~偽物~
夢ノ世界は、皆が来るところ。
もちろん、君もね。
おっと、今日も御客様が来たようだね。
じゃあ、君はこのお話、読んでてよ。
夢ノ世界へようこそ!! さぁ、君の理想は何かな?
夢ノ世界はね、幸せを作る世界なんだよ。
君の想像した幸せを、理想を、全部再現してあげる。
ほら、これで君も幸せでしょ?
現実では、どうせ叶わないんだから、ここで幸せになろうよ。
……ね?
「出来上がり!! 弥美ちゃんの幸せ! さぁ、ゆっくりしてってよ!」
幸はにっこり笑う。これが……私の望んだ幸せ……なのかな……?
私はそっと、家の玄関を開ける。
「あ、弥美! おかえりなさい!!」
……お母さんだ。私の……大好きな……お母さん……。
「おぉ、弥美! おかえり!!」
あぁ……お父さんもいる。これだ……これが私の幸せ。家族がいる……。
「ただいま……!!」
私はお母さんとお父さんを抱き締める。あぁ…温かい…。
「弥美、御飯出来てるわよ。手洗ってうがいしたら、食べなさい」
「うん」
そう言って、私はキッチンに向かい、手を洗い、うがいをする。
タオルで口を拭きながら、私は思った。……あぁ、あの日以来の日常だ。戻れるんだ……。あの日々に。
「なら、戻っちゃう?」
リビングに戻ろうとした時、ふと幸が現れた。にこにこと、でも何処か、裏を感じるような……そんな笑顔だった。
「ここは夢ノ世界。目が覚めると、この世界は消えてしまう。だけどね、やっぱりこの世界を抜けたくないって人は大勢、いるんだ。そこで!! 僕は考えたんだ。夢ノ世界をずっと楽しみたい人のために、この世界の住民になるかならないか、選択出来ることにしようってね」
「……!!」
この世界の住民になる……つまり、この幸せがずっと続く……ということだよね……。だとしたら、凄く素敵……。苦しまずに済むんだ。また家族と一緒に生きていけるんだ……!!
「どうする? この世界に留まる?」
実際、現実に戻ったところで、地獄しかない。自殺するだけ。生きていたって仕方がない。それならば、ずっとこの夢ノ世界で幸せに過ごせたら……どれほどいいものか。だけど、これはあくまで夢。夢ノ世界に留まる……ことも夢かもしれない。……どっちでも同じじゃないのか……?
「んん? 迷ってる? 弥美ちゃん。まぁ選択は君に任せるけど、僕から一言、言わせてもらうと……世の中、生きていたって、何もない。現実に戻ると、幸せな気分になる。そう言ったよね。だけど、それは一時的な物。すぐにその幸せ以上の不幸がやってくるんだ。それで掻き消される……。それぐらいなら、ずっと幸せの方が、楽だし、君も幸せがずっと続いて、一石二鳥でしょ? ……そういうこと、だよ」
そうだよね……。生きていたって、良いことは何も起きないし、寧ろ悪いことばかり起きる世界なんだ。現実という世界は。だけど、夢ノ世界はずっと幸せで、幸せに死んでいく。あぁ……何て素晴らしいんだろう。
「……決めた。私、夢ノ世界に留まることにするよ」
そう言うと、幸はにこっと笑って
「嬉しいな! この世界に来る、ほとんどの人は、現実に帰っちゃうから……凄く寂しかったの。じゃあ、この世界の住民になるために、いくつか手続きが必要なんだけど、いいかな?」
幸はそう言うと、私の前に手をかざす。
「……?」
すると、あっという間に、場所が移動した。あれ、さっきまで、私の家にいたのに……。
「改めて……夢ノ世界へようこそ! この世界の住民になるには、手続きが必要なんだ。でも、凄く簡単なことだから、そう身構えなくてもいいよ」
幸の話は、半分聞いて、半分聞いていなかった。だって、私の前には……
現実の世界……寝ている私が映っているのだから。
「手続き……それはね、現実の君を、この世界に連れてくること、なんだ」
「……現実の……私……? でも、私は此処にいるのに……」
「あぁ……そうだね。君にとっての現実は此処だもんね。説明、長くなるけど、聞く?」
説明を聞くのは、面倒臭いけど、聞かないと納得いかないし……。
「……うん。聞かせて」
「うん、分かった! えっとね……今、此処にいる君はね、魂なんだよ。それで、あそこにいる君は、体なんだよ」
「……? どういうこと……?」
「簡潔に言うと、この世界の住民になるには、魂である君だけじゃ駄目なんだよ。魂と体が、この世界に来て、初めて手続き完了し、この世界の住民になれるんだよ。今のまま、手続きするとね……君の存在が不安定になって、最悪の場合、現実世界の君も、この世界にいる君も、消えてなくなってしまうんだ。そして、今の君も、少し不安定になりつつある……。ほら、見てごらん。弥美ちゃんの存在が揺れ始めてる……」
幸に言われ、私はとりあえず、手を見てみる。……幸の言う通りだった。手が揺れていて、一瞬砂嵐にもなる。それは手だけでなく、足も体もそうだった。……このままだと、私という存在が消え、現実にも夢ノ世界にも、いられなくなる。これこそ、完全の死だろう……。
「考えてる時間はないよ。どんどん、不安定になってる……。早く決断しないと……」
幸は私を急かせる。……現実の世界にいる、私の体をこちらに呼ばないと、正式には夢ノ世界の住民になれない……幸せになれない……。そして消えるんだ……。そんなの嫌だ……。あの幸せな時に戻りたい……!! それならば、迷っていられない……!!
「……私、此処に住みたい。ずっと、幸せでいたいから……。だから、現実の世界にある、私の体……この世界に呼び寄せて……!!」
夢ノ世界。それが、この世界の名前。
夢を見ると、必ず行き着く世界なんだ。
此処に来る人は、貴重な御客様であり、貴重な住民候補だから。
だから僕は、丁重に扱って、気に入ってもらえるよう……此処の住民になってもらえるよう……努力するんだ。
此処は、まだまだ住民が少ない。寂しい。
だから。
現実の世界の人間を。
夢ノ世界に。
招いて、此処の住民になってもらうんだ。
どう? いい計画でしょ?
人々は幸せを味わえるし、僕は寂しくなくなるし。
一石二鳥……でしょ?
……ふふふ、さぁ、次はどんな人が来るのかな?
夢の番人に邪魔されないようにしなきゃ。ふふふ。
御待たせ!
楽しんでくれたかな?
……ん? どうしたんだい? そんな顔して……。
何か怖いことあったかな?
……じゃあ、君も……。
夢ノ世界、来ないかい?