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ロク章 家族会議

——もう始め(おわっ)てしまうんだね

——もう変えられない

——もう止められない

——あとは転げ落ちるだけ

ロク



◼︎ ◼︎



「なぁ、俺の髪が(あか)い理由。教えてやるよ」

 唐突に、なんの前触れもなく、藪台尋はそう切り出した。

「いいよ、そんなの」

 今はそんな気分じゃない。また僕のせいでナギを救えなかった。今彼女はどうしているだろう? それを考えただけで、僕の心は罪の意識で一杯になる。

「放っておいてくれ」

 先程、光化学迷彩の施された研究所から脱出したのち、彼の車に乗ってナギの家へと向かっていた。

 その道すがら、彼は何度か僕に話しかけようとしていたが、僕はことごとくそのサインを無視し続けた。

 その均衡がついに破られたということらしかった。

「まぁ、いいから。黙って聞けって」

 僕の制止の声を全く聞き入れず、彼は語り出した。

「これはな。贖罪の意なんだ。懺悔の証だ。俺はな、殺人を犯すことでしか生きていけない。十年前から、俺は殺すために生きて、生きるために殺した。俺はそれしか出来ない人間凶器であり、狂気であり、凶気だ。知ってるか? 人が斬殺される時はな、体中から(あか)を噴き出して死んで行くんだ。生命を主張するように、勢い良く血がでる。残った命を辺りに撒き散らすように、自分を殺した人間に血を浴びせながら死ぬ」

 だから、それがどうしたというのだろう。そんな当然のこと、今更確認するまでもない。語るまでもないことだった。

 しかし、彼は続ける。

「……でも、俺にはそれは降りかからない。血は一滴も俺には触れない。それは俺を避けて飛ぶんだ。何故だかは俺にもわからない。だから俺は殺人の重みを受け入れてやることができない。命の重みがわからない。だから殺す。わからないから殺す。いままで一度も、殺した相手に申し訳ないなんて思ったことはない。意識せずに、無意識に殺す。それこそ呼吸をするようにな。——だから俺の髪は紅い」

 理解出来なかった。わけがわからない。こいつは何を言っているのか、こいつは僕になにを伝えたいのか。

 全くわからなかった。

 そんなことより、今はただ静寂が欲しかった。

「だからさ。この色は贖罪なんだよ。俺は血を受け容れてやることが出来ない。その代わりに髪を紅く染めた。血はどうしてか黒くなる。でも罪は時間が経っても変わらない。それと同じように、俺の髪は紅いままだ。飛び散る鮮血と同じように、真紅のままだ」

 藪台は言いたいことを上手く言葉に出来ないのか、困ったように頭を掻くと続けた。

「……結局俺が言いたいのはさ。殺人と殺戮は違うってこと。それと虐殺と目的を持った殺しは違うってこと。……やっぱ学校は行っとくべきだな。全然上手いこと言えねぇや。まぁなんつーか? 元気だせよ。俺はお前が気に入った。お前が彼女取り戻すまでは、協力してやるからよ」

 そう言って彼はニッと笑った。

 あぁ、そうか。やっと分かった。こいつは、僕を慰めてくれようとしていたのか。

 出会ってからまだ二日足らずだというのに、この男は僕を気遣ってくれていたのだ。

 でも。それでも僕の罪の意識は消えなかった。やはりあそこで、『無銘』を使えていれば、その覚悟があれば。今頃はエンディングだったというのに。

 覚悟。その言葉を僕は何回使っただろう。どの場面でも、それは必要な事だったと思う。だがしかし、僕は人を殺す覚悟だけは出来ていなかったらしい。僕の決心はこんなにも生温い。両親を亡くした今、僕が守るべきものなんて彼女しか居ないだろうに。全てを犠牲にしてでも守るべきだろう。

 これは勝手な自己満足かもしれない。他人の犠牲の上に成り立つ幸福なんて、間違ってるかもしれない。いや、間違ってる。そんな気持ちに惑わされて僕は失敗した。

 でも、もう違う。同じ轍は踏まない。弱い自分は死んだ。他でもない僕自身が殺したんだ。そんな風に、僕はかたく誓う。

 朝日が眩しく輝いていた。



◼︎ ◼︎



 日も完全に昇りきり、街が活気に溢れて行く。

 先程まで僕らだけだった道路に、車が増え始め、人々が道を歩き出す。

 夏の暑さも本番だった。

 朝の涼しい時間が終わり、いよいよ灼熱の太陽が僕らを焼こうとする頃に、僕たちは神代の家がある住宅街に辿り着いた。

 上がり続ける気温とは反対に、僕らは移動速度を落とし、ナギの家へと向かう。この辺の道は入り組んでいて分かりづらいためだ。

 余談ではあるが、住宅街と言うのは分かりづらいつくりをしていると思う。同じような建物が並び、道は真っ直ぐに縦横にあるようでいて、少し弧を描いていたりするからだ。そこが住み慣れた場所、よく訪れる場所であるならともかく、初めて行く所、と言うのは異国の地を思わせる所があると思う。僕も、初めてここに来たときは、周りが高級な家ばかりのせいもあるかもしれないけれど、まるで別次元や、御伽の国に迷い込んでしまったような、そんな錯覚を受けた。

 そういえば、隣にナギが居ない状態でここに来るのは初めてかもしれない。

 そのせいか、ここを初めて訪れたときのように、やはりここは少し空気が違う。そんなことを思った。

 甲高い音がした。

 体に圧力がかかる。

 藪台が急ブレーキをかけたのだと気付き、抗議のために、車の外に向けていた視線を彼の方に向けかけてやめる。

 前方に人影があったからだ。

 いつの間にか、天高く昇っていた太陽のせいで、うなぎ登りに上昇した気温によって発生した陽炎で、よくは見えない。

——が、しかし。それが美しいモノであるということ。物であるということ。者であるということ。ただそこに在るだけのモノであるということが、わかりはしない。ただなんとなく解った。

 その少女が、僕を夢の中でボコボコにしてくれた、彼女(・・)と同一であることも、解った。解ってしまった。視認することによって確認出来るわけではない。ただ、脳が直接理解する。

 ただ、ソレはアレとはどこかが、違う……? 存在がどこか薄い。——否、薄いのではない。儚いのだ。存在が儚げで、とても完成(・・・・・)されていた(・・・・・)

 藪台は車をそこに停め、ソレへ歩み寄る。僕も慌てて後を追った。

「おい。お前、皆目かいもくんとこのか」

 近づいてみると、ソレは少女だった。涼しげな、ノースリーブのワンピースに、陽射しを遮るために大きめの麦わら帽をかぶっていた。

 その少女に彼は乱暴に話しかける。どうやら既知の仲らしい。

「……私は皆目前後かいもくぜんごじゃない。でも、皆目前後じゃなくも……ない」

 そんなことを、少女は言った。

「はン! 知ったことかよ、ガキの癖にバカにしてんのか? アン?」

「私は楪華那ゆずりはかな。ガキなんて言う名前じゃない」

「んなこたわかってんだよ、このタコ。それにガキはガキだ。まだおっぱいも充分にねぇくせに生意気言ってんじゃねぇよ」

 気のせいか、藪台は機嫌が悪そうだった。あと、胸は関係ないと思う。

「胸は仕様です。私は在ったときからこの姿のままです」

「黙れよ、殺すぞ」

 そこで彼はため息を吐くと、急に冷静になった。

「それで、今日はどんな用だ。一応言っておくが、俺は、お前らに言われたからやるんじゃないぜ。たまたま利害が一致したから()るんだ。お前らが飼ってるのは、飼い主の言うことばかり聞く、従順な犬じゃねぇ。牙を研ぎ澄ませた餓狼だってことを忘れんじゃねぇぞ」

「そんなことは全てわかっています。皆目前後わたしには森羅万象すべてがわかります。……それに、今日用があるのは貴方ではありません。代守りの方です。貴方は下がっていてください、駄犬」

 なかなか、口が悪い子だった。まぁいい、そんなことより。

「僕に用ってなにかな。えっと、華那ちゃんだっけ? あと、僕の名前は城森だ。君が言うのだと少しイントネーションが違うと思う。細かいことだけどね」

 そう言って、安心してもらおうと僕は笑った。

 細かいこと。そう、細かいことなのだ。いつもなら、多分気にもとめなかっただろう。でも、今は何故か気になった。

「いえ。代守りであっています。代守り、貴方には忠告に来ました。わたしはそんなことはしなくて良いと言ったのですが、皆目わたしが『それじゃぁ、面白くないぜ。何よりフェアじゃないだろう?』などというもので、いやいやながら、この私が貴方に忠告に来たわけです。ありがたく思ってください」

「はぁ、そりゃどうも」

 全く言っている意味がわからないが、とりあえずお礼を言っておいた。

「……では。『敵はすぐそばに』だそうです」

「それだけ?」

「それだけです。これ以上はやっぱりフェアじゃなくなるそうです。……つまり用心しろと言うことでしょう。貴方のご友人にも、家族にも、……そこの殺人鬼にも。では、楽しんでくださいね。皆目前後の博打、大勢の人、生物、無機物を巻き込んだこの——陣取りゲームを」

 そう言って彼女は儚げに笑って、陽炎に紛れて消えた。

「さて、先を急ごうぜ。もうすぐそこなんだろう?」

「おい、ちょっとまてよ! いま、人が消えたんだぞ?」

 動揺をして見せたものの、心の何処かでは納得している自分がいた。

「あいつらはいつもあんなんだぜ。言いたいことだけ言ってさっさと消えちまう。まぁ、気にすんなや」

 そう言って、彼は何事もなかったかのように車に乗り込んだ。

 僕も渋々とその後を追った。

 陽炎が、まだその場で嘲笑うようにユラユラと揺れていた。



◼︎ ◼︎

 

 

 僕は神代家の門前に立ち尽くしていた。

 こうしてみるとやはり大きい。

 ナギを取り返せなかったことの罪悪感もあって、屋敷は余計に威圧を放っているような錯覚を覚える。もちろんおじさんたちには、そんなことは告げて居ないので知っているはずはないのだが……。

「クソッ。やっぱりあいつも連れてくるべきだったか……?」

 僕らは、血がついた服からは既に着替えていたものの、言葉が汚く、ロン毛、派手な赤に髪を染め上げた彼を、僕の友達として紹介するのは抵抗があったので、藪台にはその辺でブラブラしていてくれ、と言って僕一人でここにはやって来たのだ。

「いや、弱気になるな。僕」

 思い切り息を吸って吐いた。インターホンを押す。

〈はい、どちら様でしょうか?〉

 渋い男の人の声がした。きっと執事の方だろう。

「城森です。おじさんから呼ばれて来ました」

〈少々お待ちください〉

 そういって音声が途切れると、門は音もなく開いた。

 つい二日前、僕がここを訪れた時には、まだ何一つ壊れてはいなかった。例えいままで僕が見てきたセカイが、僕の手のひらに乗るようなとてもちっぽけな、本当のセカイの一パーセント未満のセカイだったとしても。それが僕の全てだった。両親が健在で、友達がいて、日曜日が終われば当然のように学校に行って、面倒だけど恋人がいるから学校も頑張れて、放課後少しデートして帰る。

 そんな当たり前の、けれど恵まれ過ぎたセカイを当然のように享受していた。

 けれど、二日前の夜。ナギと別れて帰宅した瞬間から。そのセカイは崩れた。僕のセカイはあんなにも脆かった。今でもあの時のことはハッキリ思い出せる。

 帰宅した瞬間両親が死んでいた。血の量は二人分にしては想像していたより少なかったにせよ、血の海を作る程度のことは容易かった。

 でも今僕は、事もあろうに親の仇と行動をともにしている。それが必要だったからだ。そう、親を殺されたと思ったら、次はナギが誘拐されたと言う。今思い起こしてもあの時の精神状態はまともじゃなかった。まともじゃなかったから、殺人鬼に恋人を助け出す手伝いをして欲しいなんて頼めたんだろう。

 彼がそれを承諾してくれた事は、驚くには値しなかった。だって奴はどうしようもなく『ぼく』だから、『ぼく』はどうしようもなく奴だから。

 僕たちは鏡に映った虚像のように同一であり、全く別物だった。出会った瞬間にそう思ったからだ。

 それからの事は、あまり思い出したくない。まぁ、なににせよ。僕はこうして今ここに立っている。

 玄関に辿り着いた。僕がその扉を開けようとしたとき、扉はひとりでにひらくと、

「マコトくん! 大丈夫だった? 心配したのよ」

 そんな風に言いながら、おばさんが飛び出して来た。

「あぁ、大丈夫です。それより、ナギのことを」

 僕は冷静を装って返す。

「えぇ、そうね。こっちへどうぞ」

 そう手招きされ、先日通された部屋とは違う、リビングのような部屋に通される。

 その部屋は他の部屋に比べると天井が低めに設定され、大きさも一般的な家庭のものより多少大きい程度だった。家具も明らかに高級そうなものが揃ってはいるが、比較的一般家庭に近い配置や、形状のものが多く、なんだか少しホッとした。

 柔らかそうな薄い緑色のクッションに腰掛けたおじさんが、僕を見て、膝丈くらいのガラステーブル越しに声をかけて来た。

「やぁ、いらっしゃい。遠慮はしなくていい、その辺のソファにでも腰掛けて寛いでくれ……と言いたいところなんだけどね。そうもいかないよね。まぁ、とりあえず座ってくれよ。見下ろされたままだと話しにくいし、立たせたままと言うのも気分が悪い」

 そう言うと、彼は自分の正面に当たるソファを指すと、座りなさいと言う風に手を動かしてみせた。

 僕は後ろ手で今入って来たドアを閉めると、指し示されたソファに腰を下ろした。

 おばさんもソファに座る。

 それを確認すると、ナギのお父さん——千を超える子会社を持ち、今の日本を代表する総合電機メーカー、二○○六年に有限会社と言う制度がなくなってなお、未だにその名を変えない、有限会社(・・・・)『World Seeds』。総従業員三十万人以上を抱え、日本の経済はこの会社なしでは成り立たないとまで言われ、今や世界にもその種をうずめつつある超がつくほどの大企業。その代表取締役社長。それが神代竜一郎(かみしろりゅういちろう)という、僕の目の前にいる人に与えられた肩書き(ちから)だった。

 そんな人がいま神妙な面持ちで喋り始めた。

「ナギのことを思う気持ちもわかるけどね、僕は今は君の話を聞きたい。なんたって君は——家族なんだから」

「そうよ。友達のうちに行くのもいいけどね、なんで最初にうちに来てくれなかったの? あなたも何か大変だったんでしょう? 汀のことは、あなたのせいじゃないわ」

 二人とも、何て優しいんだ。でも僕にはそんな優しさを受け取る資格はない。なんたって僕は、親の死体を放置してほっつき歩く大馬鹿ものなんだから。人を殺そうとした奴なんだから。……結局、なにもできなかった無力な人間なのだから。

「いいえ、僕がしっかりナギを止めれていたなら、今回のようなことにはならなかったはずです。本当にもうしわけ……」

 そう言おうとした僕を、おじさんが遮る。

「もしもの話は良いんだ。そんなことをしたって意味はないからね。僕は君の安否を確認したかった。見たところ、肉体的には問題なさそうだけど、精神の方はどうかな? 何かあったんじゃないかな?」

 あぁ……本当に。何て優しい人たちなんだ。無意識のうちに張っていた気が緩む。色々あり過ぎて凍っていた心が溶けて行く。その優しさは僕には眩し過ぎて、でも温かくて、僕は思わず涙を零した。

 この年で泣くなんてバカみたいだけど、不思議とこの時は恥ずかしくなかった。

 それから、僕はポツリポツリとことの次第を話し出した。

 両親が殺されたこと。貰った携帯端末は壊れてしまったこと。藪台の事は黙っておいた。姿は見てないことにした。それから、友達の家にお世話になったということにした。これはあながち、間違いでもないような気がする。

 彼らは一つ一つに頷いて、受け止めながら聞いてくれた。久しぶりに人の温かみに触れた気がした。

『カクレガ』の住人達は、藪台を筆頭に親切ではあったが、あれらは人間を逸脱していた。

 でもこの人たちは違う。普通の人間だ。普通の人。僕も少し前まではそのカテゴリーだったからか、本当に安心出来る。今はもう、多分少し違う。

 だけど、やっぱり。ここにナギが居ないのはおかしかった。彼女は絶対にここにいるべき存在なのだ。

「僕の話はもういいです」

 まだ少し温かみのある、涙の跡を拭う。

「ナギの話をしましょう」

 僕の提案におじさんは頷くと、話を切り出す。

「うん。そうだね。まず、犯人の要求する百万ドルだが、これは用意できた」

 そんなことを淡々と言ってのけた。日本円にしておよそ一億円である。あれからまだ丸二日立っていないと言うのに、彼はさも当然と言うように、それだけの金を用意したと言う。

「それでね、場所は郊外の港。時間は22:00なんだけどさ。これだけの大金をポイと渡してやるのは全く惜しくない。娘のためなら安いくらいだよ。でもね……」

 そう言って、彼は一度そこで言葉を切る。

「百万ドルとかさ、三日以内に寄越せとか言ってもさ、渡せるのって国内じゃあウチくらいだと思うんだ。そこまでわかって誘拐してくれる相手が、じゃあ金もらってさよならってのも信じられないと思わないかい?」

 それは、藪台と同じ思考だった。確かにそうかもしれない。

「いや、そりゃあ百万ドルなんて貰ったら普通はそれでおしまいだろうけどさ。なーんか不安なんだよね。でもメールには一人で来いって書いてあるんだ。お約束だけどね。どうしようかなと思ってさ」

「ボディガードつけたらどうですか?」

「それは、意味がないよ。だってボディガードの存在がばれないように物陰に隠れといてもらわないといけないでしょう? それじゃあ、いざって時守れないよね? 銃で相手を殺すにしろ、多分相手の方が早いよね。だからそれは意味がない」

 そのまま、ああでもないこうでもないと意見を出し合う。刻一刻と時間だけが過ぎて行き、僕がこの部屋に入った頃には、二つの針が天頂を指していた時計は、短針が八を指しても結局良い案は思いつかなかった。

「やっぱりボクが一人で行くしかないよね」

 いやでも、それだとナギを守れない可能性がでてくる。

 それなら。

「僕も行きます」

 もう既に述べた意見だった。

「さっきも言っただろう? それは出来ないよ。君まで危険が及んでしまう」

「でも、僕も黙って見ているだけなんていやなんです。もう無力なのはたくさんだっ……」

 そう。これはやはり僕の責任なのだ。僕が彼女の誘拐を防げなかったし、僕が彼女を取り戻せなかった。おじさんは気にしなくて良い、と言ってくれるけど、やっぱり僕が悪い。

「だから、僕も行きます」

「ダメだ。君はここで待っていなさい」

 平行線だった。それなら仕方がない。

「わかりました。じゃあ警察に電話して、家の状況を伝えます。あのままにしておくのは……ちょっと。それと、一旦家に戻ります。警察に片付けられる前に、ちゃんとお別れを言っておきたいので」

「……そうかい、気を付けてな。じゃあ明日の朝にここにおいで。それまでには全部片付いているだろうから。もちろん今夜戻って来てくれても構わないよ。タクシー代はボクが出すから」

「ありがとうございます。では、また」

 そう言って屋敷を後にする。


 屋敷から出ると、逃げるようにあるく。角を曲がってから、僕の携帯電話を取り出して、藪台にかける。驚くことに彼は携帯電話を持っていた。

〈よう、相棒〉

「やぁ、相棒。今晩のことなんだけどね。僕の彼女のお父さんは同行を許してくれなかったよ」

〈なんだ。じゃあやめるんだな?〉

 表情は見えないが、彼がニヤニヤ笑っているのがわかる。

そんなわけ(・・・・・)ないじゃな(・・・・・)いか(・・)

 多分僕の口元は、奴とは正反対。顔色も非常に悪いだろう。でもその目だけは、きっとあいつと変わらない。

「君もわかってるから、わざわざ僕の後ろにいるんだろう?」

「なんだ、ばれてたのか」

 僕は後ろを振り返る。そこにいたのは車をジープからいつの間に変えたのか黒いベンツに乗った藪台尋だった。

 奴と目が合う。その瞳に映り込んだ僕は、やっぱりひどい顔だった。人を殺すかもしれないから。

「やれやれ、手間のかかる奴だぜ」

「そんなことより、このベンツどうしたのさ?」

「ちょっと永久的に借りてきた」

「それは借りるって言わないんだよ……」

 僕がベンツに乗り込むと、藪台は車を発進させた。まだ夏とはいえ、流石にもう暗い。あたり一面紫の闇だった。

「ちょっと海までドライブだろ?」

 そう、ふざけた調子で彼は言う。

「やめろよ、気持ち悪い」

 そうこれは、ヒトからオニへのドライブなのかもしれないから。

 僕は人を殺すかもしれない。おそらく、高い確率で。

 でも、もしも、僕が殺さなかった時。僕とこいつは多分袂を分かつ。

 そして二度と会うことはないだろう。

 もとよりヒトとオニは相容れない。一緒にいるなら僕もオニまで堕ちなきゃならない。

 黒のベンツは闇に溶ける。

 その日その時、二羽の鴉は漆黒へ飛んだ。


うす!どうもヤマトです!

今回は比較的動きがすくないですよね?

でも何気に新キャラ登場です。

意味わからんと思いますが、お付き合いくださいませ!

君に捧ぐセカイは次で完結ですよ!

でも『君〜セカイ』はもうすこし続けていきたいので応援よろしくお願いします。

やっと完結できそうです!

次回!絶対驚くこと請け合いなので楽しみにしていてください!釈然としないかたもいらっしゃるかも(汗


ではまたー

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