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僕と茜の日記

作者:

 二月一日(日)

 今日からこの日記を付けていこうと思う。というのも、愛しの彼女との再会を果たした日だからだ。今の僕の興奮は筆舌に尽くしがたい。それでもどうにか表現するなら、口に唐辛子を詰め、鼻からタバスコを流しこんだときの悶絶ぶりと同等だ。

 唐突だが、僕の彼女の紹介をしておこうかな。彼女は――魔法を、使うんだ。

 いやほんと、恋愛バカだって言われても構わないけどさ、僕は彼女に恋の魔法にかけられたんじゃないかと思うんだ。この気持ちは、魔法じゃないと説明がつかない。彼女の声を聞くだけで全身にアドレナリンが行き渡るのを感じる。眠いとぼやいていた朝の自分が嘘であるかのように、元気百倍の体になるのだ。彼女の魔法は恐ろしく愛おしい。

 一年ぶりに再会した彼女のあれこれを綴りたいけど、今日はその喜びを噛み締めるだけで一日が終わりそうだ。


 三月八日(日)

 日記をつける癖は意識しないとつきそうにない。

 改めて彼女のことを書こうと思う。彼女の名前は望月茜。僕と同じ高校二年生で、おしゃれにも気を遣う素直で優しい女の子だ。彼女の周りの大人の事情があったらしく、ここ一年は高校を休学していた。でも、彼女はようやく戻ってきたのだ!

 本当に悲しいことに僕と彼女の高校は別だ。彼女の高校に転入したいけれど、それは叶わない。でも、そんな僕にも彼女は優しい笑顔を浮かべてくれるし……その、「大好き」って言ってくれることもあるんだ。

 彼女との馴れ初めはまた今度記したいと思う。

 夏ごろには、デートもしたいな。


 五月三日(日)

 梅雨はじめじめして嫌いだ。ただでさえ学校に行きたくないのに、さらに行きたくなくなってしまう。あぁ、茜ちゃんの笑顔だけを見ていたい。なんで僕らはいつも一緒にいられないんだろう。

 でも、大丈夫だ。昨日、茜ちゃんは僕の部屋に来てくれた。一応昨日くる予定だったのは知っていたけれど、不意をつかれたタイミングだったから焦ってしまった。でも、出来る限り丁重にお迎えしたつもりだ。押入れの奥から座布団を引っ張り出してきて、お茶も用意して――緊張したけど、すごく嬉しかった。

 女の子と遊ぶのに、普段僕がやってるゲームをプレイしてもらったのはまずかったのかな?ほとんど操作できなかったみたいだけど、彼女は笑ってくれていた。もっと彼女を楽しませられるゲームを考えないと。でも、これで今後は彼女とデートできそうだ。

 そうだ、今日は彼女との馴れ初めを語っておこう。僕と彼女が出会ったのは、一年と少し前。僕が高校受験で親からうるさく言われていた頃だ。睡眠時間も削られて、本当自暴自棄になりそうだった。そんなときに、彼女に出会ったんだ。全くの偶然だった。徹夜明けで朦朧としていると、気づけば彼女が目の前にいた。俺は何をしてるんだろう、どこにいるんだろう――それすらもあやふやなまま、ただ彼女のまぶしい笑顔をじっと見ていた。時折おっちょこちょいな一面も見せ、そうかと思えばキリッと表情を引き締める。悪いことは許さず、いじめも見逃さない。そんな彼女に、僕はすぐに惹かれたんだ。


 七月十一日(土)

 今日は三十五回目のデートだった。できることなら毎日デートしたいのだけど、お金の問題もあって難しい。それに、デートプランを考えるのも回数を重ねるごとに難しくなってくるのだ。彼女は全然文句なんていわないけど、その優しさに甘えてはいられない。

 僕も、彼女が楽しむような魔法をかけてあげたい。

 茜、大好きだよ。ずっと離さない。


 八月三十日(日)

 茜が泣いていた。泣かせたやつが許せない。死ね。死ね。死ね。死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね。

 友達が慰めていたようだけど、今すぐ彼女の元に行ってあげられない自分が情けない。とにかく、何かしないと。何か、何か僕にできることを探さないと。

 母親がうるさい、死ね。今僕は忙しいんだ。

 僕が助けてあげるからね。待っててね。


 九月六日(日)

 僕がネット知識を総動員してあの手この手を使ったからか、茜を泣かせたやつはいなくなった。ネットを使って社会的に殺してやろうと思ってたけど、なかなか炎上しない。なんだあのクソネット民共が、使えない。

 でも、いいんだ。茜は笑顔だ。茜は傍にいてくれている。それだけでいいんだ。


 十一月十五日(日)

 今までもうるさかった親が一層僕に暴言をぶつけるようになってきた。学校にももう行かない。茜の傍にいたい。茜の笑顔が横にあるからそれでいい。ほかは何もいらないよ。

 愛してる。


 一月三日(日)

 茜。茜。茜。もっと笑顔を向けて欲しいんだ。いなくならないでほしいんだ。茜がいないと僕は死んでしまう。なんで今日は茜の声が聞けないんだ。となりで茜は笑っているけれど、なんで僕に語りかけてくれないんだ。あぁ、スマホはどこだ。茜の声が聞きたい。「大好き」あぁ、茜。もっと、もっとだよ。「大好き」「大好き」「大好き」「大好き「大好き「大好き「大好き大好き大好き大好き大好きもっともっともっと足りない、大好き、大好き。

 あああああああああああああああぁぁあぁぁああぁぁあぁーーーーーーーーーーっっっ。

 ブツッ。


 一月三十一日(日)

 茜がまたいなくなった。テレビに映るのは今までありがとうの文字だけだ。

 魔法少女マジカル茜の第二期が終了した。

 興奮したせいでスマホが壊れた。スマホアプリの茜ボイスが聞けない。

 寝ている間に親が茜のフィギュアをゴミに捨てた。


 茜が消えてゴミになったなら、僕も消えてゴミになろう。

 じゃ、今までありがとう。


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― 新着の感想 ―
[一言] そうきましたか……w ってなりました、面白く読めませていただきました^^
[良い点] 途中からストーカーの話かと思ったら落ちが…… 素晴らしい。面白かったと思います。 [気になる点] もう少し細かく書いても良かったかなと思いました。 [一言] 面白いっ! 普通の恋バナかと思…
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