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異能協会×ワールドプレット  作者: 来栖 稚
異能協会の問題児
15/42

幕間 雨

 ある夜、少年は悪魔と契約した。


「それはすなわち、妾に魂を売り渡すに等しいぞ。良いのか?」

 金の瞳の悪魔は言った。外では雨が降っていたが、薄暗く窓もないこの部屋には、ざあざあ騒いでいるはずの雨脚は全く届かない。

 いい、と短く答えた。問いかけの意味がなかった。元より少年には、このほかに取りうる選択肢が残されていなかったのだから。

 悪魔はひどく人間じみた仕草でふうっと息を吐き、憐れむように少年を見下ろした。それから束の間の虚ろな静寂を経て、幾つかの問いを少年にかけた。少年は時おり言葉をとめつつも、その全てに最低限の言葉を返す。

 悪魔が再び考える間、上の空で少年は待っていた。次なる声が何であれ、彼にはもうどうだってよかった。

「……良かろう」

 そして、悪魔はささやいた。

「契約を成そう。それがお主にも妾にも益となるようじゃ」

 少年はくたびれた口の端を上げた。益になんかならない。自分は――今までそれなりに生きてきたつもりだった自分という人間に、一つの別れを告げるのだ。


「汝が名を、我が庇護のもとに置く。代価として、その身とその知を供物に捧げよ」

「当面の身の安全はこの名が保障しよう――じゃが、いずれ時が来れば、妾はお主を最大限に利用するぞ。そこにお主の意思はない」

「今や、お主という存在は我が所有物と相成ったも同じ。――どうじゃ、不満はないか?」


「ないよ」

「あんたがしたいようにすればいい。……利用でも何でも」


 ふん、と少女は笑った。

 それがあんまり哀しそうだったので、あぁもしかすると悪魔じゃなくて人間なのかもしれないな、と彼はぼんやり思った。

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