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バイトで本腰



 遊に電話をかけたら、出なかった。

 で、放置してたら鬼電された。

 残しておいた留守電を聞いたようだ。

 気がついて、電話に出ると唐突に「いい加減にしてよ!」と、怒られた。逆ギレだと言ったら、「アンタはキレてないから逆ギレじゃない!」と言われた。なるほど、自分がキレる訳じゃないから逆切れと言うんじゃなくて、切れられてる対象がキレると逆切れになるのか。

 なんて事を考えていたせいだろう、後半、遊が本気で怒りだした。

「シラノの馬鹿、顔も見たくない!」

「え、マジ?それは辞めて」

 電話を切られた。


 うわー、なえる、めっちゃ萎える。


「誰に電話してたの?」

 背後から、ぬっと、佐藤が声をかける。

 ソフトクリームを買って戻って来たようだ。

 こうしてると、ぱっと見、カップルにしか見えないんじゃないかしらん?ふたりとも学生服だし。しかし佐藤、勉強ができる筈なのに、周囲に大人がいない時はフランクな話し方になる。

 僕が『ちくらない』と思ってるんだろうか、だろうなあ。

「妹」

 僕はそう言った。

「妹さんいるんだ。幾つ?」

「14」

「中学生だね」

「そ、反抗期、思春期」

 僕がそう言うと、佐藤は笑う。

「君も違うの?」

「これでも17なんだけど」

「…うそ、高校生?」

 酷い言い草だ。中卒のフリーターと思われていたらしい。

 まあ、違いないけど。現に一年、中学を出てから働いていた。

 今も「高校は出とけ、全日のだ」と社長の一声があったから通っているようなもんだ。

「二年?」

「一年」

 僕が言うと、佐藤は思いっきり笑った。

「ダブり?ちょっとまって、君、そんなにも馬鹿なの?」

「ちげーよ、一年働いてたんだっての。浪人生だったの」

 僕はそう言って、コーラを飲む。

 打ち解けはしてるのだろうが、ちょっと複雑な気分だ。今、僕らは業務の待機時間だ。すこし後にこの場所に悪の組織が現れる。ソレを追ってヒーローが参上する。

 で、僕らの仕事は、ヒーロー達の監視と、戦闘員の討ち漏らしの討伐である。

 楽な仕事だ、驚く程。

 夜間戦のように、ヒーロー様が見落とさないだろうし、日中だからギャラリーも多い。討ち漏らしは有り得ないだろう。しかしだ、万一という場合もある。

 僕は仕事道具を気にしながら、会話に戻る。

「働いてたって…これで?」

「そ」

「嘘でしょ?ねえ、本当のこと話して。Bメジャーも嘘じゃないの?だってその若さでないでしょ」

 佐藤は口早に言った。

 どうにも本当に嘘だと思ってる様子。

 無理からぬこっちゃね。だって、トッコーの生徒がこんな吹けば消えるの中小企業へインターン。

 でもって、OJTの相手が自分と年齢の大差なかったら思うだろね。

「本当だよ、ほれ」

 僕は、ポケットから原付免許と一緒に、特記兵器責任者証を出す。

「ほんとだ」

 彼女はマジマジと見た。

 だが何処か、不自然な感じを僕は受ける…気のせいか。

「でしょ」

 僕はそう言って、ポケットにソレらを戻すと、鞄からクラッチを取り出した。

 もう時間だ。それに、準備しておくにこした事は無い・

「ちょっと、早くない?」

 佐藤はそう言ったが、僕は頭を切り替える。

 黙ってと、手でジェスチャーを出すと、僕は椅子から立ち上がる。

 それと同時。

 


 時間きっかりに、ソイツはマンホールを突き破り出て来た。ぬらぬらと、下水に濡れた肌、虫の頭部に人の身体を合成した怪人。武装戦隊の宿敵、『鍵風車』の怪人で間違いない。

 バッタ怪人は周囲を見渡すと、口上を述べる。



「ヒャーーーーーーハァーーーーーーー、鍵風車が戦闘員、バッタモンサのお出ましだ!」

 周囲に動揺が走る。

 僕らは今、複合商業施設の屋外にいるのだが、その空気が凍る。いくらテレビで見ている、新聞で見ていると言っても、やっぱり体験するのは違うらしい。

 大人は固まるし、子供は露骨に泣いている。

「さーて、俺たちの計画の為に、来てもらおうかぁーーーー?!」

 バッタ男は、脇のポーチから、ネジを散蒔く。

 僕は見慣れたが、佐藤は硬直している。ネジが地面に刺さると同時、下級戦闘員が生み出される。

 僕はクラッチを握りつつ、佐藤に言う。

「行こう、移動だ」

「…っ、わかった」

 彼女と、怪人に背を向け走り出す。

 が、間の悪い事に、一体に目をつけられた。いや、まて、こんな事在るかと僕は思ったが、来るのだから仕方が無い。更にだ、ついてない事に、動きが速い。あっという間に、こっちへ肉薄する。

「…ッち」

 舌打ち。

 どうも、佐藤狙いらしい。

 僕は彼女を突き飛ばすように先に行かせると、敵に向き直る。戦闘員が飛びかかる。その瞬間に合わせ、僕は身体を半身引く。外側に身を入れ足を引っかける、そのまま手首をとり、外側に身体を反らせる。あとは、速度の問題だ。

 戦闘員はしたたかに地面に打ち付けられる。

 僕は、その頭を蹴り飛ばしてから、佐藤の元へと走った。

 僕が走り出すと、同時、反対側から五人の男女が駆けて来た。

 

 オセーよ、馬鹿ども。



「鍵風車、貴様の悪行は見過ごせねえな」

 レッド。

「楽しいひとときを壊して…!」

 ブルー。

「カップルだっていたのに」

 そりゃ、僕らの事かイエロー。

「その悪、見過ごせませんね」

 ブラック。

「みんなの為に!」

 ホワイト。


 でもって一列に整列、手には既に、『アラタ』か『ダイバン』のアーマーツールを握ってる。なんたらチェンジャーだか、んたらドライバーだった筈。

 名前は忘れた。

 興味も無い。

 彼らはそのまま、叫ぶ。


「「「「「チェンジソウルセット!アームマン!」」」」」


 起動と同時に、スーツが形成される。


「武装戦隊アームマン!」


――――いてえ。


 僕は、離れた箇所からその様子を眺めていた。

 ポケットからラークを取り出し、咥える。

「バッタモンサ、覚悟しろ!」

 アームレッドが言った所で、僕は煙草に火をつける。

 あー、ヤニが美味い。と思った瞬間、佐藤がキレた。

「ちょ、あんた何煙草…!」

「あー、まて、まってください。あれです、ストレスぱないじゃないですか?」

「仕事中でしょ?!」

 やれやれ、優等生はと僕は思いつつ、煙草を携帯灰皿に捨てる。

「オーケー、これでいいですか?」

「いいけど、ねえ」

 彼女は僕を見る。言いたいことは在るようだ。

「ポイ捨て辞めようよ」

 

 しねーよ。

 

 逆にこっちも言いたかった、アレくらい捌けと。

「…それと、さっき、あんた何したの?」

 彼女は僕の投げ飛ばしを聞いてきた。

「何って、投げです。合気道のパクリ」

「パクリって、アンタ、訓練とか受けなかったの?!」

「いや、ないですよ?」

 訓練?なんのことだろ。練習を除けば実践在るのみだったからな。

 トッコーにはそんなカリキュラムも在るのかと、僕は感心した。

「…うそでしょ?」

 露骨に、佐藤がおびえているのが分かった。

 なんでだろ、そんなに変な事か?

「本当です」

 それっきり、佐藤は黙った。せっかく話せるようになったのに、残念だ。

 僕は視線を武装戦隊と鍵風車の戦いに向ける。おーおーやってる、鍵風車の怪人を五人掛かりでボコッてる。回りを戦闘員がかこむが、火力で負けている。その内、珍しい事だけど、一体が迷い出た。

 そして路地へと向かう、はぐれ。

「…佐藤さん、行きます」

 僕は後ろの佐藤に声をかける。

 佐藤は「分かってる」と言って、僕の後ろをついて来た。



 戦闘員と一口に言っても種類が在る。

 例えば、今、武装戦隊と殴り合っている鍵風車の戦闘員はネジ式だ。逆に、銀河警部の下っ端だと種から生える。どちらも、地面に刺されば生えてくるなんて高性能なのに、怪人よりもコストが安いらしい。

 仕組み?それは知らない。

 クラッチの製造元に問い合わせれば教えてくれるのだろうが、知ってどうなる知識でもない。どうにも、戦闘員技術は守秘義務が固い。

 噂で聞いたが、何処かにはホムンクルスを使うリッチな組織もいるらしい。


 話題を戻す。


 僕は戦闘員を追う。

 いつも、この追う時は複雑な気分だ。

 彼らってさ、逃げているのか、それとも職務に忠実なのか。

 或は狂っているのか、まともなのか。

 僕はソレを考えるけど答えは出ない。なにせ何時も倒すから。やがて、奴は僕に気がついて振り返る。

 奴は戦闘行為に入ろうとするが、遅い。

 僕は鞄に手を突っ込むと、そのままクラッチを引っこ抜いた。

 

 結果は簡単。

「?!!」

 結局、彼——安物戦闘員は我が身に何が起きたか分からなかったろう。

 僕は、アラタ製白兵戦型クラッチ―ASS-PT-0052通称『デッキブラシ』でもって彼を上下半分に両断していた。彼は最後にもがこうとするが、それより先に、僕は彼の顔面の中心に刀身を突き立てる。

 手応えなんて無い。

「いっちょ上がり」

 僕は刀身をブンと振るった。

 この『デッキブラシ』は分類だと白兵型のポールタイプになる。

 クラッチは大きさでタイプ分けされており、ペン、バトン、ロッド、ポールの四段階と上記外に分類される。ペンがナイフ、ポールが槍クラスだと想像して欲しい。

 で、僕はチャンバラでのリーチを好んで、本来槍であるデッキブラシを剣として改造し扱っていた。リーチが長いと、何かと便利だから。閉所だと振れないけど、その時は『スクレーパー』に持ち替えるだけの話しだし。

 


「…終わったの?」

 ひょこっと、佐藤が顔を出す。

 トコトコと歩いて来て、僕のすぐ後ろで灰になる死体を見ていた。

「うん、終わりました」

 僕は、バックを拾いながら、彼女に返事を返す。

「今、組み立てる瞬間見えなかったけど、どうなってるの?」

 僕は、頬をかいた。

 タネは簡単だ。フレームとハンドルが擬似的に一体になっているから出来るだけ。人から見れば、強引な引き抜きだが、仕掛けはちゃんとある。フレームをマジックハンドの用に折り畳んでる事に加え、ハンドルも居合い抜きに加工してある為、そんな乱暴な起動でも折れないのだ。

「ま、慣れです」

 あと、裏の理由でだけど、クラッチを持ってないと一瞬錯覚させるためもある。

 武器無しに思わせる方が、闇討ちにはうってつけだし。

「さててった――」

 一瞬だけ、気を抜いた。が、殺気に気がつかない程の間ではなかった。 

 刹那、僕は強引に佐藤の肩を引っ張った。

「ちょ!」

 佐藤は文句をあげるが、仕方ない。殺気を感じ、ポインターを視認したからだ。

 見れば路地の入り口にアームブラックが立っていた。

 見られたか?

 僕はひやりとした。面倒だが、クラッチの廃棄も考える。我々は裏方。秘匿の為に、クラッチは―――どれほど高価でも――その場で破棄しても問題の無い設計になっている。技術屋曰く、破棄しても、復元は難しいそうだし。

「大丈夫ですか?」

 ブラックは、ポインターを外して僕らに言う。

 随分な対応だな。僕を狙ったのに。

「はい、大丈夫です」

 声を作って答える。

「戦闘員が来ませんでしたか、鍵風車の?」

「奥へ逃げましたよ」

 僕が言うと、ブラックはそのマスク越しでも分かる疑いの視線を向ける。…不味いな、疑われているか。怪人の人間体だと思われても面倒だ。僕が状況を打破しようとすると、背後で爆発が在った。

……どうやらバッタが爆破をしたらしい。

「すぐ戻ります」

 ブラックはそう言って、引き返す。

 僕はふいーと息をつきつつ、佐藤に言う。

「上がりましょうか、どうせ勝つでしょうし」

「ええ…」

 意外な程、佐藤は大人しい。

 そして、気のせいか僕に対して怯えが見える。ポインターに気がついたのがそんなに恐ろしかったのかな?

 なんでだろ?

 それよりもクラッチの目撃が在ったかもしれないので、僕はうんざりする始末書を考えながら、はやくバイトが終わる事を祈った。



つづきます

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