか、意識を手放しつつある俺はわからなかった。

それよりも、倒れこんだ先が意外と硬く、ザラザラしているほうが俺的には嫌だった。


(床?じゃないよなぁ)


プシュー。と、何かが動く音がする。俺は朦朧する意識の中で自分が今何に倒れこんでいるのかを確認した。


(鉄……廃材……あ)


勝さんが慌てて車を飛び出し、島さんに何かを言っている。島さんはそれに気づきボタンを押しまくっているが、どうやら止まらないようだ。

俺の朦朧とした意識は未だはっきりせず、体を動かすこともできそうにない。


周りの鉄の廃材と、頭上に浮かぶ銀の天井。

俺が何に倒れこんでしまったのかは、すぐにわかった。


「プレス機、かぁ……」


それが、俺。上沼蛇尾の最期の言葉になった。



(ん……?なんだここ)


目を覚ましたら、先も見えない真っ暗な闇の中。

失ったはずの意識だけははっきりとしているから手足を確認しようとするが、見えなかった。見ようとしているし頭はついているはずだ。頬をつねってみたら痛いし、五体はあるはず。


(五体満足……。いやおかしい)


というのも、先ほど俺が死んだことは鮮明に覚えている。暑い作業場のせいで脱水症状にでもなったのだろうか、体をフラつかせあろうことかプレス機の中に倒れこんでしまった。

生物がプレス機にいれば強制的に止まるはずなのだが、プレス機を操縦していた島さんが強制停止のボタンを押しても止まらなかったのだから、その機能も動作しなかったのだろう。


グロテスクな死に方で、後始末が大変だなと思いつつも、呆気ない自分の最期に呆れてしまった。


(死んじまったもんは仕方がないな。けど、ここどこだ?)


自分の死を再確認してから、今置かれている状況に戻る。


(地獄か天国かに行くってんなら、俺は天国のはずだよな……。いや、悪いことしたことないし、良いことは率先的にやるほうだったし……え、ここってもう地獄なの?違うよね。違うって言って!)


俺の頭の中では、天国はもっと華やかなイメージだ。今いる空間はその真逆。悪いことをしたことがないはずだが、何かをしてしまって地獄に落ちてしまったのかと思うほどに、ここは暗く静かだ。


『聞こえ……か』


(ん?)


ノイズの混じった声が、頭の中に響いている。


『あなたは……した。これ……しく、生……』


(全く聞き取れないけど、天国か地獄かに行く手続きが必要だったり?)


『かつて蛇……に……を授けてやって……』


(かつて蛇……?あぁ、一回神社で白蛇を助けたことがあったんだよなぁ。幸運になったりすると思ったけどなんもなくて、しかも呆気なく死んじまったし……まさか、天国への入国審査みたいなものか?!)


ノイズ混じりの謎の声は、俺の考えなどいざしらず、淡々と何かを言っている。


(良いことと言えばあれもしたし、これもしたし、どうか神様!俺を天国へ連れてってー!!)


俺は死んでしまったことなど既に飲み込み、天国へ行くことを楽しみにしている。生きていた頃の行いを思い出しながら神と思われる声に俺は必至に懇願している。


『よって、あ……世界に転……加護を一……幸あれ』


その言葉が聞こえると、目の前に一つの点が現れる。その点は徐々に大きくなっていき、よくよく見ればそれが点ではなく光だということに気づく。


(おぉ!やった!これ絶対天国じゃん!神様!ありがとう!!良い行いをした俺!おめでとう!!)


広がる光は、今いる真っ暗闇も照らし尽くし、眩しいほどの光が俺を包み込み、意識が段々と遠のいて行く。


(またこの感覚か……いや、もう死んでるし死にはしないのか?目を覚ましたら天国か……天使って本当にいるのかな?)


俺は期待に胸を膨らましつつも、遠のく意識を手放した。


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