表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

月桂樹の話

めぐりあわせ

作者: 伊月煌

めぐりあわせというのは存在すると思います。

まさにこの2人もそしてもう1人の主人公もめぐりあわせだったのでしょう。

そんなお話。

「それは、俺の事か。」

低い重い声が、ホールに響いた。

声のした方に視線を向けると、少し小さな背丈の男子生徒が、同じ服をまとった女子を横抱きにしている。

周囲を取り囲む男子は品のない笑みを浮かべている。

この光景、知ってる。

「聞くが、お前は目の前で倒れたやつをそのままにしておくのか?」

そう思ったところで、彼が口を開いた。

この光景は、知らない。

と、思った。

変わらない高さの声と、鋭い目線。

これが、今年の首席入学者。

驕ることも、鼻にかけることもない。

けれど、謙遜とも違う。

周りになんと言われようと自分の実力は揺るがないものだという確固たる自信がある。

そんな男だと思った。

ほんの一瞬、目が合った。

表情を変えずに、彼がこちらを見ている。

見られると、自分のことを見透かされそうで、俺は視線を逸らした。

「当たり前のことを責められなきゃならない道理はなんだ?一体俺になんの恨みがある。」

喧嘩をふっかけてきた男子の目を見てはっきりと尋ねた。

俺は、彼とその周囲に背を向けてホールの出口に向かった。

「…同じなんかじゃ、ない。」

気づけば小さく呟いていた。

自分の実力を周りに認めてもらえない。

その境遇を見て、自分と同じような人間なのではないかと思った。

そんな存在を認知して、何をしたかったのかはよくわからなかったけど。

けれど、違った。

あのはっきりとした物言いも、自分自身に対する評価や自信も、射抜くような視線も。

俺は持ってない。

「……羨ましい、のか。」

初めて、他人を羨ましいと思った。

自分には持っていないものを兼ね備えている彼を心底羨んでいたのだ。

今まで他人を羨むことなど、全くなかったというのに。


***


入学試験は言わせてもらえば、簡単だった。

体力測定は多少のきつさはあったものの、筆記に関しては何も難しくなかった。

自分の容姿を特別だと思ったことはなかったけど、目立つだろうとは予想していた。

家の名のこともある。

俺は、極力目立ちたくなくて、

『手を抜いた』。

入学できる程度に回答して、走って。

結局五本の指には入ってしまったのだが。

けれど、彼はそれをしなかった。

試験は満点近い成績を収めて合格。

これを周囲は『親のおかげだろう?』と言う。

確かにレオ・アデルカという名は有名だった。

身内に軍人がいない俺でも知っている名前で、優秀な軍人だ。

けれど、彼の成績は親の七光りにあやかったものじゃないと、一目でわかるのに。

掌についている肉刺やペンだこはその証なのに。

子供は親を選べないのに。

周りが抱いている彼の印象と、俺の持つ彼の印象は大きく異なっていた。


***


士官学校の寮は二人一部屋の相部屋だった。

これが一番堪える。

他人と一緒に生活した記憶など、無いに等しいのだから。

部屋で小さくため息を零したと同時に部屋の戸が開いた。

見ると、唖然とした顔で彼が立っている。

何故、そんな顔でこちらを見るのだろう、と疑問に思った。

そして、何かしゃべらなくてはと思った。

他人と話すのは何時ぶりだろうか。

「あ、あの…初めまして。」

ましてや同い年の人物と、話すのなんて。

「あぁ、よろしく。俺はディオ・アデルカ。そっちは?」

「えっと、俺はイルバ・コートス、です。よろしくお願いします。」

頭を下げると、彼は不機嫌そうな顔をした。

「媚を売られるのは嫌いだ、敬語で話すなら今後話しかけるな。」

初めて言われたその言葉になんと、返していいのかわからなかった。

媚を売るつもりなど毛頭ないのだが、俺の敬語の口調は多分治らない。

「すみません、」

そう、笑って言うと彼は眉間に皺を寄せた。

「…敬語をやめようとはしないのか。嫌われたもんだな。」

嫌い。

そんな単語が出たことも今までなかった。

他人を嫌いになれるほど、関わったことがないから。

でも、

彼に抱いているのはその言葉じゃないことくらいはわかる。

「あ、えっと…癖、みたいなものですので…嫌い、とかそういうわけでは、」

「敬語が、癖?同年代なのに?」

正確には癖じゃない。

護身術だ。

本来の意味で敬語を使うことは、ほとんどなかったのだ。

「……歳は関係ありませんから。」

敬語は使い方によっては防衛線になる。

心に踏み込んでもらわないようにするための。

距離を詰められないようにするための。

「じゃあ、今まで出会った全員と敬語で話してきたのか?」

普通なら、これ以上関わってこようとしないのに、彼は質問を重ねる。

「まあ、物心ついた時はそうだったかもしれないですけど…なんでそんなこと聞くんですか?」

俺の何が琴線に触れたのだろうか。

不思議で仕方なかった。

「いや、疲れそうだな…と、」

疲れる。

そんなことを感じたことは微塵もなかった。

「まさか家族とも敬語じゃないだろうな。」

「…疲れませんよ。ありとあらゆる人間と会話する時に使うので。もちろん家族もですが。」

「…へぇ、タメで話されて頭にこないのか。」

虚を突かれた。

え?

頭にくる?

「考えたことなかったです…。」

一方的なため口。

歳上も歳下も関係なく、話されるそれは自分とお前は対等じゃないと言われているわけだ。

「俺は頭に来るけどな。下級生でもない奴に敬語で喋られるの。」

むすっとしたまま彼が言った。

それはお前に頭に来ていると言われているようで。

「あ…え、と、ごめんなさい。」

正論だ。

間違ったことを言っているわけじゃない。

ここまで自分のしてきたことに異を唱える人はこれまでにいなかった。

どうしていいのかわからない。

「謝るな。ただ自分に媚びてるわけじゃない奴にそういう態度を取られるのがムカつくだけだ。」

媚びているわけじゃない、とはわかってもらえた。

けれど、彼を不快にさせている事実は変わらない。

俺が、敬語をやめればいいだけの話なのだが。

怖い。

距離を詰めて、離れられるのが怖い。

拒絶されるのが、蔑まれるのが、怖い。

そんなこと、慣れきっているはずなのに。

へらへらと笑ったまま、俺は言葉を紡いだ。

「努力は、します。敬語使わなくて済むように…。でも、その、すごく時間がかかるかもしれなくて、だから、あの…俺、頑張るから、あの…アデルカ君のこと、イライラさせちゃうかもしれないんですけど…。」

こういう時に自分のふがいなさを感じる。

他人とまともに喋れない、なんて。

すると。

「俺がお前に合わせようか。」

そんな、ぶっとんだ提案が出てきた。

「え、あ、の……大丈夫で、あの、俺頑張るから合わせるとかその……俺なんかに合わせなくても、」

「無理しなくてもいい。」

宜しくお願いします、コートス君。

ああ、羨ましい。

彼が。

他人との目線を合わせられる彼が。

自分の信念を曲げない彼が。

正論をまっすぐに言える彼が。

何と羨ましい事か。

「イルって、呼んでください。あんまり呼ばれないけど…気に入ってるんです。」

愛称をつけてくれたのは、俺の世話を焼いてくれる口の悪い執事だった。

色々あって数年前に家を追い出されたのだが、彼は俺個人を評価してくれる数少ない人間の一人だった。

そんな人がつけてくれたあだ名は気に入ってる。

この人なら、呼ばせてもいいと思った。

「わかりました、それなら俺もディオでいいです。」

先程よりも柔らかい表情でそう言った彼の敬語は違和感が満載だった。

「ディ、ディオが敬語なのは、ムズムズします……。」

すると、彼はふは、と笑った。

「俺も疲れる。」

笑ってそう言った。

こんな顔も、こんな優しい顔もできるのか。

つられてふふ、と声が漏れた。

「ディオは優しいですね?」

此処にいる何人が彼の優しさに気づいているだろうか。

ホールでの一件も、おそらく彼が抱えた女子生徒は明らかな貧血だった。

それを見てみぬふりはしなかったのだ。

それどころか、彼はさも当たり前のように助けた。

優しくないわけないじゃないか。

「どうかな。でも、同室の奴がお前でよかったよ、イル。」

耳当たりのいい低い声が愛称を呼んだ。

彼は俺の要望に応えてくれた。

見返りが欲しいわけじゃないのもわかっている。

でも、俺だって、もらったものは返したい。

「俺も、よかった……とおも、う。ディオ。」

「やっぱ敬語じゃないほうが良い。ありがとう。」

お礼を言われる意味が分からなくて首をかしげた。

「なんで、お礼で……じゃなくて、なの?」

「敬語のほうが話しやすいのに変えてくれたからな。」

「お礼されるようなこと…じゃない、と思うけど…」

お礼を言わなきゃないのはむしろ、こちらの方だというのに。

「いいんだよ、俺が言いたかったから。」

彼は再び笑った。


***


入学後も俺はそれなりに手を抜いて訓練を受けた。

体力がないのは目に見えていたから、それだけは本気を出さざるを得なかったけど、それ以外はのらりくらりとかわしていた。

体術の訓練は、勝たなくてもいいからまぐれで相手の武器を弾き飛ばしたように見せかける。

座学はわからないふりで誤魔化す。

そうやって、極力目立たないようにしていた。

学業の面では。

どれだけ工作したところで自分の容姿は変えられない。

”そういう目”で見られることが少しずつ増えていった。

自分の容姿は選べない。

自己嫌悪と苛立ちと。

色んな感情がぐるぐる回っていた。

それでも、それが表に出なかったのは、きっと彼が耐えていたからだと思う。

彼が罵詈雑言にも陰口にも耐えていたから。

俺と違って、今までにあれほどまでに他人に負の感情を向けられたことがないはずだから。

負けてられないと思ったのだろう。

そんなある日の体術訓練のことだった。

一対一の模造のダガーを使った訓練がこの日はあってランダムに選ばれた二人が模擬戦をやるという訓練内容だった。

俺と対戦するのは俺より5センチほど大きい体格の男。

知ってる。

彼に喧嘩を吹っ掛けてたやつらの一人だ。

俺が模擬戦をするからなのか、相手を応援しに来たのか周りにはギャラリーが押し寄せていた。

「それでは…はじめ!」

若い教官が合図を出した。

ダガーがぶつかる音が響いた。

いつも通り、躱せばいいか。

そう思っていた時だった。

「コートスって、首席閣下と同じ部屋だよな?」

相手の男が尋ねてきた。

首席閣下が彼を指していることに気づくのに少しだけ時間がかかった。

「……ええ、まあ。」

次の瞬間。

耳を疑った。

「首席閣下に抱かれてるって噂は、本当なの?」

寒気がした。

「……」

「いいなぁ、親のコネで入ってお前みたいな美人と同室。なあ、どうやって抱かれてんの?」

『気持ち悪い』。

彼にそういう頭の悪いあだ名がつけられていることが。

彼がそういうネタにされていることが。

彼がそういう目で見られていることが。

何も知らないくせに。

何も見ていないくせに。

理性というものが切れるのは存外簡単なんだと思った。

相手の手首にダガーを向けて武器を落とす。

相手の足を払って相手の尻を地につけた。

そうして、背の高い相手を見下ろす。

何も言わずに、ただ見下ろす。

とどめをさせ。

そんな声が脳裏に聞こえた気がした。

腕を振り上げ、即座に相手の顔をめがけて振り下ろしーーーーー

「イル。」

それは一瞬のことで、でも俺にとっては長い時間が経っているように思えた。

気づくとダガーの先は、相手の目と鼻の先にあった。

腕がこれ以上下には下がらない。

物凄い力で留められている。

振り向くと、そこには彼が眉間に皺を寄せて立っている。

俺の腕を止めているのは彼だった。

「殺気をしまえ。みんな青ざめてる。」

ここは敵地じゃない。

周囲を見渡すと、相手だけでなく周りのギャラリーも教官さえも青ざめていた。

彼以外のその場にいた人間が。

「お前、ここが敵地だったら死んでたな。安い挑発は身を滅ぼすぞ。」

彼が相手に向かって言った。

俺は、安い挑発に乗ってしまったのか。

彼の言葉をそんな風に受け止めた。

「尤も、滅多に本気を出さないこいつを怒らせる程、反吐の出る戯言だったのだろうが。」

彼の声が少しだけ低くなった。

まるで汚物を見るような目で相手を見下ろす。

「これで懲りなきゃ、次は俺が相手になってやるが。」

「っ……くそ、」

相手はそう悪態をついて去っていった。

「……落ち着いたか?」

「ごめん。俺、」

気にしなくていい。

彼はそう言って俺の腕を離した。

「ディオは、へーき?」

「あぁ。驚きはしたがな。」

その答えを聞いてふと、思ったことがあった。

「俺が本気じゃない、って……」

「見てればわかる。」

少しだけ声が不機嫌になった。

「それに、教官の何人かも気づいてる。」

え、と声を上げた時だった。

「まったく、アデルカは。」

バラしたら面白くないだろうが。

振り向くと、そこには主任教官の姿があった。

模擬戦の監督をしている教官の一回りもふた回りも年の離れた教官が苦笑している。

「偉い殺気が飛び交ってると思ったら、お前だったのでな。見事な体運びだ、コートス。体術はちょっと齧ってたろう。」

「あ……ええ、まあ。」

武術は習わされていた。

護身術を少しだけやっていた時期もある。

「だが、殺気は隠せよ。何処にいるのかダダ漏れだ。校舎にいる教官の殆どが身構えたぞ、多分。」

「は、はい……。」

返事をすると、主任教官は満足そうに頷いた。

「目立ちたくないのはわかるが、あまり手を抜くな。慣れてしまっては戦地で戦力にならん。程々にな、コートス。」

そう言うと、主任教官は周りに喝を入れて踵を返した。

「……イル?」

「今のは、褒められた、の?」

呆然とした声で彼に尋ねた。

「ああ。褒めていたと思うぞ?」

「…はじめて、ほめられた。」

喜んでいいのかな?

そう聞くと、ディオが呆れたように言った。

「アホか。素直に喜んでおけ。」


***


我が国、ギリアム帝国には2つの言語が存在する。

ギリアム語と、旧ギリアム語と呼ばれる言語だ。

旧ギリアム語は何百年も前に使われていた言語で現在の言語とは言葉も文法も異なる。

旧ギリアム語を使っているのは、極々一部の貴族階級と、軍の諜報部、それと国の機密文書くらいのものだろう。

彼が今広げているのは、その旧ギリアム語の参考書だった。

「…ディオ、諜報部にでもなるの?」

「違う。これは、意地の悪い教官が勝手に俺に押し付けてきたんだ。」

彼は眉間に皺を寄せて、そう言った。

「…何に詰まってるの?」

「この空欄がわからん。」

穴埋め問題のページで、彼は手詰まっていた。

「……ペン、貸して。」

俺は彼からペンを借りた。

「ディオの訳、ここが間違ってるから頭悩ませるんだよ。」

メモ書き程度に書いてた男らしい端正な字を指す。

「ここは……こういう風に訳して、ここは、こうだとすると、多少はわかりやすいと思うけど……って、何?」

彼が目を見開いて俺を見ている。

「お前、旧語読めるのか?」

「あ……」

旧語は習っている。

全くもって使わないけれど。

「凄いな。」

ぼそっと、彼が言った。

「これを押し付けてきた教官の数倍わかりやすい。」

「そ、そう……?」

手放しに褒められるのはむずむずする。

「それに、字も綺麗だ。」

「ディオ、その辺でもう勘弁してよ……。」

彼は時々俺のことをこれでもかと褒めるが、その度にこうやって制止している。

「諜報部にでもなったらどうだ?」

「やだよ。社交辞令を並べるのを仕事にしたくない。」

それは実家でのやり取りだけで充分だ。

「俺は、ディオと一緒に戦地に赴きたいからね。諜報部なんて勿体無い。」

「……それも、そうだな。」

彼は笑った。


***


「君が、イルバ・コートスくんかな?」

校舎の廊下で声をかけられた。

「……はい、」

「いつも、息子がお世話になっています。」

人当たりのいい笑顔でそう言われて、何を言われているのか理解するのにかなりの時間を要した。

「っ!!これは、失礼いたしました!」

レオ・アデルカ准将!

写真で見たことがある顔だったが、全くもって気づかなかった。

彼と同じく真面目で堅い性格なのかと思っていたからだ。

「あの、こちらこそ、お世話になっています。」

相変わらず突然の出来事には弱いらしい。

たどたどしい口調に准将は苦笑した。

「そう堅くならなくていいよ。噂はかねがね。随分ディオと仲良くしてくれているみたいで。」

「いえ、あの、それはこちらの台詞で……」

彼と全く似てない。

驚異のスピードで准将に登りつめたとは思えないほど、楽観的でマイペースな人だと思った。

「あれは真面目すぎるからね。一応親である身としては、心配なんだ。でも、同室の子とは仲良くしていると即答してたから安心したんだ。」

まさか、コートスの家の人間だとは思わなかったけど。

前言を撤回しよう。

この人は、ヘラヘラしているように見えてそうじゃない。

情報処理に長けていて、冷静な人だ。

「……自分は、落ちこぼれですから。煙たがられています。」

コートス家は帝国有数の財力を持つ財閥貴族だ。

それ故に黒い噂も絶えず存在し続ける。

帝国軍、特に陸軍は貴族贔屓が顕著な軍幹部が何人も存在するという。

コートス家とも関わりのある幹部は沢山いるに違いない。

尤も、俺には関係のないこと。

「勘当も同然の身ですので、准将の懸念しているようなことはございません。」

そんな腐敗が進行してる軍上層部を准将は危惧しておられるのだろう。

相当な切れ者だ。

すると、突然准将が声をあげて笑った。

「いや、君は相当頭がいいんだな。そこまで身構えないでくれ。俺も失言だった。申し訳ない。」

准将は頭を深々と下げた。

「あ、頭をあげてください!自分のような若輩者に貴方が頭を下げるなど……」

「ここは貴族社会じゃないからね。非は詫びないと。」

彼と准将は似ていないと思っていた。

違う。

彼の真っ直ぐなところとか、情に篤いところ。

自分の信念を信じて疑わない目、周囲を気にすることなく自分の思ってることを口に出すこと。

そっくりじゃないか。

「そうですね、社交辞令は程々にしなければなりません。」

笑ってそう言うと、頭の上に大きな手が置かれた。

「何でディオが君を気に入ったかわかった気がする。君は優秀な軍人になりそうだ。」

ディオのことよろしくね。

そう言って頭をぐしゃぐしゃに撫でた准将は笑って踵を返した。

「……頭撫でられたのなんて、初めて。」

准将のお願いは後にも先にもこれだけだった。

あの時の俺はそんなこと、知る由もなかったんだ。


***


自室に戻ると、彼がベッドの淵に腰をかけてぼーっとしていた。

珍しいなぁ、と思いながら声をかけた。

「…ディオ、何考えてるの?」

「昔のことだ。」

彼が物思いにふけることも、過去を振り返ることもあまりない。

本当に珍しいことがあるものだと思った。

「お前は変わらないな。」

彼がふと口を開いた。

「そんなはずないでしょ。」

そう言うと彼は小さく笑って俺の髪を触れる。

「……疲れてるの?」

「まさか。いつもと変わらん。」

「じゃあこの手は何?」

髪を弄っている手を指して尋ねた。

「触りたいと思ったから触っているんだ。何が悪い。」

「何その開き直り方」

声をあげて笑うと彼が面白くなさそうな顔をした。

「甘えたいモードですか、ディオくん?」

「……それはお前だろう。」

彼が意地悪く笑った。

羨ましかった。

あんな父親が欲しかった。

あんな風に我を通したかった。

あんな風に他人に優しくなりたかった。

でも、羨んでも手に入らないから。

せめて彼の大事な人との約束は守らなきゃ。

「イル?」

「ん?あー、うん。俺は甘えたいモードだよ?」

心の中で再度決意をして、俺は彼の白布に覆われた手を握った。


気づいたら8000字近く書いていました。

書きたいことを書き連ねていった感じなので、話の構成自体はあー、なんと稚拙なと思っている次第です笑笑

個人的に模擬戦のシーンと准将と会うシーンが好きです。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ