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女神様と100度目の転生  作者: すすむ
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1.出会い、そして転生へ

「残念ながらあなたは交通事故で亡くなりました。」


目を覚ますとそこは手入れのよく行き届いた庭園で榊真人(さかきまさと)は立っていた。

意識を失う以前どこにいたのかを思い出そうとしてみるもこのような場所に来た覚えはない。

そっと声の主の方を見てみるとそこには黒の長髪に和装を着た美少女がいた。


「ここは……。」


「すみません、そちらの説明がまだでしたね。ここは天界にある私の家の庭園です。」


まるでいつも同じようなことを尋ねられているかのように目の前の少女は答えた。


「この度は御愁傷様でした。とは言っても若冠17歳で亡くなる運命の元に魂を送り出したのは私たちですので先に謝罪申し上げます。」


深く頭を下げる少女は鎮痛な面持ちをしていた


「よくわからないですが気にしてません、若くしてなくなる人が一定数存在して誰かがその役割を負わなければならないのは分かりますから。」


「そう言っていただけると幸いです。この仕事をしていると怒られる方も少なくないので。」


「ところであなたは女神様なんですか?」


真っ先に浮かんだ疑問だった。

科学の進んだ地球において神を非現実的な物として見ていた真人だったが目の前にいる少女を見ると不思議とそんな気がしたのだった。


「そう呼ばれることも少なくないです。ですが正確に言うと少し違いますね。」


「じゃああなたはいったい何者ですか。」


「その話をするには少し昔の話をしなければなりません。お時間とりますが大丈夫ですか?」


「大丈夫です。」


「ではあちらのテラスで話すとしましょう。」


少女はそう言うと指を指した方向へ歩き始めた。

椅子に座るとどこから現れたのか天使のような風貌をした男が紅茶を持ってきた。


「女神様も人間的なものを召し上がりになるんですね。」


「神の起源は人にあるので性質が人間に依るのは仕方のないことです。」


「それはいったい。」


「つまりは神がいたから信仰が始まったわけではなく、信仰があったからそこに神はいた、ということです。」


「すみません、もう少し分かりやすくお願いしてもいいですか。」


「元々は神なんて存在は無かったんです。死んだら神の元へ帰れる、死を恐れた人間は死して現世から追放された先に帰る場所を求めましたそれが冥界です。誰かが唱えた死後の世界がやがて多くの人の心に形を作りできた概念的ものです。同時に死後再び現世へ舞い戻る輪廻転生を信じる宗教が現れそのような人々の心の中には転生が概念的な存在として定着したわけです。」


真人は中学生の頃に習った三大宗教それぞれの特徴を思い出し頭の中を整理するが一つ腑に落ちないことがあった。


「その言い方だと信じるものは救われる、みたいな感じで僕のように無宗教だと適用されないのではないですか?」


「別に信じてなくても知っていれば事足ります。冥界へ行くか転生するかはそのどちらをより鮮明に理解しているかと言うだけです。人は無意識に心が複雑な干渉を起こしています。同時に世界へも多少なりとも干渉しているのです。一人一人は小さな干渉力ですが同じものを信じる人が多ければ多いほど干渉の波は大きくなり存在しないものを存在するものへと変質させていくのです。ただし非存在の証明、これはこの波を著しく妨害します。つまりは偽物の存在である波は観測者がいないことが大前提と言うわけです。まあ神の非存在等と言う悪魔の証明をすることができる人は今後現れることは無いでしょうが。」


悪魔の証明、それは存在しないことを証明することを言う。幽霊は本当に存在しないのか、異世界は本当に存在しないのか等が例である。この世の法則をすべて解き、無限に存在する法則の干渉全てを検証することなど不可能だからだ。

ただ悪魔の証明が本当に不可能なのか、自分達が知らない導き方が存在しないのかと考えるとラプラスの悪魔も干渉の波で形作られているのだろうか。


「考えれば考えるほど矛盾点が増えていくような気がするのですが……。」


ふふふ、と口許に手を添えて笑う女神様を見て真人は反射的に頬を赤らめる。

人々の理想を型どった女神だけあってその美貌は男だけでなく女までも悩殺できそうな破壊力があった。

女神様は惚けている真人を横目にきれいな所作で紅茶を飲み話を続けた。


「そんなものですよ、矛盾が多いのが世の中。矛盾を許さないあなたの時代の科学はまだまだです。」


「未来の世界では矛盾さえも許容する世界なんですか?」


「物の見方が少し変わるだけでたいした変化はありませんね。例を挙げるとタイムパラドックスは同じ人間が同時に二人存在してしまうことを問題にしてますが未来では同じ人間が二人いるだけで時が経てば人は変わる、昨日まで自分を構成していた皮膚が明日には垢になっている。これは同じ人間ではあっても同じものとは言えないのでは、と言うような変化があります。」


「例えが具体的すぎて限定的すぎたお陰でよくわかりませんでした。」


「真人さんは面白い方ですね。」


少し馴れ馴れしすぎただろうかと思ったのはどうやら杞憂だったようで女神様は思いの外に下々のものにも寛大なようだった。


「女神様は僕にばかり構っていて大丈夫なんですか?死んでくる人はたくさんいるしその人たちの案内とかも必要なんじゃ……。」


「その必要はないです。私たちは転生させた先で転生前の世界を偶発的に思い出してしまう魂にだけ直接干渉します。そういうイレギュラーな魂は適当に転生させてしまうと同じ時間軸の世界なのに違う前世の情報を喋られるとそこから世界の分岐が起きて管理が困難になるんです。魂は100回までしか転生ができないのでどのように転生させれば世界の分岐を引き起こさないかを計算するのが我々の仕事です。」


そもそも現在と一秒先の世界から同時に死んだ人が来たとしたらもう一秒後には同じ人が転生を頼みに来ちゃうので一秒ずれた未来の転生担当は未来の私に任せるしかないです。

そう言ってまた笑った。

よく笑う女神様だな、それが真人の感想だった。


「そういえば僕っていつ転生するんですか?」


「運が良かったですね、あなたは明日の昼頃には転生できます。

運が悪い方だとここで一ヶ月近く、平均すると一週間ほどはここで待たされるんですが。」


「そうですか……。」


正直もう少しここで女神様とお喋りしていたかった。そう思う自分は面食いなのだろうか。死ぬ以前までは女性に好感を示すことが少なかったがそれが自分の高望みと言ってしまえば腑に落ちる。

こんな心持ちでは口が裂けてもそんなことは言えないな、そう考えながら真人は残りの時間を楽しむ方向へ考えをシフトする。


「女神様、あそこに植えられている花綺麗ですね。何て名前の花なんですか?」


真人がそう問うと女神様は驚いたのか目を見開き嬉しそうに花の説明をしてくれた。


そこから先は他愛もない話ばかりで気がつけば夜通し話しており気がつけば転生の時間となっていた。


「一日話に付き合ってくださってありがとうございます。あなたの記憶は無くなってしまいますがあなたは生まれたての魂なのであと99回転生できます。もう一度くらいなら会えるかもしれないですね。」


「そうですか、それなら『さよなら』ではなく『またいつか』。」


「はい、『またいつか』。」

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