幕間 彼女たちの夜-2
「呼ぶ?」
きょとんとした少女に、彼女は苛立たしげに腕を組んだ。当たり前でしょ、と言わんばかりに、その肘の上で人差し指が跳ねている。
「せっかく知り合いになったのに、どう呼んでいいのか分からないじゃない」
「……会長でも、神名でも、好きにせよ」
「だからぁ」
彼女の声が大きくなった。
「会長じゃややこしいでしょ。神名? ってそれ、ほんとの名前なわけ? 仰々しいな」
「仰々しい……?」
少女は開いた口を閉じられなかった。協会の権力たる彼女に、こんな口を利く相手は長らくなかったのだ。
「下の名前は? ニックネームとかないの」
「お主、妾を年下と勘違いしておらぬか……?」
「何十歳だかって言われたってピンと来ないよ」
変な顔で見つめてくる彼女に気圧されて、杏佳を振り仰ぐ。頼れる部下の顔はしかし、少女と同じように固まっていた。
「お主、実は友だち多いじゃろ?」
「何だその失礼な言い方?」
不満げな答えにようやく少し笑って、少女は肩の力を抜いた。
あぁ、何年ぶりか、と頬を緩めて。
「神名春姫」
「春姫ね。何だかんだあるけど、まぁよろしく」
迷いなく呼び捨てる彼女の遠慮なさに、すこしだけ安らぎをおぼえた。




