~怖い悪夢~
“悪夢よ、この者に最高の悪夢を齎せ!!„
“一生忘れない…最高価値で、この者に合う…悪夢を……!!„
“この俺……夢の番人の名をもって……!!„
夢を見た。
私が何か悪いことをして、それで……追いかけられる夢。追いかけられて、疲れて、しゃがんでいると、見つかって、捕まって私を拷問される……。……そんな夢だった。
「はぁ……追いかけられて…捕まって…拷問される夢……。こんな夢ばかり……やだよ……」
私は溜め息を吐く。一回ならまだしも、何回も見るとさすがに気が滅入る。
まぁ……悪夢を見る原因は分かってる。
……粛正のためだ。
夢で何か悪いことをした……と言ったけど、現実でも悪いことをした。犯罪という悪いこと。
だから私は……ずっと反省して……後悔して……苦しんで……の人生を送って来たのに……最近はこんな夢ばかり見る。
私が犯した罪……それは両親殺し。
親が言うに、私は二重人格者で、もう一人の私は凶暴で怒らせると何をするか分からないらしい。
そしてもう一人の私が両親を殺したのだ。それはもう無意識に。体が勝手に動いた。
気付いた時には父も母も死んでいた。
暗い暗い部屋に血の臭い。二人の死体。無惨に切り刻まれた体。大量の赤。流れていた。体のあちこちから。血だまり。血の海。鉄の臭い。
私の手には赤黒く染まった包丁。包丁からポトポトと赤が零れ落ちる。溜まっていく赤。
私は立ち尽くしていた。ただ立ち尽くすしか出来なかった。言葉も何も出なかった。
だって…………。
愛しい二人が赤く染まった状態で転がっているのだから。残酷に。
「……自首しよ……」
だけど、私は馬鹿みたいに冷静だった。遺体を隠すことなく、電話に向かった。
警察に通報し、逮捕された。色々聞かれた。起訴され、裁判も開かれた。
それから5年経って、私は署から出ることが出来た。
そして悪夢は始まった。
追いかけられる夢。警察に怒鳴られる夢。周りから陰口言われる夢。
こんな夢ばかりだった。
「……私、死んだ方がいいのかな……?」
こう思い始めて、どれくらい経つだろうか。
苦しむぐらいなら、さっさと死んで楽になりたい。死んだらきっと……この胸の痛みも……なくなる。
どうやって死のうか……。溺死……。ショック死……。失血死……。窒息死……。生き埋め……。凍死……。苦しいのは嫌。せめて楽なのがいい……。
私はそっと起き上がる。
私の部屋だ。壁には批判の紙がズラリと貼ってある。
誰も二重人格だと信じなかった。それもそうだ。両親を殺してから、もう一人の私は満足したのか、現れなくなったのだ。
「…………」
机にはこの前食べたインスタントラーメンがそのまま放置されていた。私はこの部屋から出たくないと、食べた後、片付けずに、そのままベッドにダイブしたことを思い出す。
……部屋を出ただけで批判されそうで怖かった。
本棚には様々なジャンルの本があった。漫画や小説・ずっと行ってない学校の教科書・精神についての本・二重人格についての本・精神科病院の案内本……。
両親に二重人格だと言われてから、読んでいた本だった。
精神についての本や、精神科病院の案内本は、両親が私のためにと、買って来てくれたり、貰って来てくれたりした物だ。
「……何回も読んだけど……結局、何もならなかったし……両親……殺しちゃったし……」
だんだん眠気がしてきた。一眠りしてから自殺しようと思い、私は再びベッドに寝転び、目を閉じる。
……まぁ、どうせ悪夢しか見なくて、絶望するんだろうけど……。