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花守の魔法使い  作者: 夏目璃子
第1章
7/8

力と代償

 学園へと急ぐ馬車の中で、レンカは手に負った傷をずっと見つめていた。

 アルヴィスもまた、その手を握ったまま暗い表情を浮かべている。

 小さな傷だというのにどんなに止血をしても止まらない細く白い手は、ただの切り傷であれば雑作もない事だが、()のあるもので負った傷はそれ相応の念が込められており、容赦なく受けた者を蝕んでいる。


「・・・・・・」


 何も言わず何度も手当てを続けるアルヴィスに、レンカは痺れを切らし口を開いた。


「いい加減手を離せ。無闇に魔法を使うとお前も呪いを・・・・」

「俺は構わないよ、レンカがよくなるなら呪いなんて」

「別に・・・これくらいの傷何とも・・・・」

「何とも無いわけがないだろ」

「魔力じゃないからお前には無理だ」

「それは解ってるけど・・・・」

「―――――どの生物も蓄えようと新たな器を見つけては力を形に変え奪う。人間もそう変わらない・・・・あの男が二人に触れても何ともないのは魔力を持っているかいないかの違いだ、命拾いしたな」

「良くないよ!他人事みたいに言わないで、君も傷を負ってるんだ」

「だからこれくらい平気だと言ってる・・・何故お前が怒ってるんだ?いいから手を離せ―――――今は二人の事に集中しろ」


『何でって・・・・』


 何故アルヴィスが怒っているのかレンカには本当に分からないらしい。

 この想いを打ち明けたいというもどかしい感情がまた胸を締め付ける。

 言ってしまえば楽になるが、彼女はその事を考えなければならなくなる―――――――――。

 緊急事態の中、アルヴィスは彼女を混乱させる為に傍に居るのではないと必死に想いを打ち消した。


「―――――二人を襲った人物はやっぱり君を狙っていると考えた方がいいのかな・・・・」

「・・・・案外私でなくお前かもしれないな」

「それは・・・・・・」


 どんなにそうだったら良いかと何度望んだか露知れず、レンカは続けざまに答える。


「回りくどい事をせず、狙うなら正面から来ればいい」

「レンカが言うと本当に来そうで怖いからやめてほしいな・・・・」


 苦笑を浮かべ冗談めかしに言うアルヴィスを見て、レンカはどこか安堵したような吐息を漏らした。

 アルヴィスはその時の彼女の表情が酷く儚げに見えた。

 何もかもを受け入れ諦めにも似たその表情を、場違いにも愛しいと感じてしまうのはきっと自分だけだろう―――――――。


 ***


 事を荒立てぬよう隠れるようにして急いで学園の裏門から戻ってみれば、校舎の入り口には相変わらず寡黙なナギと、突然な事に慌てふためいている救護班が数人待機していた。

 どうやらアルヴィスが前もって知らせていたらしい。

 少しだけ理事長として彼の行動力の速さに関心しつつ、眠ったままの二人が治療部屋へと運ばれて行くその様を、離れた場所からレンカは一人立ちつくし見つめていた。

 校舎の一角に設けられている広々とした医療施設は、魔法薬学を学ぶ施設でもあった。

 扉を開け中へ入ると様々な薬品の香りが空気上に広まっている。

 そんな中、徐々に弱っていく二人を病室のベッドへと寝かせ、すぐさま容体を魔法薬学に長けた数人の専門医師が慎重に診察していく。

 アルヴィスがジェイドと共に傍で見守る中、一通り診察を終えると、医師は暗い面持ちでレンカや町医者と同様同じ事を告げた。

 救う手立てが無いと悔やまれる中、アルヴィスだけは諦めてはいない。

 それは花守も同じだとふと振り向けば、傍に居ると思っていたレンカの姿がいつの間にか無い事に気付き、辺りを見渡し建物の入り口で森の方をただぼんやりと見つめている姿を見つけそっと近寄っていく。


「レンカ――――――――」


 近づくにつれ、はっきりと見えてくる彼女の表情を見てアルヴィスはその場に立ち止まった。

 レンカの目は森を映しているはずなのに、そこに感情等は無く、ただ酷く打ち拉がれていた。


「森に帰りたいと思ってる―――――?」

「・・・・・・」


 急に声を掛けて来たアルヴィスに一瞬驚き、咄嗟にレンカは顔を伏せた。

 言われた言葉に、レンカは心の中を覗かれたような気がし鼓動が逸る。


「例え戻っても、何も無かった事には出来ない・・・・」

「そんな事解ってる―――――でも、ここにいてもどこに居たって同じだ。また見て見ぬふりをして逃げてる。それでもお前は・・・まだ私を花守だと言い続けるのか・・・・・・?」

「レンカ聞いて――――――」


 本当にそう呼べるのかと問われ、そんな事当たり前だと即答したかったが、それはレンカの声によって遮られた。


「自ら撒いた種がっ・・・こんなにも狂わせるものだとは思わなかった」


 俯いたまま声を震わせ呟く彼女にアルヴィスはやり場の無い憤りさえ感じ始めていた。


「お前は最初から分かっていたはずだ・・・犠牲を払えばまた均衡は保たれる。最初から此処へ来る前に私が――――――」

「君は花守だ、レンカ―――――!」


 それは花守としての彼女にではなく、レンカ自身に対しての感情だった。

 あまりにも気持ちを抑えきれず、気付いた時には後ろから彼女を抱きしめそう叫んでいた。


「・・・・・っ!?」

「否定して・・・これ以上自分を卑下するのも大概にするんだ」

「じゃあ、どうすればよかったんだっ・・・・花はもう――――――――」

「前に言ったはずだ、俺も一緒に考えるって・・・あの時君は頷いてはくれなかったけど話しだけは聞いてくれたよね―――――怖いのもよく解る。でもそれはレンカだけじゃない・・・・頼むから自分を犠牲にとか俺の前で言わないでほしい――――――お願いだ」


 険しさを含んだ振り絞るような声音で、アルヴィスは力強く抱きしめたままそう訴えた。

 レンカはあまりの力の強さに身動ぎし怪訝な顔を浮かばせたが、すぐに彼が震えている事に気付き驚いた。


「っ!?・・・・お前」

「お願いだ―――――――」


 再度同じ言葉を呟き、レンカの声を遮ってまでアルヴィスは訴え続けてくる。

 その想いが伝わったのかレンカはそれ以上抵抗せず身体の力を抜き小さく応えた。


「―――――――二人を助けたい・・・でも一人では無理だ」

「うん・・・俺を頼ってレンカ」


 どこかぎこちなくしどろもどろなレンカの応えにアルヴィスは安心し、もう一度強く抱きしめたい衝動をぐっと堪える。

 助けると言ってくれた時嬉しく思った反面、アルヴィスの心は晴れやかではなかった。

 助けるという事は、彼女が何らかの犠牲を伴うという事実をアルヴィスは知っているからだ。

 感情を抑え平常心を保とうとするが正直気が気ではない。

 ようやく彼女と出会えたのに失ってしまうかもしれないという恐怖が脳内をずっと駆け巡っている。

 レンカが助けると言った事を受け入れ、全力で守ると決めたアルヴィスは、医者達にもレンカとの事を話した。

 驚きと恐怖を隠しきれない医師は興奮気味に救う方法などないのにどうやって助けるのかと混乱している。


「いくら花守でも医者でもないのにどう救うというのです!?」

「それは彼女にしか解らない事だけど、私に免じて言う通りにしてくれないか」

「し、しかし・・・・彼女が本当に」


 今回の事件で、花守の存在は全体に知れ渡っているようで、噂の事も知っているためなかなか頷いてはくれなかった。

 俄かには信じられないという医師達に対し、それでもアルヴィスが必死に説得を続けようとした時、背後にいたレンカが口を開いた。


「――――――――二人を水に浮かべられる広い場所は無いか?」

「み、水・・・?」


 噂の花守に突然話し掛けられ、怯えながら訝しげに聞き返す医師達に代わってアルヴィスが応える。

 傷付いた二人の時間は刻々と迫っているらしく、レンカの表情は焦りを見せていた。


「水なら空中庭園に人口の貯水池が・・・それか寮の大浴場ぐらいしか・・・」

「寮は生徒達がいるから危険です理事長」

「そうだね――――」

「水さえあれば貯水池で構わない、早く二人をそこに――――」


 一体何をするのかと皆不安に思いつつ、皆それに従った。

 温室となっている空中庭園では、魔法の力とかつて森から流れ出ていた綺麗な水によって薬草や美しい花々が咲き、この場所だけ時が止まったように澄んだ空気を纏っていた。

 かつては狭間の森も似たようなものを纏う場所であったため、レンカは少し庭園に足を踏み入れるのを躊躇った。

 先に透明な水が張った大きな貯水池に二人が移され、アルヴィスとナギ、ジェイド、医師達が見守る中レンカは深く深呼吸をすると庭園へと足を踏み入れた。

 もう一つ医師に頼んで準備されていた真新しい大量の包帯を、レンカは両手に数本持ち構え大きく弧を描くようにして池に放った。

 彼女の力なのだろうか、白い包帯は浮かぶ二人の周りを囲うようにし繭の中に居るような形で不自然に浮いている。

 見ている者を驚かせ慎重に行動するレンカは、期待を寄せる者達の視線を感じつつ小さく深呼吸をした。

 二人を救うといった際、レンカはアルヴィスに約束した事がある。

 それは何があっても絶対に邪魔をしない事だった。

 それだけ集中しなければ二人を救う事が出来ないからで、一番守ってやりたいがそれは彼女自身によって阻まれている。

 悔しさを押し殺したままアルヴィスが見守っていると、やがて皆に下がるようレンカは促した。

 見ていた者達が貯水池から離れたのを黙認すると人口の池を囲う縁に立ち水に浮く二人に向かって音にならない声で呪文のようなものを唱え始めた。

 謳っている様にも聞こえる彼女の声は小さいが玲瓏な響きでありとても美しい。

 密室な空間の中、時折風が生まれレンカの髪や服の裾を揺らし始め次第に強くなっていく。

 見ていた者達も顔の前に手を翳し強まっていく風圧に耐えながら目だけは逸らさなかった。

 連なる言葉に呼応するように、水が二人の周りに円を描き渦状し始める。

 それを合図にレンカが包帯の端を持ったまま二人に向かって手を伸ばした時だった。

 二人の体にはまた痣の様なものが浮かびはじめ突如形を変え我々目がけて何本もの黒い針が雨の様に降りかかって来た。

 アルヴィスは素早くレンカ以外の周りに強い結界を張りそれらを(かわ)すとすぐにレンカの方へ振り返った。

 目の前には、体中を覆うように刺さっている植物の棘によって受けた傷を気にする事無く言葉の羅列を唱え続けるレンカと、二人の体が水面上から宙に浮かんでいる光景に皆驚いた。

 彼女から流れている血なのか、痣と同じ力で黒く染まったモノなのか、おそらく両方が入り混じっているであろう傷だらけの手ですかさず大量の包帯を強い力を使ってそれ以上浮かないよう巧みに体を縛り上げていく。

 幾度となく花を守って来た花守の圧倒的な力は歴然としていた――――――。

 周りが唖然としている中、縛られた二人の体は素肌が見えない程に濃い痣に隠され包帯をも黒く染めていく。  

 レンカはその黒いモノに少し顔を歪めたが、自らの魔力を二人に送り込む事で浄化し、手に持っている包帯の先が真っ黒に染まりあげると、どういう仕組みか次々と朽ちては水の中に溶け落ちていった。

 共に彼女の身体も朽ちてしまうのではと心配するアルヴィスは、体中に刺さっている痛々しい植物の棘を見て心が痛んだ。

 暫くの間黒くなっては朽ちていくの繰り返しで、レンカの体を傷付けていた棘もやがて淡い光の粒子となり消えて行った。

 水に浮く二人の体からはすっかり痣が消え白く人形の様だった肌は元の色へと戻っていた。

 それを確認したレンカはほっとし力が抜けたのか身体をふらつかせそのまま池の中へと崩れ落ちた。


「レンカっ!」

「お、終わったのか――――――!?」


 警戒しながら駆け寄ってくる医師達に素早く眠っている二人を救護室へ運ぶよう指示すると、自身が濡れる事にも躊躇する事無く、大きく水しぶきを上げそのまま池に沈んでしまったレンカを慌ててアルヴィスは引き上げた。


「レンカっ・・・レンカ、しっかりするんだ」


 膝を付きレンカの体を片腕で支えると空いているもう片方の手で塗れている頬を軽く叩き生存の有無を確認する。

 すぐに苦し気に歪めた表情を見せたため、アルヴィスはほっと胸を撫で下ろした。

 意識はあり気絶しているだけのようで、今度は目を閉じたままのレンカに呼びかけながら軽く背中を叩いてやると新鮮な空気を取り入れようと飲み込んでいた水を吐き出し苦し気に咳き込んだ。

 肩を上下に息をしているレンカを見てアルヴィスは強く彼女を抱きしめた。


「ありがとう・・・・」


 レンカとアルヴィスだけとなった空中庭園は先程までと打って変わって静かだった。

 庭園の池の中で、アルヴィスは眠るレンカに静かに呟くと、彼女を横抱きに抱え向かった先は救護室ではなく自室へと向かっていた。

 その途中で、レンカは目を覚ました。

 ゆらゆらと暖かいものに抱かれおぼろげな眼差しを彷徨わせる。

 次第にはっきりとする意識の中、アルヴィスの哀し気な表情が真上から注がれておりレンカの身体は一気に強張った。

 ゆらゆらと暖かいものの正体がアルヴィスの腕の中だという事実に酷く困惑している。

 腕の中で暴れたせいか傷口が何かに当たり自分が負傷している事をレンカは思い出した。

 服に血が滲んで行く様を見てそっと傷口を押さえたレンカを抱えアルヴィスは回廊を進みながら静かに答えた。


「動かないで・・・これぐらいはさせてくれ、お願いだ・・・・・・」


 何処か様子がおかしい。

 そう感じたのは今回の事だけではないが、レンカだけが感じている違和感があった。

 それが何かは未だに解らないでいる。

 アルヴィスが必死になってその何かを隠しているからだ。

 彼への違和感も、己を責めるような哀しい顔をさせている事も、レンカには理解出来ない。

 そんな自分に対して苛立ちは増していくばかりで、ただ虚無感だけが彼女の心に芽生えていった。

 レンカはおとなしくアルヴィスに抱えられなすがままとなっていた。

 その間アルヴィスはだんまりを決め自室へと向かって行く。

 彼の表情を見るかぎり怒りや悔しさといった感情が浮かんでいるのは見て解るが、そうさせている理由が解らず小さく反発の声を漏らした。


「いきなり何なんだ、お前・・・・」


 くぐもったような小さな声で、はっきりとした口調では言っていないのに、アルヴィスの耳には聞こえていたのか、レンカの言葉に応えるように話し始めた。


「レンカはさっき・・・・自ら撒いた種って言ったよね・・・それはあの植物と花守としての役目を果たせなかった事を掛けてるのかな?」


 静かに問い掛けながら辿り着いた理事長室の扉の前でレンカを下す。

 先程から様子のおかしいアルヴィスに急に恐怖を感じ、レンカは手当も受けずにその場を去ろうとしたが、アルヴィスは透かさず彼女の腕を取り逃がさなかった。

 扉を開けレンカを中へと引き込むと、アルヴィスはそのままバランスを崩し自分の方へと倒れ込むレンカを抱きしめた。


「離せっ・・・・・」

「離さない・・・。別に攻めてる訳じゃないよ・・・レンカが悪いなんて誰も言わないって言っただろう。今回の事も、花の事だって誰も予想し得ない出来事だったんだ・・・君は現に必死になって元に戻そうとしてるじゃないか。その代償がこれだ」


 抱き寄せていたレンカを開放したかと思えば、徐に彼女の服の袖を捲り上げた。

 咄嗟な事に反応出来ずされるがままに露わになった細い腕を見てアルヴィスは絶句した。


「・・・・・・」

「こんなになるまで・・・・・」


 彼女は隠し通せているとでも思っていたのであろう。

 目を逸らし明らかにレンカは狼狽えていた。


「上手く隠しているつもりだった?その傷は今出来たものだけじゃないよね・・・・」


 彼女の傷に気が付いていたのは森で出会った当時からだった。

  気付いた時点で、何も出来なかった。しなかった―――――。

 まじまじと見つめると、長い袖で隠されていた彼女の腕には擦過傷だけではなく、(おびただ)しいほどの裂傷の数があった。


「一人で背負い込もうとしないでくれ・・・。俺がレンカの助けになるからって言ったはずなのに・・・・」


 以前からあった傷もあるが、レンカに向けての言葉なのか自分に言い聞かせているのか、彼は青ざめた顔で尚も訴え続けていた。

 それでもレンカは首を横に振りアルヴィスを否定する。


「これは、何もかも背負い込まなければ、自分の存在意義が解らなくなりそうだからだ・・・・この傷はその代償だ・・・他人を巻き込んだ戒め。お前が気に病む理由がどこにあるっ、どうしてお前がそんな顔をする・・・・」


 アルは驚いていた。今まで誰とも関わってこなかったためか、彼女の思考は常に孤独の中で考え、成り立ち、生きている存在理由の一つとなっていた。


「レンカ・・・君は」


 言い掛けたが何も言い返せなかった。

 孤独とはそんな思考をしてしまうのかと。

 アルヴィスは傷ついたレンカの腕にそっと触れようとして一度躊躇ってしまった―――――。

 負っている傷や見えない心の傷は、全て自分にもあるからだ。

 それでも今だけはとアルヴィスはレンカの手を取り甲に優しく口づけた。


「なっ・・・!?」

「気に病むどころか死にそうなぐらい狼狽≪ろうばい≫してる・・・・」


 誰がどう見ても狼狽しているのはレンカだった。

 それでもアルヴィスは彼女の手を握ったまま膝をつき真剣な眼差しでレンカを見つめ宣言する。

 その光景は忠誠を誓う騎士さながらであり、容姿が良いため様になっている。


「次に傷をつけたら手以外にもするからね・・・」


 膠着状態の中、これ以上何をするのかと彼の行動が頭を過ったのか、レンカは顔と耳を真っ赤に染めながら手当ても受けず脱兎の如くアルヴィスから逃げるように部屋を去ってしまった。

 我ながら大人気ない行動だが、そうでもしなければ彼女を止められないと思ったからだ。

 花守を守る者として存在しているのに傍にいる事しか出来なかった自分が溜まらなく悔しくアルヴィスは思い詰めていた。

 アルヴィスは深いため息を吐きレンカの手に触れた手を自らの唇にそっと押し当て目を閉じる。


「・・・・・上手くいかないものだな」


 静まり返った部屋でぽつりとアルヴィスは嘆いた。

 やはり誰かの代わりは出来ない。

 それは紛れもなく事実で、理解はしている。

 それ以上に、動揺してしまった自分が許せなかった。

 傷を負った彼女を前にし事実を思い知らされ、いずれ全てがそうなるのかと恐怖さえ感じた。

 自分の心がこんなにも弱いものだったのかと薄暗い部屋の中独り佇み、小窓から見える森を遠目に自嘲めいた笑みを浮かべるとアルヴィスは酷く落胆した――――――――。


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