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ナナ章 終章宣誓(終わりは誓い)

——まだ、終わりじゃない。

——この完結で、やっと始まる。

——陣取りゲームは終わらない。

——終わりは近い

——終わりは誓い

——もう。逃れられない。

ナナ 



◼︎ ◼︎



 磯の香りがする。

 現在時刻は二十一時三十分丁度。僕が神代の家を出てから、実に一時間半が経過しようとしていた。

 誘拐犯はまだ来ない。

 おじさんの方もまだみたいだった。

 藪台曰く、周りに人の気配はない。それにしても……。

「おい、藪台。どうして取引場所がここだ、なんて分かったんだ?」

 現在地は郊外にある廃棄された港。数十年前は、ここも荷を降ろしたり、積み込んだりする船が溢れていたのかもしれないが、今はもう、その影はない。

 ここの港が廃棄されるにしたがって、使われていた倉庫も今では潮風を全身に浴び、ただ腐蝕されるのを待つばかりとなっていた。

 その行儀良く列になって立ち並んだ、倉庫と倉庫の合間に、僕たちは潜んでいた。

「あぁ。ここはさ、そういうヤバい取引するのによく使われる場所なの。幸せを運ぶ白い粉とか、魔法のキノコとか、あとは俺らが持ってる銃やらもそう。まぁ、そろそろ警察も気付くかもしんねぇから、次第に場所移って行ってるけど。郊外の港って言ったらここしかねぇよ」

 銃の点検をしながら藪台は答える。さっきまで、そこら辺にあった材料を何やら積み重ねていると思ったらどうやら射撃台のようだった。

 今、彼が持っている銃はM1903A4。俗に、スナイパーライフルなどと言われる物らしい。

「今夜は満月だな」

 夜なのに明るいことに気が付き、僕は誰ともなしにボヤく。

 倉庫間の距離はそこそこ開いており、僕と藪台の距離は遠い。

 藪台と違ってスナイパーライフルを扱うことの出来ない僕はグロックとベレッタの弾薬を補充してセーフティをかけて腰に吊っておいた。

 相手がもしも、何かしらの行動にでても、藪台がいるのでなんとかなるとは思うが、万が一に備えて僕は『無銘』を持って来ていた。

 もしかすると、使うかもしれないから。

 両者とも訪れないまま、時間だけが虚しく過ぎて行く。月に叢雲(むらくも)がかかっては、晴れ、かかっては、晴れを繰り返していた。

 何度目になるか。月に雲がかかった時、コツコツコツと靴がコンクリートを叩く音が聞こえてきた。

 それと一緒にやや小さめの足音も聞こえてくる。

 ナギだ! そう感じた。

 足音だけでなく、人影も見える位置にまで歩いてきた。距離にして二十メートル強と言ったところか。

 遠い上に雲が光を邪魔して暗いため、視認は出来ないが、あれは確実にナギだった。

 人影とナギは何やら話している様子だが、風の音のせいで聞き取ることは出来ない。

「マズイな……」

 藪台が僕にギリギリ聞こえる声でつぶやく。

「まずいってなにがだよ?」

 僕もそれにならい、小声で訊き返した。

「俺はスコープ付けてるからギリギリ見えるんだが、奴は上着のボタンを留めてない。それに左肩が不自然に下がってる。……あれじゃあ、いつでも懐から銃を取り出して発砲できる」

 それはマズイな。僕が『無銘』の準備をしようとすると、藪台はそれを手で制してきた。

「でも、おかしいな。奴からは殺気が感じられない。そりゃあ達人なら殺気を隠すことくらいはできる。けれど、俺に察知出来ない位までとなると話は別だ。そんなの殺す気がないとしか考えられない。仮に殺す気があったとして、俺にわからないなら、多分俺じゃあ勝てねぇよ。発砲しても無駄だ」

「つまりどう言うことだよ?」

 ナギの命がかかってるかもしれないんだぞ? 僕はイライラしながら問うた。

「多分、大丈夫。俺より強いやつなんて、いたら戦ってみたいもんだぜ」

 そうこうしているうちに、約束の刻限に迫ろうとしていた。

 ついに神代竜一郎氏が現れる。中に大量の札束が入っているであろうアタッシュケースを大量に携えていた。

「驚いたな……あの中全部金かよ……」

 藪台はほぅ、と嘆息する。

 こちらには気付かずに、おじさんは誘拐犯へと歩み寄る。

「約束だ。一人で来た。これが金だ。さぁ、娘を返せ!」

 おじさんはこちらにも聞こえるほど、大きな声でそう言う。

「……先に金だ。さぁ、渡せ」

 相手はこちらにギリギリ聞こえるか聞こえないか、その程度の声量で話す。

 おや? この声。この喋り方……何処かで聞いたことがある気がする。それもかなり身近で、だ。だがしかし、思い出せない。

 いや、思い過ごしだろう。きっと気のせいだ。

 おじさんは大人しくお金を相手の方に放った。いくつもの金属のケースが地面を滑る。

 僕の目は緊張と潮風のせいで干からびそうだった。風が強くなる。

「マズイな……狙撃する時に風は厄介だぞ」

 藪台が横で文句を垂れる。

 そんなこちらの状況とは関係なく、あちらはことが進んで行く。

 相手は金属のケースを足で止めると、ナギを解放した。

 彼女は少し誘拐犯の方を見つめると、おじさんの方へと駆け出した。

 誘拐犯はナギを離した手をそのまま上着へと差し入れると、拳銃のようなものを懐から取り出し、おじさんへと向けた。

 おじさんとナギは気付いていない——ッ!

「おい! 藪台!」

「わかってる! でも、あいつに殺気はないんだよ! どう言うことだ? 殺す気がない……?」

 藪台は釈然としないようにスコープを覗く。

「そんなこと言ってる場合か! 殺す気満々じゃないか!」

 堪らず、僕も『無銘』を構える。だがしかし、この距離、そしてこの風では絶対に当てることが出来ない!

 突如、月光が闇を切り裂く。

 月を隠していた雲が、風で流されたのだった。

 闇に隠れて見えなかった、誘拐犯の姿があらわになる。

「嘘……だろ…………?」

 僕はそいつを知っていた。

 でも、おかしい。そんなはずはない。あり得ない。

 何故なら彼は、もう死んでいる(・・・・・)から。

 他でもない、藪台尋に殺されたはずなのだから——!

 そいつは引き金を引こうとした。

「チィッ!」

 隣にいる藪台が舌打ちをしながら、それよりも早く……引き金を引いた。

「やめろぉぉぉぉぉォォォォ!」

 もう、間に合わない。頭ではそう理解している。でも身体が勝手に動いた。

 僕は物陰から飛び出すと、そいつへ向かって走り出した。



◼︎ ◼︎



 視線が僕に集まる。

 突風が吹いた。

 そいつが倒れた。駆け寄り、抱き起こす。良かった、風のおかげで急所の直撃は免れたのか、まだ息がある。

父さん(・・・)!」

 そう、それは死んだはずの、他でもない藪台尋に殺されたはずの、城森昭仁(しろもりあきひと)、僕の父さんその人だった。

 どうして気がつかなかったのだろう。あの声、あの仕草はどう見ても父さんじゃないか!

「……どうして、真琴がここに……い、るのかな……?」

 僕の父親は、いまにも消えそうな声で僕に語りかける。

 僕はそれを無視して、藪台に向かって吠える。

「おい! どう言うことだよ! 僕の……僕の両親は……お前がッ!」

 頭をかきながら、彼は物陰から出てくると、藪台は言った。

「なに言ってんだお前。俺が()ったのは女だけだ。最初からあの家には女しか居なかったぜ?」

 あぁ、なんと言うこと。全ては最初から間違っていた。

 この二日間。感じていた違和感が、全ては解決して行く。

 僕の家に藪台が居た時、彼は血に濡れては居なかった。それは殺人だったから。でも、研究所で殺しを行ったとき、彼は全身血塗れで嗤っていたじゃないか。

 じゃあその差異はなにか。

 殺人と殺戮による違いだろう。

 ではなにをもって、殺戮と定義するか。僕は人数だと思う。殺しは一人までなら短いスパンでみれば殺人だ。だが同時に二人以上を殺したとき。それはただの一方的な暴力、殺戮と定義されてしまう。

 なんらかの理由によって藪台には血が降りかからない。でもそれが殺人の場合に限った話だとすれば、全ては解決する。

 藪台はこの二日間。一度も両親という言葉を使ってないじゃないか。

 なんてこった。こいつが殺したのは、初めから僕の母親だけだったんだ!

「……真琴。父さんなぁ、金に目が眩んで……罰があたったんだな、あ」

 父さんは一人話し始める。

「もう良い! 父さん喋るなよ。病院へ行こう? まだ助かるかもしれないだろう!」

 だがしかし、もう助からないのは明白だった。血は今も流れ続け、体温も少しずつ失われていっている。

「最初は、な。家族の為だったんだ。ウチの研究所に、資金提供……してくれている会社がな、汀ちゃんを、誘拐して……引き渡せば、大量の金をくれるって言うんだ……」

 そこで言葉を一旦区切り、また紡ぐ。

「最初は、断った、よ。でも、受けなければ、資金提供を切るって言うんだ……それで、引き受けることにした」

 そこで、父さんは咳き込んだ。咳とともに血を口から吐く。それでも、最期に何かを残そうとするように、語るのをやめなかった。

「誘拐はね、簡単だったよ……汀ちゃんとは面識もあったし、ね。真琴にも悪いことを……し、たと思って、る。あとは、クライアントに引き渡せば、それで、終わりだ、ったんだ。でもね、欲望がどんどん膨れ上がってね……もっと金が欲しくなった、気が付いたら、仲間が、身代金を要求するメールを、おくっ、てた。一億だってさ……わらっ、ちゃうよね?」

 そう言いながら、彼はゴロンと、仰向けになった。息をするたびに、ヒュー、ヒューという、嫌な音がする。

「もう、無理しなくていいんだ。父さん。父さんのやったことは許されないことだけど、ここで死んだらその罪だって償えないだろ! 逃げるなよ! 死んで逃げるな! 僕を……置いていかないでくれ」

 そっと、首を横に振って、無理矢理に笑顔を作って、僕に語りかける。

「本当、極悪人だよ。お金を受け取った、あとも、汀ちゃんのお父さんを麻酔銃で、眠らせて、彼女をクライアントに引き渡そうと……してたん、だ、から。本当僕は……ダメな大人だな。父親……失格だ」

 そうして、彼は月に目を移した。

「あぁ、今日は。いい月夜だな……ぁ…………」

 手が、僕の頬を撫でる。無骨な手。夏だというのに、冷え切った手が、僕を撫でる。その手がそっと頭に置かれる。

「真琴。母さん。怒るだろうなぁ……母さん実は弱いから。母さんのこと。よろしく頼んだぞ。男と男の……やく、そ……」

 その言葉は、最後まで言われることなく、中に浮かぶ。

 頭に置かれた手が、力なく地に落ちる。

「父さぁぁん!」

 叫ぶ。吠える。天に穿つ。

 畜生……誰が、誰が父さんを……。

 僕は後ろを向く。藪台尋(さつじんき)がそこに立っていた。

「……ろさなくちゃ」

——殺さなくちゃ。オニはヒトの手によって裁かれなくちゃならない。

 そっと、『無銘』を取り出す。

 藪台に照準を合わせる。

零帝孤愚(れいていこく)

 彼は呟く。

——途端理解する。自分では叶わない。この理不尽な暴力には勝てないのだと。恐怖で手が震える。感情が死ぬ。理性が死ぬ。本能が死ぬ。逃げなくちゃ。でも何処へ? 足が動かない。

 蛇に睨まれた蛙どころではない。そんなたとえが通用する次元じゃなかった。

 冷たい目をした彼は嗤う。

「てめぇ、じゃ俺にはかなわねぇ。守れなかったモノより。今は守れたものに感謝しな。あばよ」

 ぽん、と肩に手を置いて闇へと消える。



◼︎ ◼︎



 俺は理解する。見た瞬間。アレが城森真琴といる光景を見た瞬間理解した。アレが——アレこそが、俺が探し求めてきた最終目的。

「見つけたぞ————神代汀ァ!」

 そうして、舌舐めずりをする。

 この場は預けといてやるよ。メインディッシュは、最後に食べるものだからなぁ?



◼︎ ◼︎



 硬直していた体が緩む。その場にへたり込む。

「……コワい」

 手の震えが収まらない。

 手だけじゃない。身体の震えが止まらない。

 その震えが、背後から静止させられる。

「……ナギ?」

「うん。マコト。助けてくれて、ありがとう」

 そうだ。父さんも。母さんも救えなかった。今僕にはナギしかいない。ナギだけが、僕を救ってくれる。

 そう。君に全てをあげよう。君にだけ。僕の全てをあげよう。

「ナギ?」

「なに?」

「君に……君だけに……セカイを捧ぐ」

 君の為だけにあるセカイ。君に捧ぐセカイ。

 少女はそっと微笑んで、嬉しそうにこう返す。

「ありがとう」



——了——

おぉ。すごい。完結しちゃったよ。

始めて書き切ったよ!(笑)

凄い!俺凄い!

如何でしたでしょうか?

楽しんでいただけたなら幸い。

ふざけんじゃねーよこのとか思われたなら、是非アドバイスを(笑)


君に捧ぐセカイはこの賞で完結と相成ります。次は過去編か次の話か……オニとヒトは結局袂をわかってしまいましたね!

藪台はしばらく出てきません!(笑)


理由は強すぎたから。だってこいつチートなんだもん。


次の話はもっと汀ちゃんがでてくればいいね!謎いっぱい残してあるけど気にしない気にしない。


では!また次のお話にて!

ご愛読ありがとうございました!

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